005-謎の怪物
切り株山の地下空間……。
その最深部と階段で繋がるマキアとルキアが待機していた階層にやって来た。
あ、連行されてね。
おかしいよね?
だってさ、僕って最弱のイグジストだよ?
スライム人間の優凛タンの方が百倍強いよ?
謎の地底人が攻めて来るかもしれないんだよ?
自宅待機が妥当だよね?
「ねえ、アイネス、僕がここに居たら四人の邪魔に――」
「分かっているのなら、あたし達の邪魔をしないで欲しいわ!」
「もう、ステファン君……見れば分かるでしょ? 今は作戦会議中なの!」
二人の視線が残酷な程に冷たいよ。
マキアとルキアなんて、視線すら向けてくれない。
僕はね、君達の創造主なんだよ?
~十分後。
作戦が決定した。
何故か僕も参加する羽目になってしまった。
でもね、金魚の糞のように皆の後を付いて行く事ぐらいしかできないよ?
ミニドレスを脱ぎ捨てたアイネスを見るのは久しぶりだ。
黒のビキニアーマーを装着したその姿は、魔法使いと言うよりかは女騎士のようだ。
腰に巻かれたボディチェーンの煌めきがちょっと大人な雰囲氣を醸し出している。
アイネスは瞳を閉じ、深呼吸をすると、最深部へと続く階段の方へと歩いてゆく……。
そこから吹き込んできた風が彼女のツインテールを揺らす。
すると、既に準備が整っていたマキアとルキアがその後を付いてゆく。
白地に金と、青地に金のビキニアーマー……。
それぞれがエルフの氣高き血筋である事を物語る。
そんな三人を、長い髪を靡かせ、グラビア立ちで待ち構えていた優凛タン……。
大人可愛いチュニックから伸びた白い脚が何ともセクシー。
やがて、その前を通過した三人をグラビアウォークで追いかけてゆく。
僕の前を颯爽と通り過ぎてゆく四人……。
美しきヴァルキリー達の出陣だ。
だが、違う!
僕の感性が「これでは勝てない!」と叫んでいる。
「ねえ、優凛タン、そうじゃないよね?」
「え? 私何か間違ってる?」
「うん、間違ってるね。そんな格好……僕は認められないよ」
すると、アイネスが歩みを止めた。
「……その点に関してはステファンに同意するわ。でもね、優凛は戦闘用の装備なんて持ち合わせていなかったのよ」
「うん、そうなんだ。それにね、単なる見回り調査だから、アイネスも今回に限り目を瞑ってくれるって……」
「ええ……それに、戦闘は可能な限り回避するって事になっているでしょ? だから、今回だけは……」
アイネスにも少しばかり迷いがあるようだね。
ならば、強氣な態度で押せば、僕が望む未来を創造できるはずだ!
「アイネス・ダークネスよ……本当にそれでいいのか?」
「うっ……た、確かにベストとは言い難いけれど……」
「むふふ……だろ? 装備というのは重要だ……やはり優凛タンには水着でも下着でもいいからビキニアーマーっぽい格好をしてもらわねば、僕のやる氣が――」
「――ま、真面目に聞いたあたしが馬鹿だったわ!!」
崩れ落ちた岩壁の破片を乗り越え、発見されたばかりの未知の領域へと足を踏み入れてから三十分程が経過した。
想像していたよりも遥かに広大な地下空間が続いていた。
長い洞窟のようだったよ。
でもね、地面は平らに均されていたんだ。
だから、移動は楽だったけど……。
何者かの手が加えられている。
それは間違いないね。
かなり奥まで進んだはずだけど、まだまだ終わりは見えない。
でもね、見た目はかなり狭まった。
左右の岩壁にも天井にもジャンプすれば手が届いてしまいそうな氣がする。
あ、アイネス並みの身体能力があればね。
「この括れた狭いエリアを通り抜けた先には広い空間があるそうよ」
きっとアイネスは先行しているマキア達から情報を得たのだろうね。
タイミングは悪くない。
と言うか、ベストかもね。
だってさ、慣れない事をすると異様に疲れるでしょ?
「やったー! じゃあ、その辺りで一旦休憩しよう!」
「うん、僕も優凛タンに賛成!」
笑みを浮かべながら、こちらを振り向いたアイネス。
何かを言おうとしたみたいだけれど、そのまま沈黙……。
きっとマキア達から念話が入ったのだろうね。
次の瞬間、アイネスの表情がみるみる緊迫したものに――――!
「――マキア達が接敵したわ!」
「せ、接敵? って事は……」
「ええ、敵意ある何らかの生命体が――――なっ!」
驚愕の声を上げたと同時に、アイネスはその表情を一変させた。
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括れたエリアを通り抜けた途端、マキアとルキアの前方に広大な地下空間が現れた。
姉妹は二手に分かれ、凡その広さを調べる事にした。
マキアは左手で、そしてルキアは右手で岩の壁をなぞりながら前進を始めた。
二人の前方に広がるのは何処までも続く漆黒の闇……。
だが、魔力で強化された彼女達の瞳ならば、半径十メートル程は視認可能だ。
暫く進むと、マキアの前方の暗闇で微かな音が発せられた。
硬く小さい何かが岩の壁に衝突したような、そんなような音だ。
一、二歩進むと、岩の壁に薄っぺらい物体が突き刺さっているのが視認できた。
鱗のような形をしたものが横一列に三枚……。
その列が一秒ごとに成長してゆく。
四枚、五枚とその数を増やしながら、マキアの喉元へと迫り来る――――!
「――――っ!」
後方へと数メートル程跳躍し、素早い動作で身を屈めたマキア。
ほんの一瞬だけ動きを止めた後、静かに後退を開始する。
恐らくは、その一瞬の間に意識を集中させ、念話を繋げたのだ。
アイネスを含めた三人で随時連絡を取り合う手筈になっていた故に。
後退しつつ、冷静に状況報告を続けるマキア。
そんな彼女の表情が突如一変する。
「――ル、ルキアァァァァァッ!」
マキアの悲鳴のような叫びが漆黒の闇の中に木霊した。
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激しい剣戟のような音が急速に近づいて来た。
マキアとルキアが何者かと交戦中であろう事は疑う余地もない。
アイネスの身体を包んでいた紫色の魔力が瞬時に膨張したかと思うと、ドーム状の魔法結界が出現した。
あの小説……【夜明けのストラーダ】の設定通りならば、これを剣で貫くのはほぼ不可能なはずだ。
僕達三人は鉄壁の守りの中でマキア達を待つ。
「アイネスにはマキア達が見える?」
「いいえ、見えないわ。恐らく、まだ百メートル以上離れて――」
「なっ! こ、この感じは――――!!」
「どうしたの、ステファン?」
「……エ、エイリアスが……ルキアのエイリアスが…………ぼ、僕の中に……戻っ……た!?」
こんなのは初めての感覚だ。
と言うより、あってはいけない感覚だ。
イグジストであるはずのルキアが再びエイリアスの状態に戻るなんて……。
「え? ルキアのエイリアスが?」
「うん、間違いない…………ど、どうしてこんな事が?」
すると、アイネスは表情を悲痛なものに変え、呼吸を荒くした。
だが、首を数回横に振ると、冷静さを取り戻し、静かに喋り始める。
「……先程三人で念話をしていたのだけれど、突然ルキアの苦し氣な声が聞えたかと思ったら、その直後には念話がプツンと途切れてしまったのよ」
「なっ……そ、それじゃ……」
「状況から推測すれば、恐らくルキアはあの暗闇の中で現在マキアと交戦中の何者かにその命を……」
「な、何だって! こ、この僕があんなに頑張って現界させたルキアを……」
猛烈なる怒りがこみあげて来た。
氣が付けばルキアのエイリアスを纏っていた。
ファンタジー世界のキャラならではの感覚を全身で感じている。
猛烈なまでの超人的感覚……。
ちょっとジャンプしただけでも十メートル位は飛べそうだ。
「ス、ステファン君……だよね? 何をするつもりなの?」
「優凛姉、ボク頭にきちゃった……」
やはりエイリアスを纏うと、声も喋り方も変わるようだ。
こうして思考する分には僕のままなのだけれど……。
「――二人共、もう間もなくよ!」
何かが魔法結界に衝突した。
きっとマキアが躱した敵の攻撃……流れ弾みたいなものだろう。
地面には弾かれた薄っぺらい金属片のようなものが落ちていた。
直径五センチ程の鱗のような形をした物体だ。
すると直ぐに、暗闇の中にマキアの姿が浮かび上がった。
猛烈なスピードで後退しつつ、飛来する鱗を正確な剣捌きで完璧に防いでいる。
魔力で強化されたこの瞳だからこそ、それが見えるのだ。
だが、敵の姿は未だ視認できていない。
「――マキアっ!」
「分かっていますわ、アイネス」
まるでヘッドスライディングのような体勢で身体を投げ出し、そのまま岩の地面に張り付いたマキア。
それとほぼ同時に、前方へと突き出されていたアイネスの短剣の切っ先から紫色の稲妻が迸る――――!!
狭まったエリアはこの先五十メートル程続いているらしい。
アイネスの攻撃を躱せるスペースなど何処にもないっ!
「――ギャギョォォォォン!」
断末魔の叫びが響き渡った。
岩の地面で数回藻掻くような音が響いた後、再び静寂が暗闇を支配する。
だが、アイネスの短剣は前方へと突き出されたままだ。
しかも、その切っ先には濃縮された紫色の魔力が……。
「ステファン、仇を取る氣はあるのかしら?」
「うん、ボクはやる氣満々だよ、アイネス姉」
ルキアを纏っているからこそ分かる。
前方からもう一体……。
まだ見えてはいないが氣配はしっかりと感じている。
「うふふ……了解したわ。…………三……二……一……今よ!」
強烈な光が発せられた。
三十メートル程前方では、得体の知れない怪物が突然の閃光に身を捩らせている。
間髪入れずに、前方の空間へと飛び込んだ。
魔力が込められたアイネスの短剣が一瞬にして僕を追い越したかと思うと、怪物の左眼球に突き刺さる!
「――ッガァァァッ!」
全身を捩らせ苦しみ出した怪物!
その巨大な尻尾が岩の壁に叩きつけられた。
だけど、僕は構わず突っ込む。
だって、ルキアは魔法使いだけど、長距離攻撃は苦手なタイプ。
だから、怪物の左眼球に突き刺さった短剣の柄を掴み――――!
「――はあぁぁぁぁぁっ!」
躊躇うことなく直接魔力を流し込むっ!!
「――ゴギャァッ!」
怪物が一瞬にして地面へと崩れ落ちた。
硬い鱗を岩の地面に擦りつけるような音……。
そんなのが数回響いた後、再び静寂が訪れた。
後方を振り返ると、淡い光が見えた。
紫色の魔法結界……。
その中には仲間達の笑顔があった。




