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031-敵襲 part2

 僕は創造主だ。

 少なくとも切り株山の地下に存在する我が居城……セイクリッドネストではそうだ。


 そのセイクリッドネストは僕がイメージで創造した地下空間だ。

 今となっては、生まれ育った町よりも広大な面積を有しているけど、空間も岩壁もその全てがマテリアルだ。

 一片たりともそうではない部分など存在していない。


「……アイネス、君は僕が守るからね」


 アイネス・ダークネス……彼女は僕がイメージで創造した最初の知的生命体だ。

 そして、小説の世界から現界させた最初のイグジストでもある。


 彼女は頭脳明晰であり、優れた身体能力をも有している。

 しかも、魔法使いでもあり、尽きる事のない無限の魔力とも繋がっている……まあ、そういう設定だ。


 そんなセイクリッドネストで最強の存在であるアイネスが窮地に立たされている。

 十中八九、攻め込んで来たのは悪魔だと予想されるけど……正直想定外もいいところだ。


 まさかあのアイネスをも超える強者が地球に存在していたとはね……。


「くふふふ……だが、悪魔がどんなに強かろうとも――――セイクリッドネスト(ここ)では我こそが最強っ!」

 

 金色の輝きがこの身を覆う。

 痺れる様な快感が……エナジーの奔流が全身を突き抜けてゆく――――――!


「さて……まだ見ぬ悪魔よ、悪いが禁断の能力を解放させてもらうぞ!」


 この宇宙に存在する全ての物理法則の中で最も優先度の高いイメージの法則……。

 それを発見し理解した僕は、創造という能力(ちから)を得た。

 そしてまた、僕の創造物と繋がり、それらをコントロールする能力をも!


「くふふふ……究極奥義――――――僕がアイネスだっ!!」


 とあるロボットアニメからヒントを得た究極の美少女体験。

 僕は僕のままでありながら、アイネスの五感や思考をリアルタイムでダウンロードしちゃう感じだ。


「ほーう……貴様が悪魔か……くふふふ……小癪な真似を……」


 アイネスの視界……。

 即ち僕の脳裏に映る映像には、不鮮明な生命体が……。


 強力な認識阻害だ。

 辛うじて人型の生命体である事は分かるが、手足の動きがかなり大雑把にしか見えない。


 この状況で相手の攻撃を躱すのは至難の業だろう。

 それを成しているアイネスの身体能力の高さに改めて驚かされる。


 相手の顔が全く認識できない。

 敵の表情も重要な情報……アイネスから教わった言葉の意味をより深く理解した。


「とは言え……ちっ、これでは落ち着かんな…………」 


 二週間程前、我がセイクリッドネストに一人の女ドワーフ……キーマがやって来た。

 惑星イアでは凄腕のビキニアーマー職人だったらしく、アイネス達からは大歓迎されていた。


 そして今日、アイネスはキーマに注文していた冬用ビキニアーマーの試作品を装着する事になっていた。

 と言うか、既に装着しているようだが……。


「……チクチクしてあまり心地好いものではないが…………ふっ、アイネスはよく我慢している」


 まるでアイネスという知的生命体を僕が操縦しているかのようだ。

 実際、何時でも乗っ取れそうな感覚はある。


 でも、アイネスが感じている全ての感覚を自動でダウンロードしちゃうのはちょっと問題ありそうだし……。

 あとで調整しよっと。


 この能力を使ったのは今回が初めてだ。

 しかも、その存在すら未だ誰にも話してはいない。

 だって、確実に拒否されるであろう事は分かっていたからね。


 だから、命名すらしていなかったけど……。

 

「くふふふ……Realtime Download Feeling……約してリアルフィールと命名するとしよう!」


 英語が合っているのかどうかは分からないけどさ。

 やっぱり僕ってネーミングセンスはバッチリだよね。


 にしても、リアル過ぎだ。

 動いていないのに動いてる感じがちょっと氣持ち悪い。


 まあ、それはさて置き、そろそろかな……。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 もしも自分よりも強い敵が出現したら……。


 そんなようなシチュエーションをアイネスは何度も想定し、対策を考えた事があった。

 そして、彼女が辿り着いた答えは「可能な限り関わらない」だった。

 それ程までに、実力差というのは覆し難いのだ。

 どんぐりの背比べならばまだしも、大人と赤子では戦う前から結果は見えているからだ。


 現在、アイネスはそれに近い状況下にある。

 大人と赤子まではいかないにしても、実力差は歴然としている。

 例え奇跡が起きたとしても、敵の前進を数分間抑えられる程度……。

 彼女は現状をそう評価している。


 セイクリッドネストへの侵入者を誰よりも早く察知したのはアイネスだった。

 そして、その敵が相当な……彼女以上の強者である事も……。


 だが、アイネスは逃げなかった。

 その理由は、セイクリッドネストが彼女にとってはとても大切な場所だからだ。

 何故ならそこには、彼女の愛する……。


「ちっ……何処の誰かは知らないけれど……嫌なタイミングで乗り込んで来たわね」


「ふふふ……理由は分かりませんが……いつもより少し落ち着きがありませんね」


 少し落ち着きがない……その理由はアイネスが一番分かっていた。

 だが……。


「いつもより……? それは一体どういう意味かしら?」


「うふふふ……それは貴女の事を少し知っていた……からですわ」


 アイネスの耳に届いた声にも認識阻害の魔法が掛けられていた。

 性別、年齢、種族……判別などとてもできそうにない。

 ただ、使われたのは女性ならではの言葉……。


「なるほど……サターリオのお知り合いってところかしら? となると……女悪魔って事になるわね」


「うふふ……わたくしの性別が女なのは間違いありませんわ」


「そう……それで、何用かしら? 部外者が偶然侵入できてしまうような場所ではないのだけれど?」


 切り株山の中腹部付近にあったセイクリッドネストの出入口はかなり前から閉じられていた。

 その理由は考えるまでもない。


「このような地下空間ならば簡単に見つけられますわ。うふふ……わたくしは調べに来ました、あなた方を……」


「……それだけ?」


「ええ……勿論、皆さんが想定よりも弱かった場合、この世界から退場して頂く事になりますけど……うふふ……貴女程度では、そうなってしまうかもしれませんね」


「――――っ!」


 アイネスが攻撃を仕掛けた。

 認識阻害の女の視線が外された……そう感じたから相手の懐に飛び込んだのだ。


 だが、アイネスの蹴りは呆氣なく躱されてしまった。

 転移魔法かと錯覚してしまう程に速く鋭かったにもかかわらずに!


「ところで、ステファン様はこの奥に?」


 何事もなかったかのように平然と会話を続けた認識阻害の女。


 それを岩の地面に片膝を突けた状態で聞いていたアイネス。


「ステファン……様?」


「うふふ……様を付けてしまったのは癖のようなもの……特に意味は御座いませんわ。それで……居るのかしら?」


「……それを、このあたしが教えるとでも思っているのかしら?」


 アダマンタイトキャットと融合したアイネスの皮膚はアダマンタイト化させる事が可能だ。

 意思でコントールする事も可能だが、基本的には攻撃を受けた瞬間に自動的にアダマンタイト化する鉄壁……いや、アダマンタイト壁の守りだ。

 

 にも拘らず、アイネスの右の肩からは出血がある。

 いつの間にか、鋭利な刃物で切られたかのような傷が付けられていた。


「うふふ……このまま奥に進めば、いずれ分かる事ですわ」


「ふんっ、この先には一歩たりとも進ませやしないわ!」


「あら……それは楽しみですわ」


「――がはっ!」


 認識阻害の女は少し右腕を動かしただけだ。

 胸の辺りに置いていた手を少し前方へと……。


 だが、たったそれだけの動作でアイネスを後方へと吹っ飛ばしてしまった。

 まるで目には見えない何かが彼女の身体に猛烈な勢いで衝突したかのようだ。


 素早い動きで立ち上がったアイネス。

 その身体を紫色の光が包み込んだ。


 みるみる濃くなってゆく紫……。


「あら? まだ戦うつもりなのでしょうか?」


「ここではなるべく魔法は使いたくなかったのだけれど……そうも言ってはいられないようね」


「うふふ……それも楽しみですわ」


「ふんっ――――覚悟しなさいっ!」


 紫色の波動が地下空間を一瞬にしてに突き抜けた!

 続いて出現した無数の稲妻が認識阻害の女を容赦なく攻撃する――――!


 魔法を得意とするアイネスならではの二重魔法攻撃だ!

 だがしかし、またしても認識阻害の女は何事もなかったかのように……。


「うふふ……では、わたくしの番ですわ」


「――ちっ!」


 魔法結界が瞬時にアイネスを包み込む――――!


 だが、次の瞬間には、ガラスが激しく砕け散るような音と共に、それは跡形もなく消滅してしまった。

 アイネスは為す術もなく吹き飛ばされ、岩壁に激突する――――!


「――ぐはっ!」


 衝撃波……。

 認識阻害の女は魔法でそれを生み出したのだ。


 周囲の岩壁から、そして天井から、砕けた破片がボロボロと落ちて来る。


「あら……ちょっとやり過ぎてしまいましたわ。これ以上は天井が崩れ落ちてしまうかもしれませんが……うふふ……どうしますか?」


「……」


 少し驚いたような表情を浮かべたアイネス……。

 だが、それだけだった。

 岩壁に寄り掛かったまま微塵も動くことなく、言葉すら返さなかった。


「終わり……そう理解してよろしいのですね?」


 認識阻害の女の右手がゆっくりと動き出した。


 魔法なのか物理攻撃なのか……それは分からない。

 だが、次の攻撃でアイネスに止めを刺すつもりのようだ。


「はあ? 一体何が終わるのかしら?」


 岩壁で身体を支えつつも、ゆっくりと立ち上がったアイネス……。


「うふふ……では、まだ続けると…………あら?」


 アイネスの表情が目まぐるしく変化している。

 まるで喜怒哀楽が瞬時に入れ替わっているかのようだ。


「……何か言ったかしら? ちょっとだけ貴女の事を無視してしまったわ」


「少し様子が変でしたが……問題はないようですね。亡霊とでもお話をしていたのですか?」


「ふふ……あながち間違いではないけれど……うふふ……Realtime Download Feelingって言うらしいわ」


「Realtime Download Feeling……?」


「ええ……約して――――リアルフィールよ!」


「あら、それだと少し意味が違ってしまいませんか?」


「ふふ……そんな細かい事を一々氣にしていたら、彼とは…………おっと、無駄な喋りはこれくらいにしておいて、と…………さて、そろそろ始めてもいいかしら? 格下相手に不意打ちをするのは好きじゃないのよ」


「随分と威勢がいいですね……まるで別人格と入れ替わったかのようですわ。うふふ……貴女のタイミングで再開してくれて構いませんわ」


 アイネスの身体からは金色の光も発せられ始めた。

 紫色と金色が混じる事なく、それぞれの輝きを増してゆく――――――!


「うふふ……じゃあ、そうさせてもらうわっ!!」




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 まさにリアルの一言に尽きる。

 アイネスの肉体感覚や思考が瞬時に伝わって来る。

 それも微塵の時差すらも無く。


『よう、アイネス、ピンチみたいだね』


『ちょっ……あ、貴方……い、一体何がどうなって……?』


『Realtime Download Feeling……約してリアルフィール、カッコイイでしょ?』


『はあ? リアル……フィール……?』


『えーとね……僕とアイネスは二人で一人……そんでもって、(中略)……まあ、そんな状態かな』


『うふふ……不思議ね……質問と同時に答えが返って来るなんて……』


 まあ、会話に直すとこんな感じかな。

 でも今は、僕とアイネスは二人で一人状態だからね。

 会話も念話も超えた超感覚で瞬時に意思の疎通ができてしまうんだ。

 感情に思考に感覚……全く同じものを全く同時に感じてる。


 あ、そうそう、肉体感覚は僕が一方的にアイネスのものを感じているんだ。

 感情や思考も遮断しちゃえば、僕のものは伝わらないはずだね。

 ってか、そうした方がアイネスは混乱しないかもね。


「……何か言ったかしら? ちょっとだけ貴女の事を無視してしまったわ」


「少し様子が変でしたが……問題はないようですね。亡霊とでもお話をしていたのですか?」


「ふふ……あながち間違いではないけれど……うふふ……Realtime Download Feelingって言うらしいわ」


「Realtime Download Feeling……?」


「ええ……約して――――リアルフィールよ!」


「あら、それだと少し意味が違ってしまいませんか?」


「ふふ……そんな細かい事を一々氣にしていたら、彼とは…………おっと、無駄な喋りはこれくらいにしておいて、と…………さて、そろそろ始めてもいいかしら? 格下相手に不意打ちをするのは好きじゃないのよ」


「随分と威勢がいいですね……まるで別人格と入れ替わったかのようですわ。うふふ……貴女のタイミングで再開してくれて構いませんわ」


 僕の意識を地面に落ちた破片や岩壁などなど……周囲に存在するマテリアルと繋げる。


 すると、アイネスの身体を包んでいた紫色の魔力の光……。

 そこに、金色の……エナジーの輝きが加わる。


 それぞれの色がその輝きを増してゆく――――――!


「うふふ……じゃあ、そうさせてもらうわっ!!」


 異常なまでのスピードで認識阻害の女の懐に飛び込んだアイネス。


 リアルフィールで繋がっているからこそ、アイネスの動作をこうして認識できてはいるが、通常の僕では確実に不可能だろう。

 などと、思考ができてしまう程に彼女の動きを詳細に認識できている。

 まるで時間が引き延ばされたかのような感覚……アイネスとの差を嫌と言う程感じさせられる。


 そうこうしている間に、アイネスの膝が認識阻害の女の顎に迫る――――!


 だが、敵も然る者……。

 アイネスの膝蹴りを紙一重で躱しつつ、手刀でこちらを――――!


 そんな次の動作が窺い知れる。


 僕は岩の地面を操り、認識阻害の女を僅かに持ち上げた。

 すると、彼女はバランスを崩す。


「――なっ!」


 驚きを露わにしつつも、瞬時に体勢を立て直した認識阻害の女。


 だが、時既に遅し!

 その顎をアイネスの膝が容赦なく砕く――――――!!


「――――――ぐゃばっ!」


 背面飛びのような格好で弧を描きながら宙を舞う認識阻害の女。

 それに狙いを定め、僕は地面に砕け落ちていた無数の岩の破片を操る――――!


「くふふふ……食らうがいい、我が――――って、あたしの口を乗っ取って勝手に喋らないで欲しいわっ!」


 あれれ?

 カッコイイ台詞でキメるべき場面だったよね?

 女子にはこの氣持ちを理解できないのかな?


 などと考えている間も、無数の岩の破片を使った攻撃が認識阻害の女にダメージを与え続ける。

 やがて彼女の身体が地面に叩きつけられると、あっという間に小さなピラミッドのような岩の山が出来上がった。


「くふふふ……まさかこの程度で終わりなんて事には――――って、そんなに喋りたいのなら、念話で思う存分語ってなさいっ!」


 ――ですよねー!


 本当は敵に語ってこそ生きるセリフが好きなんだけれどね。

 ま、黙っているよりかは、その方がマシかな……。


『くふふふ……じゃあ、とりあえず、こんな感じの念話方式でどうかな?』


『ええ、そうしてくれると助かるわ』


 などと会話をしていると、突然岩のピラミッドが弾け飛ぶ――――!


 立場逆転、無数の岩の破片が襲い掛かって来た。

 だが、瞬時に紫色の球体が出現し、全ての破片を弾き返す。


 ゆっくりとした動作で立ち上がった認識阻害の女……。

 その顔に焦りの色などは全く無い……ように感じる。

 傷一つ付いてなさそうなそのグラマーな肉体には、薄い光のベールのようなものが……?


「……ちょっとだけ驚きましたわ。ですが、ごめんなさいね……全く効いてはいませんわ」


「ふーん……でも、本当にそうなのかしら?」


「あら、わたくしの言葉を疑っているのかしら?」


「うふふ……そういう訳ではないのだけれど…………貴女って……結構胸が大きかったのね」


「胸……? はっ――――ま、まさかっ!」


 姿を隠し続けていた認識阻害の魔法が弱まっていた。


 雪のように白い肌と金色の長い髪……。

 朧げながらも、その容姿が暴かれようとしているっ!



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