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第六話 ブラはサイズをちゃんと測っておかないと着けにくいし、ノーブラで抱きつくなんてご褒美以外の何物でもないから、私以外にやっちゃダメなんだからね(役得)

前回のあらすじ  『別れを告げた元彼に会って、その喪失感と罪悪感で心が死にそうになりました(埋めてください)』



赤い目のままバスを降り、その足で真の家に向かう。

私と真の家は、歩けば5分と掛からない。


それでも、今日は足が重い。

心のどこかで、


『この道が、真の家に続いてなければいいのに』


なんて考えてしまう。


…自分で決めたことなのに…。


もう一度、涙が溢れそうになるけれど、慌てて奥歯を噛みしめる。


だめ。

ここで崩れたら、意味がない。


…でも、苦しいなぁ…。


陽太と過ごした日々が、頭の中に浮かんでは消えていく。

告白された日のこと。

初めて一緒に出掛けた日。

カフェで一緒に食べたランチ。

初めて手を繋いだ時の、あのぎこちない温もり。


彼の笑顔。


…でも。

どこかに少し距離を感じていた。


…彼が距離を取ってたんじゃない。

私…だったんだな…。


結局、私のわがままが、陽太を好きにならせなかった。


…最悪だわ、嫌な女…。


鳩尾のあたりにじわじわと広がる不快感を押さえながら、気が付けば、私は真の家の玄関に立っていた。


『しっかりしなきゃ…。誰が真を支えるの?』


自問しつつチャイムを押す。

すぐにドアが開いた。


「おかえり、瑠璃。さ、上がって」


その顔は、思ったよりも元気そうだった。


昨日の、押し潰されそうな不安に満ちた表情とは違う。

少しだけ、いつもの真に戻っている。


「え?……あ、うん。お邪魔します」


真に促されて、部屋に通される。


ふたりっきり。


…なんだか、この部屋に来るのも久し振りだな。

昔は毎日のように、ここで遊んでたのに。


でも、昔の面影は残るものの、変わってしまっているのね…。

男物の服、大きめの上着。

剣道の雑誌、他にも漫画や小説。

ポスターにはアイドル。


……ああ、ここは“男の子の部屋”だったんだなって、改めて思う。


そのベッドに、ふたりで並んで座る。


昨日だったら、


『部屋でふたりきり、しかも両親不在!?これはもうイベント発生でしょ!?』


って、絶対テンション上がってた(確信)。


でも今日は、無理だった。


…どうしても、陽太の寂しそうな顔が、頭から離れない。


『…ごめんね』


もう何度目だろう。

謝ったところで、もう元には戻らないのにね。


「…瑠璃」

「…」

「瑠璃ってばっ」

「え?あぁ、ごめん。…なんだっけ…」


小さく息を吐いて、優しい目を向けてくれる。

不意に肩に手が伸び、互いの身体が触れるほどに抱き寄せられた。


「ひゃっ!?…ま、真?いきなり…どうしたのよ」


彼…彼女の身体に体重を預けていれば、肩を抱いていた手が離れ、今度は頭を撫でてくれている。

ただただ優しい目をして、ずっと撫でてくれる…。


「瑠璃…ごめんね」

「…え?」

「彼氏とのこと…俺がこんなことになったばかりに、別れることになっちゃって…」

「……真のせいじゃないわ」


優しい手…。

ああ……そうだ。

真って、昔からこうやって慰めてくれた。


怒られた時も、泣いた時も。


変わってない。

何も変わってない。


……変わったのは、私の方だ。


…真も泣きたいでしょうに、それでも私のことを気遣ってくれる。

優しいな…。


私は、そんな優しさも無かったんだな…。

身勝手で、表に出さないようにしてただけで我儘なのは小さい頃から変わらなくて。

人の心なんかわからない、どうしようもない女なのね…。


気が付けば、真の胸に顔埋めて泣いていた。


どれくらいの間、泣いていたのか。

真のシャツを涙で濡らし、やっとの思いで目を上げれば、優しい瞳の真の顔が見える。


あなたは、こんな私を拒まないでいてくれるのね…。


大きく息を吐き、もう一度、真の胸に顔を埋める。

…包み込まれるような感触…。

柔らかな…いい香り。


はぁ…。


大きく息を吸えば、肺の中まで真の香りで満たされるようで…。


はぁ…。


もう一度。


あぁ…満たされる。

それに、この柔らかさ…柔らかさ?



「…真…ブラは??」


胸に抱き着いたまま、少しだけ顔をあげて問えば、少し気まずそうに顔を背けてしまう。


「…その…窮屈でさ。…外しちゃったんだ…」


……外した。


つまり。


ノーブラで。


私を。


抱きしめている。


「ありがとうございますっ!?!?」


改めて真の胸に顔を埋めて、念入りに頬ずり。

もう、この柔らかさっ!

服の上からでもわかる、この弾力っ!

抱きしめるほどに頬に伝わる、この圧倒的な抱き心地っ!


もうっ!


全てがっ!


大好きだわっ!!


「…ちょっ!な…何言ってるのさ、瑠璃っ!?」


顔を真っ赤にして慌てる真の愛らしさ…。

あぁ~~~………っ!


そう、これは真が私を慰めてくれてるのっ!

彼氏と別れて傷心中の私を、真の真心が包んでくれてるのっ。

そう、きっとこのまま、ベッドの上で私の心を癒してくれるのねっ!!


私はいつでもOKよっ!!


両肩に添えられる、真の手…。

そして、僅かに力が加わり、そのまま…。


ぽすんっ


ベッドの端に座らされていた。

横には、優しい顔のままの真。

私に涙が無いのを見て、小さく頷いてから優しく手を取ってくれた。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「……瑠璃。俺のせいで悲しい思いさせて、ごめん」

「……」

「でも……俺のことは大丈夫だから」


嫌な予感がした。


「彼氏と、ちゃんと仲直りしてきなよ」


……は?


思考が止まる。


いやいや、なんで?


「病院でもさ、すぐにどうこうなる話じゃないみたいで……紹介状書いてもらって、大学病院で検査することになると思うんだ」


淡々と続ける真。


「しばらく通院か、場合によっては入院になるかもって言われて……」

「……」

「だからさ。こんなのに瑠璃を巻き込むわけにはいかないし」


……違う。


なんか、全部違う。


「俺のことは気にしないでいいから、瑠璃は瑠璃の生活を大事にして」


違う。


「ちゃんと話せば、また元に戻れるよ」


違う違う違う違う!!


「もし……戻れなかったとしても、その時はその時でなんとかするし」


だんっ!


気が付けば、床を踏み抜くほどの勢いで立ち上がっていた。

拳が震え、涙が溢れる。


「私じゃ頼りにならないの!?」


声が勝手に出た。


「こんな状況で、全部一人で抱え込むの!?私には何も言わないで、勝手に全部決めて……!」


止まらない。


「私、そんなに信用ない!?そんなに頼りない!?」


真が、言葉を失う。


そんな顔、初めて見た。

でも止められない。

私はそのまま思い切り抱きついた。


「無理しないでよ……!」


声がぐちゃぐちゃになる。


「私にも、力にならせてよ……お願いだから……!」


肩に顔を埋める。


「大好きな真が、こんなことになって……離れろなんて無理に決まってるでしょ……!」


腕に力が入る。


「お願いだから……強がらないでよ……!」


しばらくの沈黙。


そして、ゆっくりと真の腕が私の背中に回り、抱き返される。

少しだけ離れようとしたけど、今度はしっかり引き寄せられた。


肩に、重み。

……震えてる。


「……ごめん……怖かったんだ」


ぽつり、と。


「全部変わっちゃって……どうしたらいいかわかんなくて」


……ああ。


「……でも、瑠璃にまで背負わせるのが怖くて……」


泣いてる。


真が。


泣いてる。


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― 新着の感想 ―
瑠璃の感情がすごくリアルで、読んでいて胸にきました。 ひとつひとつの心の動きが丁寧に描かれていて、とても引き込まれました。 続きも楽しみにしています。
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