村
ミツカが村に戻り、はじめの頃は大人も子供も浮き足立っていた。カズキは拗ねた態度を続けているが、家に戻り、出された食事は食べるので、時間が経てば治るだろう。
ミツカ達は外で洗濯をしている。イブキは家で古着の繕いをしていると、シュウが顔を出し、半分に割れた鞍を見せた。
「姉貴、馬の鞍が一個壊れた」
「……で?」
「都行くとき連れてってよ」
「わかった」
ここ最近になり、シュウは何かとイブキに着いて行きたがる。そしてその後ろにカズキを中心に子供たちが付いて回ることが増えていた。その反対に、カイや上の男共は何かと外へ出かける日が増えていった。
「シュウ、チビ共が物欲しそうにしてるぞ」
「……さっき石投げやってたんだけど。兄貴達が帰ってきて」
「おう」
「なんか、また物騒になるかもって」
「……じゃぁ馬の世話でも教えときな」
「聞かないから無理」
「じゃー畑にでも行くか。そろそろ苗を植えるべ」
「うん」
シュウが鍬を二本持ち、イブキが苗を入れた籠を持つ。村共同の畑では、女達が手入れをしていた。
「あんたらー。何?やってくれんの?」
「うん。代わる代わる。……空いてるとこでいいの?」
「ああ、端ね、端。……じゃぁ昼餉でも作ってこようかね」
振り返ると、子供たちは居なくなっている。まだ仕事や手伝いを嫌がる年頃なのだろう。
「逃げるの早いなー」
「助かった」
シュウが臆面もなく呟くものだから、イブキは笑うしかない。
「そういや、シュウはカイ達と行かないのかい?」
「うん。毎日狩りしてたら、動物いなくなるだろ」
「……なに?あいつら狩りばっかしてるの?」
「それは知らない。……肉は持ってこないな」
周りに比べてシュウは物静かだが、子供の世話も村の手伝いも嫌な顔ひとつしないので、村の女達も、頻繁に居なくなる男達に頼むよりシュウに頼むことが多くなった。
「イブキは知ってる?都の王様、病気が酷いんだって」
「……へぇ。どっから?」
「兄貴達から。跡継ぎがいないから、周囲も焦ってるって」
「あいつらそんな話ししてるの?」
「うん。都が不安定だから、村荒らしも多くなるかもって」
「……で、お前はどうしたい?あたしは何も変わんないけど」
「こんど、剣を教えて」
土を盛り上げ、そこに軽く穴を掘る。苗を一つ置いて軽く土をかけた。
「カイ達は当てにならないか」
「うん」
はっきりと頷くものだから、イブキは苦笑いしか出ない。
「わかった。仕事がない時間は稽古にあてるよ」
「うん」
「さっさと終わらせるか」
「水持ってくる」
いいのか悪いのか、イブキは少しだけ寂しい気持ちになる。イブキは武術も剣術も半分は生きるために叩き込まれたものだった。けれど、身についた頃には命の危険がなくなっていた。村の人が増えていけば、イブキだけが気張ることもなくなり、ここ数年は平和と言っていいほどだった。
村は平和だが、周囲が荒れてくれば別問題だ。山の中に村があると言っても、村が盗賊に攻め立てられたら逃げるのも一苦労だし、腕が立つからといって皆を守りきることも難しいだろう。シュウが村を守るために覚えたいと言うのなら、イブキは逃げることはできない。
イブキに剣を教えた男も父も、けしてイブキを可愛がろうとはしなかったのを覚えている。ただ逃げるために父はイブキを抱え、生かすために何度も木刀で叩かれたのも覚えている。それが親としての勤めだったのか分らないが、森の中に捨てられることがなかったのは確かだった。昔を思い出すと、重い溜息しか出てこない。
けれど、この村を作ったのも父達だし、村を守る力を与えたのも彼らだった。恨みはあるが一概に彼らを責めることもできなくて、イブキは鬱々としたしこりを知らないフリをするしかできなかった。




