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030-敵襲 part1

 生徒会長をイグジスト化させてから半月程が経過した。

 その間、僕の使い魔(サーヴァント)となって生まれ変わった彼女は、時間の許す限りアイネスの特訓を受けた。

 惑星イアで行っていたみたいだから、合計すればかなり膨大な時間となるはずだ。


 アイネスによれば、悪魔である生徒会長の身体能力は、はじめからかなり優れていたようだ。

 そんな彼女がイグジスト化し、且つ特訓を受けた事でそれ相応の実力が備わったらしい。

 現時点では、マキアとルキアのエルフ姉妹には敵わないみたいだけれど、二人はマテリアルとの二度の融合を既に済ませている。

 それに対し、生徒会長はまだ一度も……。

 その辺を考慮すれば、彼女の実力が相当なものである事を窺い知れる。

 だって、素のイグジストとマキア達じゃ、普通に考えれば勝負にすらならないはずだからね。


 そんなこんなで、そろそろ生徒会長をマテリアルと融合させてみては、という提案をアイネスから受けたところだ。

 明日からは十月だし、そうなると優凛のイベント関連で色々と予定が詰まっているからね。

 だから、やるなら今ってな感じなんだけれど……。


「うーん……直ぐに用意できるのは、アニギーニュアプパの森でゲットした妖精の類だけなんだよね」


「妖精……サターリオとの相性はそんなに悪くはないと思うわ」


「そうなの?」


「ええ……ただ、サターリオの身体能力を更に引き上げるか、苦手とする魔法を強化するか……その辺が悩みどころだわ」


 あ、サターリオというのは生徒会長の事だよ。

 そう命名したのは僕なんだけれど、ちょっと安易過ぎたかもね。

 でも、悪魔といえば、やっぱりカタカナ系ネーミングの方が断然それっぽいよね。


「なるほどね……で、サターリオ的にはどうなりたいのかな?」


 アイネスの隣で片膝を突き、ひたすらに床を見つめていたサターリオが顔を上げた。

 学校に居る時は以前と然程変わらない態度で接してくれるけど、セイクリッドネストでは何時もこんな感じなんだ。


 まあ、エイリアスを弄って、彼女の内面をそう変えてしまったのはこの僕なんだけれど……。

 でも、万が一にも裏切られる訳にはいかないからね。

 そうするしかなかったんだ。


「はい……ワタシは主様好みの女になりたいデスワ」


「……え?」


「ちっ……薄々感じてはいたけれど……」


 何でアイネスが機嫌を損ねたのかは不明だけれどね。

 でも、それ以上に意味不明なのがサターリオの返答だよね。

 まあ、僕の氣分を上げようと氣を遣ってくれるのは嬉しいけれど……。


「サターリオ……会話の流れからして、身体能力か魔法の二択だったはずだよ?」


「し、失礼しました。では、魔法を……アイネス様のように華麗に魔法を使い熟してみたいデスワ」


「ふーん、そうなんだ。じゃあ、ステラ、ちょっとこっちに来てくれるかな?」


「はい、只今」


 少し離れた場所で所用を済ませていたステラがこちらに向かって歩き出した。

 彼女の周りを妖精や特殊能力を持った動物のマテリアル数匹がじゃれ合いながらグルグルと回っている。


「えーと……魔法と言ったら、やっぱり……」


 前方に腕を伸ばした。

 すると、ステラの頭の上に止まっていたマテリアルが部屋の中で弧を描くように飛ぶと、僕の手首に止まった。


「……コイツはハチドリル……見た目はカラフルなハチドリみたいだけれど、レイピアとドリルが合体したかのような(くちばし)が特徴だね」


「異常なまでに長いのね。その嘴……胴体の三倍以上はありそうだわ。それで……そのハチドリルはどんな魔法を使うのかしら?」


「よくぞ聞いてくれました、アイネス! コイツはね、視覚や聴覚を惑わす魔法を使うんだ。何かを破壊する系の魔法ではないけど、戦闘中に使われたら厄介な魔法だと思うんだ」


「うふふ……でしょうね。視覚や聴覚に頼らずに戦闘するなんて……想像すらできないわ」


「だよね。でも、まあ、サターリオがどう感じたのか……それこそが最も大切なんだけれど……」


「主様、ワタシに異存は御座いません。ハチドリルと是非融合してみたいデスワ! ですが……本当によろしいのでしょうか?」


 そう口にすると、サターリオは視線を移動させた。

 するとその先には、どこか落ち着かない様子のステラが……。


 ――ですよねー!


 ハチドリルはステラのお氣に入りなんだよね。

 ま、僕も相当氣に入ったからこそ態々マテリアル化させ、地球に持ち帰って来た訳だけれど……。


 でも、ステラには受け入れてもらうしかないよね。

 ちょっとかわいそうな氣もするけれど……。


「ステラ、氣持ちは分かるけど……」


「あの、ご主人様」


 何時になく真剣な表情のステラ……。

 僕も真面目に対応せざるを得ないよね。


「はい、何でしょうか?」


「ハチドリルがウンチをしました」


「……え?」


「早く手を洗ってください。それ固まってしまうと取れませんよ?」


「――そ、そっちの心配かよっ!」




~約半月後。


 一週間程前、漸くアイネスのお墨付きが出た。

 だから、サターリオに潜入調査を任せてみた。

 彼女をイグジストにしたのは、悪魔共の数や目的を知る事が第一の目的だからね。


 とは言え、同じ悪魔であるサターリオにしてみれば、それ程難しい仕事ではないと思うんだ。

 だって、彼女は家族や親戚と極々普通に接すればいいだけだし。

 まあ、やり過ぎなければ、そうそう怪しまれたりはしないよね。


 そんな訳で、ある程度状況が掴めるまでは動くにも動けない。

 もう暫くはサターリオからの報告待ちだね。


 そんなこんなで、僕は暇だ。

 他の皆はそれぞれやるべき事があるみたいだけれどね。


「ねえ、ステラは僕に付き合っていて大丈夫なの?」


「はい……私はご主人様の専属メイドですから」


 午前中に所用を済ませ、昼飯後はソファーに寝転がり昼寝をしていたのだけれど……。

 目が覚めたら、ステラの太腿が枕になっていた。


 ここ最近はセイクリッドネストに来ると何時もこんな感じ。

 只々時間が過ぎてゆく……。


「ふーん……それにしても暇だね」


「そうですね……でも、私は満たされていますよ?」


「そうなの?」


「ええ……こういう時間が一番幸せなんです!」


「へー」


 やっぱり女子って不思議だよね。

 普通さ、心が満たされるのってお腹がいっぱいの時だよね?


 ああ……何だかお腹が減ってきた……。


「ところで、今何時?」


「そろそろ六時です」


「……え? マジで!?」


「はい」


「……一日終わってるじゃん」


 そろそろ陽が沈む時間帯……いや、もう沈んでる?

 ぼちぼちお家に帰らないと親に怒られちゃうよ。

 我が家には、一家揃って夕ご飯を食べる、という仕来りがあるんだよね。


「うふふ……そうですね。では、そろそろ――」


 突然、扉が勢いよく開いた。

 マキアが部屋の中に飛び込んで来たのだ。


「――ス、ステファン様っ!」


 通常は呼び鈴を鳴らす決まりになっている。

 それは支配人であるマキアでも変わらない。

 にも拘らずに、彼女はいきなり飛び込んで来た。

 つまりは、それ相応の出来事が起きた、という事だ。


 慌てて上半身を起こし、頬を両手で叩く。


 こういう時こそが肝心だよね。

 上に立つ者はドーンと構えて……。

 そんでもって、そんなのはお見通しよ、的な感じで……。


「くふふふ……そろそろだとは思っていたが……くくく……まさか我が家の夕食時を狙って来るとは――」


「敵襲ですわっ!」


「くふふふ……だから、そんな事は既に…………え?」


「ですから、敵襲ですわっ! 現在アイネスが交戦中で――」


 マキアの言葉を遮ったのは強い振動――――!


 セイクリッドネストの下層部にあるこの部屋が大きく揺れた。

 だが、揺れたのはほんの一瞬だった。

 何らかの衝撃が突き抜けて行ったような感じだ。


「い、今のはアイネスの魔法……か?」


「分かりませんわ。ですが、その可能性は十分にございますわ」


「マ、マジかよ……こんな下層にまで敵が侵入して来ているのかよっ!」


「いいえ、そうではございませんわ。アイネスは現在、生誕の間で敵一体と交戦中ですわっ!」


「――――――っ!!」


 生誕の間というのは、僕がアイネスを創造したあの空間だ。

 要するに、セイクリッドネストの上層部……それも最も高い場所となる。


 それにも拘らず、あれだけの衝撃がこの部屋にまで届いてしまった。

 となれば、アイネスは相当な強敵と戦っている事になる。

 それも、たった一体を相手にっ!


「ステファン様、アイネスからの伝言を伝えます、『今直ぐセイクリッドネストから脱出してっ!』だそうですわ!」


「――なっ! 脱出……だと!?」


「アイネスはかなり追い詰められている様子ですわ。先程、何度か念話を試みましたが――」


 既に念話は繋がらないらしい。

 あのアイネスが負けるとは思えないが、念話をするだけの思考的余裕はないようだ。

 信じ難い状況だけど、マキアの表情を見ればそれが嘘ではない事が嫌でも理解できてしまう。


 アイネスの交戦相手は、現時点では不明のようだ。

 だが、レプテリアンが滅んだこの地球に敵が存在しているとすれば……。

 しかも、セイクリッドネストの場所を知っているとなれば、自ずと答えは……。


「ちっ……考えられるとすれば、サターリオがしくじったか、もしくは……」


「サターリオが裏切った場合ですわ!」


「くっ……やはりそう考えるしか……」


 どちらにせよ、こちらからサターリオに念話を繋げるのは良案だとは思えない。

 特に、彼女がしくじり、悪魔に捕まっているとしたら、奴等に無駄に情報を与えてしまう事に成り兼ねない。


「ステラ、悪魔という種族はそんなに強いのか? あのアイネスが追い詰められてしまう程に?」


「悪魔最強とされるブラクリオンですが、私の知る限りでは、アイネスさんには及ばないはずです。少なくともエルフェスタ王国ではそういう認識でした」


「となると、奴よりも後に生まれた世代には……」


「――ステファン様、そんな事より、今はお逃げ下さいっ! アイネスが押さえてくれている今の内にっ!」


 ……そうかもしれないけどね。

 アイネスよりも強いかもしれない奴から逃げられるとはとても思えないよね。

 ましてや、ソイツがこちらを敵と認識しているとなれば……。


「……逃げろ、だと? ……笑わせるな、マキア……この僕を一体誰だと……」


「で、ですが、ステファン様――」


「――くどいぞ、マキアっ!!」


「「――っ!」」


 ふと我に返ると、僕の足下では、マキアばかりかステラまでもが片膝を突き、首を垂れていた。


 どうやら僕もテンパっていたみたいだ。

 上に立つ者はドーンと構えて……だよね。


「……マキア」


「――はっ!」


「居住者全員を大至急惑星イアに避難させるように」


「――はっ!」


「最悪の場合……マキア、君がこちら側からワームホールを破壊してくれ……惑星イアにまで被害を及ぼす訳にはいかないからね」


「――はっ!」


 ちょっと悪魔を侮っていたかもしれない。

 イグジストよりも強い天然ものの生命体が存在しているなんて夢にも思わなかったよ。


 でも、まあ、僕だって死にたくはないし……。

 可能な限りの悪足掻きはさせてもらうけどねっ!



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