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第五話 勢いって大事だけど、改めて振り返るととんでもないこと決断したってなるから、冷静でいられてない時はやっちゃダメ

前回のあらすじ  『家族会議の場でも妄想は漏れ出すけど、普段の信用があるおかげで真と一緒にいられることになった。これってもう結婚したも同然じゃない?(違う)』



週明け、月曜日。

今日、真は病院へ行く。

とは言え、掛かり付けの病院でわかることばかりではないだろうし…どうするのかな?

やっぱり紹介状を書いて貰って、大学病院とか、大きな病院で精密検査とかいろいろするのかしら?

場合によっては入院とか…。


…心配、よね。


『朝起きたら、女の子になってました』なんて、どこの病院にかかっても、真面目に聞いてくれないかもしれない。

原因だって、わからないかもしない。

元に戻る方法だって、そう。


これから先のことも心配だけど、目の前にも難題があるのよね…。


バス停から学校までの坂を歩きながら、これからの事に思いを馳せる。


女の子になってしまった真の心労。

おじ様、おば様の苦労。

慣れない生活の中で、起こるであろうすれ違い。


他にも、その時になってみなければわからないことなんて、恐らく山ほどもあるはず。


…がんばろう。


私が真を支えるんだ。


彼の…あぁ、今はもう女の子だから彼女の苦労を、少しでも減らしてあげるためにも。


そして、慣れない身体で、しかもまだ心は『思春期真っ盛りの男の子』なんだもの。

どれだけ気持ちを抑えられるかわからないでしょうし、そこも私がフォローしてあげなければならないわ。


あぁ、どんなことになるのかしら…。


女の子の身体のことや、生活のこと、いろいろ教える中で、きっとふたりきりでいる時に、ベッドに押し倒されたり、キスされたり、それからそれから…。


ううん…


むしろっ!


私がっ!!


押し倒したいっ!!!(超本音)



あぁ~~~…っ


女の子になった真、可愛かったなぁ…。

あんなの、絶対みんな好きになるじゃんっ。


そう、そうよ…。


昨日は夜中まで冷静になれず、どれだけ…発散シたかわからないくらいだけど、改めて冷静になってみれば、あんな可愛い子、男どもが放って置くわけないわ。

…もちろん、真がすぐにOK出すほど軽い子だなんて思わない。

でも、あれだけ優しくて気遣いが出来て人の気持ちに寄り添えるいい子なんだから、相手の気持ちに絆されて…なんてことも無いとは言えない。


…そうよね。


普通に考えれば、真がモテない理由なんてないのよね。


優しくてカッコよくて、勉強は…まぁ中の上くらいだけど、剣道部で頑張ってて、先輩にも引けを取らないくらいの実力の持ち主。


一生懸命な姿に、黄色い声が飛んでるのも何回も見たっけ…。


笑顔が可愛らしくて…私が知らないだけで、きっと何人もの女の子が、告白してるんじゃないのかな…。


で、今度はその立場が、女の子になるわけ。


絶対モテる(確信)。


真が他の人のものにならないよう、私頑張るわっ!


決意を新たに足を進めれば、すぐに学校の門が見えてくる。


――そして。


そこに立つ人の姿を見た瞬間、私の足は止まった。


胸の奥が、ずきりと痛む。


少し俯き、目を逸らす。


さっきまで浮かれまくっていた頭が、一気に冷えていくのがわかった。


真のことを思いながらシたことも、今この時ばかりは罪悪感に塗り潰される。


それでも……。


唇を結び、少しだけ微笑みながら、私は彼に向き直った。


「…おはよう、陽太」


真剣な目で見つめられ、少しだけ俯く。

胸の奥が、まるで締め付けられるよう…。

無意識に、空いている片手で己の身体を抱きしめていた。


「…おはよう、瑠璃」


寂しそうな瞳…。

その視線だけで、胸が苦しくなる。

一昨日までの幸せな時間が、いきなり崩れ去った彼にしてみれば、納得など出来るわけもない。

他の人の行いならば、私とて非難するだろう。



でも。


…私が言えた義理じゃないわね…。

むしろ、罵ってくれた方が楽だった。


なのに。


陽太は小さく息を吐くと、無理にでも笑顔を作ってくれた。

その優しさが、痛い。


「何があったかなんて聞かないよ」


静かな声。


「昨日、電話で話した時、瑠璃の声が揺れてた。……だから、何かあったんだろうなって思った」


胸が苦しくなる。


「……ごめんね」


それしか言えない。


陽太は少しだけ視線を落として、それからまた私を見た。


「俺、正直、すごくショックだったよ」


その言葉に、心臓が止まりそうになる。


「でも、それ以上に……瑠璃がそんな顔してる方が辛い」


…優しいな。


残酷なくらい優しい。


「……わけは、言えないの……でも、これだけは信じてっ。私は陽太のことが嫌いになったんじゃないの。むしろ、私なんかを好きになってくれて……感謝してるの。でも……でもね……」


声が震え、涙が滲む。


陽太は少し黙って、それから苦く笑った。


「……やっぱり、そういう人がいたんだね」


その言葉に、私は何も返せなかった。


否定も、肯定もできない。


真のことを言うわけにはいかない。

でも、嘘もつけない。


沈黙が答えになってしまった。


陽太は目を伏せ、それからぽつりと言った。


「…前から思ってた。俺じゃ、瑠璃と釣り合わないって。だから、気にしないで。……瑠璃は、瑠璃の好きな道を進みなよ。…またどこかで、道が重なる時があれば、またその時は一緒に歩こう?」


その言葉に、堪えていた涙が零れた。


…釣り合ってなかったのは、私の方なのに…。

私にはもったいないくらいの人なのに。私は…私は…、なんでこの人を好きでいてあげられなかったんだろう…。

陽太の幸せを壊してまで、私は私のエゴを貫くの?


でも、もう戻れない…。


戻る資格なんて…ううん、最初からそんな資格なんて無かったんだよね。


「…ごめんね…」


それだけしか、私は言えなかった。

小さく頷くと、陽太は背を向け、校舎へと向かった。


周りの喧騒の中、ただ立ち尽くす。


昨日電話した時には無かった喪失感が、実体を伴って襲って来たように感じられる。

心に穴が開くとは、よく言ったものだ。


いくら真のことが好きでも、陽太には陽太の良いところはたくさんあったんだし、そもそも比べる事なんて出来ないはずだった。


それなのに…。


ふらりふらりと、糸の切れた凧のように、おぼつかない足取りで教室へと向かう。


…終日、私は正体を失くしていた。


授業で何を話していたのか、まるで覚えていない。

お昼に、友達の柚葉や碧さんとお弁当を食べたけど、味はしなかったし、話だって聞こえていなかった。


夕方になって、バスに揺られながら帰っている最中に、スマホにLineが入る。


『今病院から帰ったよ』


真からだった。


その短い文字を見た時、また涙が溢れて来た。

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