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029-生徒会長は僕の使い魔

 エイリアスの創造とは、ある特定の物体や生体の全データをコピーするようなものだ。

 だから、人間のエイリアスを創造すれば、僕の中にはその人物のデータの集合体のようなものが創られる。

 容姿は勿論の事、目には見えない心や記憶までもがそのデータの集合体には含まれる。

 意図して改変しなければ、限りなくオリジナルに近いデータの集合体となる。


 言うまでもなく、生徒会長佐田莉緒のエイリアスは全く改変する事なく創造した。

 それこそ彼女が穿いていたであろうダサいパンツがそのままの状態で現れてしまう程に……。

 だから、彼女の記憶も限りなくオリジナルに近い状態、という事になる。

 つまり、生徒会長のエイリアスを纏えば、僕は彼女の記憶にも容易にアクセスできてしまうのだ。


 そんなこんなで、セイクリッドネストにある創造主の間……つまりは、僕の部屋にアイネス達を急遽呼びつけた。

 皆忙しそうだったけど、状況が状況だけに仕方ないよね?


 あ、優凛はグラビアの撮影中らしく今回は欠席だよ。

 今日は夜遅くまで掛かっちゃうらしいんだ。


 フカフカのソファーに深く腰掛け、足を組んだ僕……。

 向かいに設置されたソファー……その中央にはアイネス、そしてその両脇にはマキアとルキアのエルフ姉妹が座っている。

 ステラは床に片膝を突け、それぞれの前に置かれたティーカップに紅茶を注ぎ終わったところだ。


「くふふ……さて、ステラ……先ずは君に悪魔について語ってもらわねばなるまい」


「はい、ステファン様……」


 床に片膝を突けたまま、こちらに正面を向けたステラ……。

 何時でも何処でもどの角度からも見えそうで見えない……。


 ――ああ、もう――――見せちゃえよっ!


「……では、悪魔という種族について説明させていただきます。嘗て……」


 時間を遡ること一万年以上前……。

 嘗て惑星イアには、三体の悪魔が存在していたらしい。

 それぞれの仲は険悪で、事ある毎に争いを繰り返していたそうだ。


 その後、悪魔達の雌雄は決し、一体だけが生き残ったらしい。

 その生き残った悪魔の名はトリニティー……エルフェスタ王国をはじめとする惑星イアの殆んどの国々では始祖の悪魔と呼ばれているそうだ。


 その始祖の悪魔はどちらかと言えば穏和な性格だったらしい。

 少なくとも他種族に対して無暗やたらと争いを仕掛ける類の存在ではなかったようだ。


 だが、トリニティーの死後、残された三体の子供達の時代へと変わると、再び悪魔同士の争いが始まってしまったらしい。

 その三体の内の一体……ピンクイーンという名の女悪魔は争いに加わることもなく、平和的に暮らし、やがては淫魔の始祖となったそうだが、残りの二体はかなり好戦的な性格だったらしい。

 他種族をも巻き込み繰り広げられた最後の大戦は”黒紅の戦い”と呼ばれ、惑星イアの多くの国々で今も語り継がれているそうだ。


 その戦いに勝利し、生き残ったのがブラクリオンという男の悪魔だったそうだ。

 黒い髪と黒い尻尾、そして黒い淫紋が彼の外見的特徴だったようだ。


 その後、彼もまた三体の子供を得たらしい。

 子孫を増やし、いずれは惑星イアの覇権を……そんな野望を抱いていたらしい。


 因みに、プルルン星人共の背後にも悪魔ブラクリオンの影がちらついていた……そんなような噂話も度々聞かれたらしい。

 惑星イアでは、今も悪魔ブラクリオンは健在のようだ。

 

「くふふふ……悪魔ブラクリオンか…………となると、生徒会長はその子供達の内の一人……という事だな」


「――違います!」


 ――違うのかよっ!


 そういう話の流れだったよね?

 僕、何処かで聞き違えた?

これじゃ僕の立場ってものが……。


 でも、大丈夫。

 実はね、こういうケースをも想定して、ちゃんと用意してあるんだ。

 都合の悪い事を有耶無耶にしつつ、話が勝手に進んでゆく魔法のセンテンスをねっ!


「ん? くふふふ……なるほど……そういう事か」


「はい……惑星イアと地球が同じ星だと考えた場合、どんなに少なく見積もっても現時点で五千年以上の時差があると推測されます。その点を考慮すれば、孫かひ孫……あるいはそれ以降と考えるのが妥当ではないでしょうか」


 ――ご、五千年以上っ!?


 そうなの?

 僕、初耳だよ?


「え、そうなの? 時の流れが千倍だから、てっきり地球の一年……来年の四月頃にはその差はなくなるって……ボクは勝手にそう思っていたけど……」


 ――だよねー!


 そんでもって、時が流れる速度も来年の四月には同じになる……そんな感じだよね?

 僕もルキアと同じような事を考えたよ。

 でも、地球とイアが同じ惑星だとすると、色々と辻褄が合わないんだよね。


 ゴメンね、ルキア。

 君にはオタンコナスになってもらうからね!


「くふふふ……ルキアよ、浅はかにも程というものがあるぞ。高々千年……いや、残りの六百年程度で、その差が埋まると思うか? 惑星イアには未だサムライすら現れてはいないのだぞ?」


「うふふ……そうですよ、ルキア……姉として恥ずかしいですわ」


「ふっ……でも、ルキアらしい考え方だわ」


 ちょっと可哀想だけれど……。

 でも、僕は創造主だからね。

 頭脳明晰なアイネスとマキアにも勝るとも劣らない……そんな感じの雰囲氣づくりをしておかないとね。


 にしても、ステラってやっぱり良い子だよね。

 アイネスやマキアのようにルキアの事を笑ったりしないし……。


「はあ……ルキアさんって盆暗だったのですね」


 ――誰よりも辛辣かよっ!


 ちょっとショック……。

 話を先に進めよっと。


「おほんっ……となると、ステラ……つまりは、そういう事なのだな?」


 ステラの顔を意味有り氣に見つめる。

 これだけで勝手に話を先に進めてくれるはずだ。


 何が「そういう事」なのか、僕にもサッパリなんだけれどね。


「はい……佐田莉緒、延いては悪魔ブラクリオンの子孫達は、レプテリアンが消えたこの世界で悪魔ブラクリオンの野望を叶えようとしている…………そう考えるのが自然かと」


「悪魔ブラクリオンの野望……要は、この世界の覇権を狙っているのでしょけど……ステラ、その根拠は?」


「そうですね、わたくしもその辺をお聞きしたいですわ」


「うんうん、ステラちゃんの考え、ボクも聞きたい」


 僕も聞きたいね。

 でも、ここは……我は既に知っていた……的な雰囲氣を漂わせておくべき場面だよね?


「悪魔ブラクリオン……彼は歴代で最も凶悪な悪魔だと言われています。そして、ワームホールの先にある私の母星……惑星イアの覇権を虎視眈々と狙っている、と……とは言え、悪魔ブラクリオンの存命中に絶望的なまでの数的不利を覆す事はほぼほぼ不可能…………ですが、長い長い年月を経た現在の地球ならばどうでしょうか? 悪魔の数もかなり増えていると考えるのが自然です」


「くふふふ……黒い髪に黒い尻尾、そして黒い淫紋……だったか? そう言えば、佐田莉緒にも全く同じ身体的特徴があったな」


 大丈夫だよね?

 何となくで喋ってみたけど、話繋がってるよね?


「なっ! ステファン、貴方は既にそこまで……」


「あっ、そういう事でしたか……ステファン様は誰よりも早く佐田莉緒がブラクリオンの血を色濃く引き継いだ悪魔だと氣付いたからこそ、そのエイリアスを創造し、御自ら裏を取られた……そういう事なのですね!」


「え、そうだったの? ス、ステファン様って凄いっ!」


「くふふふ……ま、まあな!」


 ――氣持ちぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!




~翌日の放課後。


 夕暮れ時の放課後。

 誰も居ない体育館裏の空地……。

 告白をするには最高のシチュエーションだ。


「私を呼び出したのはあなたですか?」


「くふふふ……ああ、そうだ」


 振り返り、生徒会長を見つめる。

 太陽を背にした僕の顔は、彼女にはとても見えずらいはずだ。


「あら? あなたは後ろの席の……」


「あれ?」


 あ、悪魔だから眼の構造が人間のものとは違うのかもね。

 さすがにそこまでは確認していなかったよ。


 反省、反省っと。


「私に用があるのでしたら、教室で……はあ、それは今更ですね」


「くふふふ……折角来たんだ…………一分もあれば終わる」


「分かりましたわ。ですが……教室に居る時とは随分と雰囲氣や喋り方が違うのですね」


「くふふふ……TPOはわきまえているつもりだ」


「はあ……それでお話というのは?」


 生徒会長のエイリアスを纏った際に氣が付いた事がある。

 彼女には、今直ぐ何とかしたい、と感じていた問題が一つばかりあったんだ。

 そしてそれは、僕にとっても……。


 だから、最後に彼女の望みを叶えてやりたい……そう思ったんだ。

 彼女が彼女である内にね。


「くふふふ……犯人は既に罰を受けている」


「……え?」


「そして、すべての始まりは僕……それこそが紛れもない真実だ」


「はあ……一体何の話でしょうか?」


 あれ?

 生徒会長って案外鈍い?

 これで十分に伝わると思ったけどね。


「くふふふ……これでは言葉が足りんか……ならば、耳の穴をかっぽじってよーく聞くがいいっ!」


「はい、分かりましたわ」


 本当に耳をかっぽじった生徒会長……。

 ちょっと可愛いかも……。


「おほんっ……えーと、あだ名をつけ広めたのは放送部の奴等で、あの場でオナラをしたのは優子先生ではなく僕なんだよね」


「……」


 豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした生徒会長……。

 やっぱりちょっと好みかもしれない。


「あれ? き、聞いていたのかな?」


「ぷ……ぷぷ……あははは……ああ、優子先生のあだ名の件でしたか……」


「うん……まあ、そうだね」


 恥ずかしいよね。

 あんまり仲良くない女子にオナラした事を告白するのって……。


「うふふ……ありがとう……ちょっとスッキリしましたわ。あ……因みに、罰というのは? 多分、放送部の方々の事ですよね?」


「うむ……週に三回程、商店街の清掃をやらされているそうだ。誰がやらせているのかは不明だけれどね」


「そうでしたか……うふふ……態々教えてくれてありがとうございました、創源――」


「礼には及ばん……くふふふ……これから我は、貴様を貴様とは違う存在に……」


「……え?」


「くふふふ……心はスッキリしたか?」


「ええ、まあ……優子先生の件については……」


「むう、そうか……」

 

 ちょっと話を付け足しておくと、生徒会長の中には、この世界の覇権を狙う、的な野望は一ミリもなかった。

 と言うより、彼女自身が悪魔である事を今一つ理解できていないみたいだった。

 親戚にも同じように尻尾や淫紋がある人達が居るし、ただ先祖から引き継いだだけ……まあ、そんな程度の理解だ。

 でも、大きなダサパンツを穿いていたくらいだから、それなりに氣にはしていたみたいだね。

 それに身体能力なども人間より優れているから……色々と違うな、くらいは嫌でも感じてしまうよね。


 恐らく悪魔的な目線だと、彼女はまだまだ生まれたばかりの赤子も同然なのかもしれない。

 だから、彼女の周囲にいるであろう大人な悪魔達は、彼女に悪魔としての知識をまだ本格的には与えてはいない……そんな氣がした。


 だが、彼女の血筋には強大な権力を保有する者達がゴロゴロと存在しているのは事実……。

 その点に関してはアイネスの調べとも一致した。


 その辺を考慮すれば、ステラが口にした”悪魔ブラクリオンの野望”とやらもより真実味を帯びて来る。

 例え現在の生徒会長にその氣はなくとも、いずれはその野望に巻き込まれる運命……。

 少なくとも悪魔ブラクリオンの子孫共は野望を抱いていたからこそ長い年月を掛け現在の権力を築き上げた……そう考えてしかるべきだろう。


「……佐田莉緒…………貴様にはイグジストになってもらう」


「イグジスト……それは一体何ですか?」


「くふふふ……それはなってからのお楽しみだ」


「そうですか……生徒会長よりも楽なお仕事ならば考えなくも…………あ、報酬とかはあるのですか?」


「くふふふ……そんなものがあるはずは…………あ、もやしとなめこはほぼ無限だ。それと、トンカツが半額……場合によっては十割引きで食べられるかもしれないな。まあ、そっちは期間限定みたいだが……」


「まあっ! それはかなりお得な情報ですわ!」


「――くふっ、決まりだなっ!」


 金色の輝きが僕を包んだ。


 ……やっぱりだね。

 エイリアスをオリジナルと融合させる時もエナジーは視覚化されるんだね。


 ああ……カッコイイよ、僕……。


「なっ! その光…………そ、創源君……あ、あ、あなたは一体……」


「くふふふ……教えておこう……我が真名はステファン!」


「ス、ステファン……?」


 ――恥っずかしいぃぃぃぃぃぃっ!


 完全に中二病だよね?

 って言うか、ステファンが真名って……。


 ま、いいか……どうせ、そう呼ばれる事になるのだろうし……。


「くふふふ……君には一生僕の使い魔(サーヴァント)になってもらうからねっ!!」



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