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008-あたしはダークエルフよ!

 倉庫部屋の階段を下りてから三十分程が経過した。

 やはりと言うべきか、学校の下には洞窟のような地下空間があった。

 しかも、町長の家と繋がっていたものと同じように岩の地面も均されていた。

 そのお陰で、奥へと進むのは意外と楽だった。


 既に二キロメートル前後は移動したはずだ。

 そろそろ接敵しても不思議ではない頃合いだね。


『ねえ、アイネス、結局のところ、こうなってしまった原因って何だと思う?』


 そもそもの始まりは、教室の黒板に書かれていたという僕への殺意……。

 はじめは僕と優凛タンの関係に嫉妬したキモオタの犯行だと思っていたのだけれど……。


 でも、アイネスの調べでは犯人は校長先生らしいんだよね。

 多分レプテリアンなんだろうけど……。


『……分からないわ。でも、そうね……グラビアアイドルなんかをやっている優凛が一番悪いんじゃないかしら』


 アイネスって優凛タンに対して辛辣(しんらつ)な時があるんだよね。

 かと言って、嫌っている訳でもなさそうなんだけれど……。


『アイネス……それはあんまりなんじゃないかい?』


『あら、正直に質問に答えたつもりよ? そんな事より、諸々の準備は整っているのかしら?』


『って事は、そろそろなんだね、了解!』


 百メートル程進んだ。

 すると、洞窟は左右二手に分かれた。

 僕達は右を選び、先へと進んだ。


 二十メートル程の曲がりくねった緩やかな登り勾配。

 それを登りきると……。


「誘い込まれていたとも知らずに……ガハハハ……馬鹿ですねえ!」


 薄暗い光で照らされた巨大な地下空間……。

 その中央には半レプテリアン化した化け物が立っていた。

 顔はほぼ校長先生のままだけれど、身体は一回り大きくなり、腰の辺りからは巨大な尻尾が生えていた。


『――ア、アイネスっ!』


『うふふ……このまま進むわ。それより、注意して……後からも来るはずよ』


 ――は、挟み撃ちっ!?


 でも、アイネスを信じるしかないよね?

 余裕があるから、うふふな氣分なんだよね?


『りょ、了解っ!』


「あら、馬鹿は貴方の方よ? ハゲの癖にあたしに喧嘩を売るなんていい度胸しているわ」


「ガハハハ……お前達に勝ち目など――――あるはずなかろうがぁぁぁぁ!」


 後方からレプテリアンが三体現れた。

 全て二メートルは超えているであろう巨体だ。

 俊敏な動きで横一列に並び、僕達の退路を塞ぐと、その中央に立つ一際巨大なレプテリアンが威嚇するように野太い叫び声を上げた。


 瞬時に紫色の魔法結界(バリア)が僕達を覆った。

 アイネスは短剣を抜くと、それを前方へと突き出した。


「あのハゲはあたしがぶっ殺すわ。ステファン、貴方は後ろの三体を何とかしなさいっ!」


 ――えぇぇぇぇぇっ!


 でも、ごねてる場合じゃないよね?

 これって殺らないと殺られちゃう場面だよね?


 などと思っていると、アイネスからの念話が入る。


 きっと素晴らしい作戦があるんだよね?


『ステファン、さっき教えた事を覚えているわね?』


『腰を落として構え、心は冷静に……だよね?』


『ええ、その通りよ』 


 ――そ、それだけ?


 指示には従うけどさ。

 魔法結界の外には絶対に出ないよ?


「……中学生のガキにあの三人を……だと? ふざけるなぁぁぁぁぁあっ!!」


 校長レプテリアンが全身を回転させた。

 巨大な尻尾が弧を描きながら襲い掛かって来る――――!


「ふっ――――所詮ハゲねっ!」


 次の瞬間、キーンという金属的な斬撃音が響き渡った。


 アイネスは猛烈なスピードでぐるっと横に一回転した。

 水平に振られた短剣は、僕の頭上を通り抜け、元の位置まで戻ったところでピタリと止まった……。


 恐らくそうだったはずだ。

 だからこそ、僕の目の前にはこんなにも凄惨な光景がっ――――!


「――さ、三体のレプテリアンが……い、一瞬で真っ二つ……に!?」


「ギャリュゥゥゥンッ!」


 校長レプテリアンが怒りの咆哮を上げた。


 赤黒く染まってゆく岩の地面――――。

 切り落とされた尻尾がのたうち回っている。


「一応聞いておくわ。どうして黒板に落書きなんてしたのかしら?」


「ンガァ……貴様等人間如きに……我等の計画を……お、教えてなるものか……」


「計画……? 高がグラビアアイドルが……夢幻優凛がそれに関わっていたとでも言いたいのかしら?」


「ガハハハ……言ったはずだ…………貴様等人間如きに――――ンギュバッ!」


 手首を返す程度の僅かな動作だった。

 たったそれだけでアイネスの短剣からは斬撃が放たれ、校長レプテリアンを胸の辺りで真っ二つに切り裂いてしまった!


「……あたしはダークエルフよ!」





 現在マキアとルキアがこっちに向かっているんだってさ。

 途中でアイネスと落ち合い、不可視化の魔法か何かを使って校内に侵入する算段らしいよ。


 そしてその後は、学校の地下にあった洞窟などの調査……かな?

 アイネスは何も言ってなかったけど、それ以外にエルフ姉妹が態々こっちに来る理由なんてないよね?


 そんなこんなで、待ち合わせ場所の校舎の屋上から周囲の景色を眺めていたのだけれど……。

 あっという間に飽きちゃった。

 こんな時は寝てしまうに限るよね。


 腰をコンクリートの上に下ろし、そのまま後ろに……。

 すると、後頭部からは心地の好い柔らかな感触が……。


「……ナイスタイミングだね、アイネス」


「膝枕……好きだったわよね?」


「……誰が?」


「ステファン」


「うん、嫌いじゃないけど……そんな話をアイネスとした事あったっけ?」


「ええ……確か『王族だって膝枕は嫌いじゃない』って言っていたわ」


「――そ、それ違うステファンだろがっ!」


「……ふふっ」


「な、何で今笑った?」


「だって……ちょっと面白かったのよ」


「ちっ、まいっか……で、今どんな感じなの?」


「マキアとルキアは校内を散歩しているわ。ちょっと興味が湧いたそうよ」


「……散歩ね」


 僕は二人が来るのを待っているのだけれどね。

 とっとと調査を終わらせて、お昼ご飯を食べて、その後はゆっくりと寛ぎたいよね。


 でも、まあ、二人の氣持ちもちょっとは理解できちゃうし……。


「それと、優凛がこっちに向かっているわ」


「え? 優凛タンが?」


「ええ……黒板の落書きの件で念話を入れたら、始業式が終わり次第こっちに来るって言っていたわ」


 イグジスト女子の四人……その中でも優凛タンとだけは何故か念話が繋がらない。

 その他の三人とは結構簡単に繋がるのだけどね。

 優凛タンが元々人間だったのがそもそもの原因なのかもしれないね


 でもね、四人の間ではそうではないらしいんだ。

 通常の会話と同じような氣軽さで意思の疎通が可能なんだってさ。


 それってズルいよね。

 僕も優凛タンと念話友達になりたいよ。


 因みに、複数人での念話は基本的にはアイネスの役目だよ。


「ふーん……じゃあ、優凛タンも一緒に潜るんだね?」


「え?」


「……え? 調査には参加しないの?」


「調査……?」


 あれ?

 会話が噛み合っていない……よね?


 調査をするからこの場に皆が集まるんだよね?


「えーと……アイネスは何をする為に屋上に来たの?」


「兎に角お腹が空いているわ」


「まあ、確かに…………で?」


「優凛が聞いてきたのよ、『ステファン君は何弁当が好きなの?』って」


 アイネスの顔は至って真面目。

 少なくともふざけている訳ではなさそうだけれど……。


「えーと……つまり、どういう事?」


「あのね、今日は天氣が良いから、校舎の屋上で皆でお昼ご飯を食べる事になったのよ」


「へー……」


 ちょっと暢氣過ぎない?

 僕は校長先生がレプテリアンで、これでも結構ショック受けてんだよ?


「にしても……この程度の事すら推測できないなんて、ステファンったら随分と鈍いのね……うふふ……そんなんじゃ闇夜で蠢くあの組織に殺られちゃうわよ?」


「――それ違うステファンだろがっ!」


「ふふふ……まあ、そういう訳だから……貴方は何が食べたいのかしら? 優凛に念話を返さないといけないから早く教えて欲しいわ」


「その前に一応聞いておくけど……学校の地下とかの調査って僕達がやるんだよね?」


「ああ……それだったらドワーフ達に任せたわ。セイクリッドネストから掘り進めば、数時間で繋がるはずよ」


 それを一番最初に報告して欲しかったよね……。


 あれ?

 全部僕の勝手な思い込みだった感じ?


「……あ、そうなんだ」


 タイミング良く、町内に響く十二時のチャイムが鳴り始めた。

 すると、凄まじいまでの勢いで屋上の扉が開かれた。


 上半身を起こし、きっと腹ペコの状態で駆け込んで来たであろうエルフ姉妹へと笑みを向ける。


「あははは……そんなに腹ペコに――」


「そ、それどころじゃありませんわ、ステファン様。ル、ルキアが生徒達に囲まれてしまいましたわ」


「――な、何だって!」


 か、かなり不味い状況だよね。

 こんなところにエルフが居ちゃ不味いよね。


「ステファン、どうするの?」


「うーんと……あれ? 不可視化の魔法は?」


「アイネスが幻覚系の魔法を掛けてくれましたわ。それに制服を調達していますので外見上は問題ないかと……」


 あ、ホントだ。

 耳の形が変わると意外と普通だね。

 制服も似合っているし……。

 でも、中学生にしてはちょっと氣品があり過ぎるかな。


 あれ?


「えーと……何が問題なんだっけ?」


「で、ですから、ルキアが――」


 二人が校庭を歩いていたら、足元にボールが転がって来たそうだ。

 そしてそれをルキアが投げ返したら、あまりの遠投力にソフトボール部からスカウトされてしまったらしい。


 アイツ何やってんだろう……。


「ステファン、早く決めるべきだと思うわ」


「うん、分かっているよ、アイネス。えーと……そうだな、兎に角マキアはルキアを連れ戻して来てよ。ソフトボール部の誘いなんて適当な理由を付けて断っても全然問題ないからさ」


「りょ、了解! では、失礼致しますわ!」


 僕に軽くお辞儀をしたマキア。

 踵を返すと、来た時以上のスピードで屋上を立ち去った。


 そういうイグジストならではのずば抜けた身体能力を隠して欲しいんだよね。


「ふふ……セイクリッドネストに戻ったら、ルキアとマキアには一般的な中学生女子の常識を叩き込まないといけないわね。でもね、ステファン、そうじゃないのよ」


「え? じゃあ、アイネスにはもっとベターな解決策が思い付いた感じ?」


 アイネスの能力はあらゆる面で長けている。

 ならば、彼女の意見は聞いておくべきだよね。


「だから、そうじゃないわ。優凛が『早く決めないと、お子様弁当にしちゃうぞ!』ってさっきから五月蠅いのよ」


「…………えっ?」


「だから、早くお弁当を決めて欲しいのよ」


 そう言えば、そんな話をしていたね。

 でもさ…………ねえ?


「……マ、マイペース過ぎない?」


「ええ、知っているわ。だって、ステファンがそのセリフを口にするのって……かれこれ十回目よね?」


「――ぼ、僕は初めてだよっ!」




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