004-イグジストとマテリアルの融合
まだ薄暗いというのに、けたたましいまでの窓ガラスバンバン攻撃で叩き起こされた。
割れなかったのが不思議なくらいだ。
多少苛立ちを感じつつも窓を開けてみる。
すると、眼下には優凛タンの姿が――――!
ああ、二十四時間と経たずして、今を時めくグラビアアイドルと再び会えるなんてっ!
急いで階段を下り、玄関を開ける。
「おっはよ~う! 朝一番で優凛タンの笑顔が見れて凄~く幸せだよ!」
「……」
「…………あ、あれ?」
よくよく優凛タンの顔を覗いてみると、何だか笑顔がぎこちない。
しかも、少しばかり青ざめている……ような?
そんな彼女の背後から、アイネスが風の如く忍び寄る。
僕の護衛としての行動なのだろうけど……。
ホント神出鬼没だよ。
「……何やってんの、アイネス?」
「おかしい……昨日とは明らかに様子が違うわ」
「えーと……?」
アイネスは真面目顔だ。
鋭く光る琥珀色の瞳で優凛タンの背中をじーっと見つめている。
いや……もしかすると見つめているのは僕の……?
「……エネルギーが明らかに増大しているわ」
――そ、それって朝立ちの件だったりする?
いや……きっと多分、僕の氣のせい……だよね?
「おほんっ……おはよう、優凛タン」
「お、おはよう……御座います。実は私……」
昨日はタメ口で喋ってくれた優凛タンがいきなりの敬語だ。
多少は心の距離が縮まったと思っていたのに……うーん、ちょっぴり悲しい。
でも、きっと何か深い訳があるんだよね?
「な、何かあったの?」
「ねえ、ステファン君、怒らないで聞いてくれる?」
――ステファンじゃねーよっ!
そう心の中でツッコミを入れつつも、軽く笑みを浮かべる。
「も、勿論だよ、優凛タン!」
「ああ、よかった。あのね、私ってばね、あの青スライムを食べちゃったの」
「……へ?」
「だからね、青スライムをペロッと食べちゃったの……あははは」
「――の、暢氣に笑ってんじゃねーよっ!」
朝からトランポリンをしている。
それも憧れの優凛タンと一緒にね。
だけれど……。
あ、そう言えば、公園の桜並木が満開だったね。
「あははは……凄~く楽しいよ~!」
優凛タンは本当に楽しそうだ。
でもね、僕はあまり楽しい氣分ではない……。
例えるならば、もう直ぐ新学期が始まるのにクラス替え無しだからあまりワクワクしない感じ……かな?
「そ、そうなんだ……あはは」
「うん! だいぶ上手になったでしょう?」
「そうだね……でも、氣を付けてね、優凛タン」
「あははは……心配しないで、もうミスなんて――――ぶべぇっ!」
優凛タンがマテリアルの青スライムと融合してしまった。
その結果、彼女には青スライムの特性が追加された。
要するに、見た目は人間なんだけれど、スライムみたいな……感じ?
あ、人間に化けたスライムと表現した方が分かり易いかもね。
そんなこんなで、壁や床と衝突しても大したダメージにはならないらしく、ここぞとばかりにかなりの無茶を繰り返している。
あらぬ方向にすっ飛んで行っては変形している。
それが些かグロい。
これじゃ、百年の恋も冷めちゃう……かもね?
「あらら……だ、大丈夫?」
「あははは……見て見て! 今までで一番酷くない?」
「――か、顔がぶっ壊れてるじゃんっ!」
~その日の夜。
今宵もイグジストの女子二人が我が家に集まってくれた。
昨日は、途中から青スライムも参加してくれていたけど……まさか一日と経たずして、おさらばする事になってしまうとはね。
にしても、よくもまあ、あれを食べようとなど思ったよね。
優凛タン恐るべしっ!
「あははは……ところで、アイネスは何でトランポリンしなかったの? 姿も見えなかったし……」
「あたしならトランポリン小屋の入り口で立っていたわ。あのね、優凛……ステファンの護衛があたしの使命なの」
「ふーん……そうなんだ。でもね、トランポリンって凄く楽しい遊びなんだよ?」
「そうらしいわね。うふふ……でもね、あたしもそれなりに楽しめたのよ? だって、ステファンったら、入る時と出る時ではまるで別人……多分、優凛の事が嫌いになったんだと思うわ」
「――き、嫌いにはなってねーし!」
ホントに嫌いにはなっていないよ?
でもね、グロい優凛タンが脳裏に焼き付いてしまっているのは事実……。
そんな感情が少しばかり顔に出てしまったのだろうか?
こちらを一瞥したアイネスが意味有り氣な笑みを浮かべた。
「うふふ……でも、その言い方から推測すると、貴方の恋心はかなり冷めてしまっているようね。ところで、優凛はステファンの事をどう思っているのかしら?」
「え、私? そうね……優しくて、何かと便利で、トランポリンが下手な人……それがステファン君の印象かな」
「あははは……聞いたかしら、ステファン君?」
「――おい、アイネス、笑い過ぎだぞ! って言うかさ、このままだと”ステファン”が定着しちゃうじゃん! 優凛タン、僕にはちゃんとした名前があるんだからね」
「え? ”ステファン”は名前じゃなかったの? 見た目とのギャップが凄く面白いな、って思っていたのに……」
「ゆ、優凛タン……」
そんなこんなで、本題へと入ってゆく。
言うまでもなく議論すべきは、イグジストとマテリアルの合体についてだ。
あ、融合って言うべきかな?
それにしても優凛タン、何氣に大手柄だよね。
~そして三時間後。
三人で話し合った結果、ある程度考えが纏まった。
優凛タンによれば、青スライムとの融合による最大のメリットはスライム化だそうだ。
僅かな隙間から建物に侵入する事や、触れた物を溶かす事など御茶の子さいさいらしいよ。
また、かなりの衝撃を受けても、変形はするけどそうそう怪我をしたりはしないそうだ。
反面、デメリットもあるらしい。
そしてそれは、核が存在している事なんだってさ。
例えるならば人間にとっての脳や心臓のようなものらしく、それを失うと溶けて消滅してしまうらしいよ。
でもね、優凛タン曰く「綺麗だからとても氣に入っている」とのことだった。
そんな彼女の言葉から推測するに、体内に隠されている類のものとはちょっと違うのかもしれないね。
ひょっとして、次のグラビアでは、その核とやらをこの目で確認できるの……かな?
因みに、優凛タンは青スライムを物理的に食べてしまった訳ではないらしい。
何でも、そんなような夢を見たんだってさ。
もしかすると、青スライムを好き過ぎたのがその夢を見てしまった原因かもしれないね。
となると、マテリアルに対する愛おしさが融合への鍵……なのかな?
話し合いが終わると、優凛タンは壁にもたれ掛かり目を閉じた。
きっと眠氣に襲われたのだろうね。
僕もちょっと眠い。
そしてアイネスはベットに寝ころがり、身体を丸めた。
まるで子猫のようだよ。
何とも可愛らしい。
会話をすると小憎らしいけどねっ!
「あら? そんなに嫌らしい笑みを浮かべちゃって……一体何処を見ているのかしら?」
「へ……?」
……嫌らしい?
微笑ましい氣持ちでアイネスを見ていただけだよ?
「言っておくけれど、スカートの中を覗き込んでも見えるのはビキニアーマーよ?」
「おい、アイネス、僕はそんなもの――」
「――最低っ! ステファン君ってそういう人だったの?」
「うふふ……」
――うふふ……じゃねーよっ!
アイネスめがやりやがったよ!
態と僕を嵌めやがったよ!
ちょっとだけ不貞腐れたような表情を浮かべてみた。
すると、悪戯な笑みを浮かべていたアイネスが、突如その表情をガラッと変えた。
何だろうね、この反応は?
急に上半身を起こして、天井の辺りをじーっと見つめているけど……。
何か碌でもない事でも考えている……とか?
「……二人の眠氣が覚めたところで重大発表があるわ」
「おい、アイネス、もしも碌でもない発表だったらビキニアーマーのパンツを脱がせちゃうからな?」
「――ス、ステファン君って……や、や、やっぱり変態だったんだね!」
「ええ――――ステファンは紛うことなき変態よっ!」
――が~ん!
二人の視線が氷のように冷たい。
ちょっと泣きたい氣分だよ。
まあ、それはさて置き、アイネスが真面目な顔で「重大発表があるわ」と言ったのだ。
聞いてみる価値はある……よね?
心機一転。
雰囲氣をガラッと変えて行こうっと!
「ふっ……それで、アイネス、重大発表というのは?」
「たった今、マキアから念話で知らされたのだけれど……」
マキアというのは、以前僕が創造したエルフ姉妹の姉の方だ。
金色の長い髪がとてもよく似合う綺麗なお姉さんって感じのタイプ。
でもね、実は僕よりも年下……見た目が凄く大人っぽいんだ。
因みに、妹のルキアはボーイッシュな女の子だよ。
切り株山の地下空間をビキニアーマー姿で走り回っている姿をよく見かけるけど……彼女は何時も何をやっているのかな?
その辺が謎だね。
まあ、それはさて置き、次の言葉が中々出てこない様子だ。
終いには、目を閉じ考え込む始末……。
「アイネスが言葉に詰まるとは……くふふふ……珍しいな。切り株山の地下空間で一体何があったのだ?」
「……この目で確認するまでは俄かには信じ難いのだけれど……新たな地下空間が見つかったそうよ。しかも、自然にできたものではないらしいわ」
「ほーう…………え?」
僕じゃないよ?
それに、地下空間の拡張は僕が不在の時には起こり得ないはずだよ?
「あれ? ステファン君が地下空間を広げているんだよね?」
「ええ、その通りよ、優凛。でもね、今回発見されたものはステファンの能力によるものではない……そこが問題なのよ」
「それで、アイネス……その新たな地下空間というのはどの程度の広さなのだ?」
「現在の最深部……その壁の一部が崩れた事で発見されたらしいのだけれど……目視で確認できただけでも百メートル以上奥へと続いていたそうよ」
「――なっ! ひゃ、百メートル以上っ!?」
「ええ……それと現在、最深部は閉鎖、マキアとルキアにはその一つ上の階層で待機してもらっているのだけれど……ステファン、ちょっと嫌な予感がするわ」
い、嫌な予感って何?
謎の地底人でも攻めて来るの?
でもね、無駄に動揺を見せたりはしないよ。
だって、不安を感じた女子を安心させてあげるのが男子の役目だからね。
だから、取るべき行動に迷いなんてないし、こういうシチュエーションで言うべきセリフも何パターンか暗記している。
スッと立ち上がり、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「くふふふ……遂にこの時が来たかっ!」
「ス、ステファン……あ、貴方まさかこの状況を……よ、予知していたというの?」
「そ、そうなの? ステファン君って……凄~く凄い男の子だったんだね!」
「むふふふ……まあな」
二人からの尊敬の眼差し……。
ああ……心が満たされる~!
好感度鰻上りぃぃぃ!
「うふっ、素敵ね……ならば、あたしは貴方に従うわ。じゃあ、早速指示を出してくれるかしら?」
「うむ……だがな、アイネスには一番キツイ仕事を任せる事になってしまうのだが……」
「ええ、分かっているわ。でも、そんな些細な事を貴方が氣にする必要なんてないのよ…………うふふ……だって、あたしはアイネス・ダークネス……どんな任務も必ず達成してみせるわ――――女神アルシェミナ様に誓って!」
琥珀色の瞳を強く輝かせ、胸を張ったアイネス……。
彼女になら任せられる……。
例え謎の地底人が攻めて来ようともっ!
「くふふふ……そうか! では、アイネス・ダークネスよ――――全部任せるから何とかうまい具合にサクッと解決して来いっ!」
「…………はあ?」
「何それ……ステファン君って最低っ!」
――え……?
僕まだ中学生だよ?
普通、一番強いアイネスに丸投げするよね?




