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032-敵襲 part3

 戦闘が開始されてから五分程が経過した。

 あ、リアルフィールで僕が参戦してからね。


 現時点では、どちらかと言えば、僕達の方が優勢だと思うんだ。

 認識阻害の魔法が弱まったお陰で、敵の動きもかなり見易くなったしね。


 けど、決定打に欠けると言うか……。

 アイネスの状態が万全ではないというか……。

 やっぱりチクチクしてると落ち着かないよね。


「……驚きましたわ。まさかこのわたくしが貴女のようなまだ幼さの残る少女に、こんなにも手こずってしまうなんて……」


「手こずる? どう見てもあたしの方が優勢だと思うのだけれど」


 ――ああ、もうっ!


 そうじゃないよね。

 ここはさ、「くふふふ……これでも手加減していたのだがな」とかハッタリを返す場面だよね。

 するときっと、「な、な、な、何と……そ、そ、そ、それは本当なのですか?」とか言っちゃって、敵は驚きを露わにするんだよね。

 そうしたら、「くふふふ……所詮雑魚にはその程度の事も気付けぬか」って、相手を憐れむような表情でさ……。


 アイネスはそういうところが分かってないよね。


「……まだまだですね」


「はあ?」


「うふふ……これでも手加減をしていたのですよ?」


 ――おっ!?


「なっ! そ、そんなはずは……」


 ――ア、アイネス?


「そうですか……やはり氣付けませんでしたか…………残念ですわ」


「ちっ……このあたしが…………あ、遊ばれていた……?」


「うふふ……雑魚にしては頑張った方だとは思いますわ!」


 ――おほぉぉぉぉぉぉぉっ!!


 いやー、分かってるね!

 よくは見えないけど、表情もバッチリな氣がするよ。

 アイネスには悪いけど、ちょっとだけ認識阻害の金髪悪魔を応援したくなっちゃた。


 でも、そうも言ってはいられないよね。

 そろそろ勝負を決めないと、何時よりも少しばかり精悍さに欠けるアイネスでは……。


「こ、このあたしを……ざ、雑魚だなんて――――絶対に許さないわっ!」


 アイネスが攻撃を仕掛けた。

 瞬時に膨張させた紫色の魔力で空間を埋め尽くすと、タイミングを見計らうように短剣を水平に構えた。


 生誕の間に轟く雷鳴!

 稲妻のような電撃が次々に出現しては、右へ左へと逃げ惑う認識阻害の金髪悪魔を隅へと追い込んでゆく――――!


 やがて岩の壁に行く手を阻まれた金髪悪魔は垂直にジャンプすると、岩の天井を踏み台代わりに蹴りつけ――――。


 ――待ってましたぁぁぁぁぁっ!


 僕は岩の天井を操り、三メートル四方程の大きさでくり抜いた。

 そして、そのまま容赦なく金髪悪魔諸共岩の地面へと――――!


「え?」


 バランスを崩し、そんな間抜けな声を金髪悪魔が発した次の瞬間、生誕の間に爆音のような猛烈な音が轟いた。

 それと同時に、激しい揺れと猛烈な砂埃が――――!


 だが、金髪悪魔を仕留めるには至らなかったようだ。

 その証拠に、山のように積み重なった岩の破片からガタガタという音が聞えて来たかと思えば、直ぐに崩れ、金色の髪が――――!


「ちっ……しぶといわね」


 短剣を構えたアイネス。

 間髪入れずにそれを水平に――――!


「――――はぁぁぁぁぁあっ!」


 まるで穴から顔を出したモグラのように頭部を晒した金髪悪魔へと斬撃が襲い掛かる――――――!


 激しい金属音が響き渡った。


 瓦礫の山の上に立つ金髪悪魔……。

 その腕には、いつの間にか盾が装備されていた。


「……わたくしにこれを使わせるなんて……うふふ……少しだけ見直しましたわ」


 恐らくは魔法金属製……。

 繊細で美しい紋様と光り輝く宝石が幾つか埋め込まれていた。


 ――ん?


「では――――わたくしの番ですわ!」


 金髪悪魔が消えた!


 いや、消えたのではない。

 異常なまでの速度で生誕の間を縦横無尽に駆け回っている。


 岩壁を蹴り、天井を蹴り、どんどん加速してゆく――――!

 アイネスのずば抜けた動体視力ですら追い切れない程にっ!


「ちっ……一体どうなっているのよ、あの女悪魔はっ!」


 アイネスが悪態をつてしまう気持ちは理解できる。

 サターリオなんて全く比べものにはならない。

 明らかに異常としか言いようがない身体能力だ。


 でも、勝機は見えたかも……。

 僕にはねっ!


『アイネスは防御に集中して!』


『な、何か策でもあるのかしら?』


『まあ、ちょっとね』


『うふふ……了解よ!』


 会話にすればこんな感じだけれどね。

 今はリアルフィールでアイネスとはバッチリガッチリ繋がっているからね。

 意思の疎通なんて一瞬さ。


 紫色の球体――――魔法結界がアイネスの身体を包んだ。

 通常よりも紫が濃い。

 しかも、それが二重に出現している!


 そこに真っ向から金髪を風に靡かせながら女が突っ込んで来た。


「――――やぁぁぁぁぁあっ!」


 後回し蹴りから始まり、拳や蹴りによる連続攻撃――――!


 それら全ての攻撃を紫色の球体は防いでくれている。

 だが、それも長くは続きそうもない。

 魔法結界からはガラスが軋むような嫌な音が連続して発せられている――――――!


『ステファンまだなの?』


『むう、もう少しなんだけれど……』


『――ダ、ダメ! もう持たないわ!』


『じゃあ、一旦後退!』


『――了解っ!』


 透かさずアイネスは転移魔法を発動した。


 だが、金髪女は諦めてはくれないようだ。

 再び岩壁を蹴り、天井を蹴り、どんどん加速してゆく――――!


『――アイネス、今度は三重だ!』


『なっ! そ、そんなに簡単に……』


『でも、二重じゃ十分な時間を稼げないんだ』


『分かった――――――やれるだけやってみるわ!』


 再び魔法結界が出現した。

 更に色も濃くなっている。

 それが二重…………そして三重に!


 さすがはアイネス!

 だが、かなり苦しそうだ。

 相当な無理をさせてしまったようだ。


 身体中に痛みを感じている。

 全ての情報が僕の脳ミソにしっかりと伝わって来ている!


 再び金髪女が突っ込んで来た。


「――――やぁぁぁぁぁあっ!」


 後回し蹴りから始まる拳や蹴りによる連続攻撃!

 まるでデジャブを見ているかのようだ。


 当然のように、魔法結界からはガラスが軋むような嫌な音が――――――!


「――――はぁぁぁぁぁあっ!」


 魔法結界へとありったけの魔力を流し込むアイネス。

 だが、無情にも一重目と二重目の魔法結界には大きな亀裂が――――――!


『――ステファン、もうそんなに長くは持たないわ!』


『くふふふ……時は満ちた!』


『はあ?』


『あ、今度は大丈夫そうだね』


『し、信じていいのよね?』


『うん……あ、ごめん、暫し乗っ取るね』


『……え?』


 そんなような意思の疎通を済ませた次の瞬間、金髪女の手の中に剣が出現した!


 見蕩れる程に美しく煌びやかな剣……。

 それをまるで弓矢のように構え、今にも前へと突き出さんとしている――――――!


「うふふ……幾重に重ねようとも、この剣で貫けぬものなどございませんわ!」


「貫く……? くふふふ……それが如何に優れた剣であろうとも、我の前では玩具に等しい!」


「……え?」


 二重人格……?

 とでも言いたげな表情を浮かべた金髪女。


 ま、気持ちは分かるよ。

 僕だってアイネスの口調がいきなりこんな風に変わったら、オシッコちびっちゃうくらいに驚かずにはいられないだろうしね。


 でもね、そんな些細な事より、アイネスの為にもこの戦闘を一刻も終わらせてあげないとね。

 さもなくば、彼女がっ!


「くふふふ……見ろ、我が絶大なる能力(ちから)をっ!!」


 アイネスの身体を包む紫色の魔力と金色のエナジー……。

 バランス良く入り混じっていた二つの色が一氣に金色へと傾く!


 すると、水平に保たれていた金髪女の壮麗な剣……その切っ先がまるでコンニャクのようにグニャリと……。


「――――んなっ! こ、こ、こ、これは一体……一体何が……起きて……?」


「ふっ……魔剣ギルツノウホマとチイエの盾……我が氣付かぬとでも思ったのか?」


「――なっ! ま、まさか……」


「くふふふ……はじめはどこぞの悪魔風情が我がセイクリッドネストに乗り込んで来たのかと思っていたが……くくく……なるほど……少しばかり謎が解けたぞ!」


 金髪女が武装を手放した。

 すると、無数の光の粒となって霧散してゆく剣と盾……。


 続いて、認識阻害の魔法が解かれ……。


 これで二度目……。

 やはり何処までも深い愛のようなものを感じる……。


 金髪女は柔らかな笑みを浮かべると、優雅な仕草で片膝を突いた。


「なるほど……プレミリーシアとイアルリーシアの融合体……くふふふ……それがプレイアの正体だったとはなっ!」


「はい……その通りですわ」


「くふふふ……聞きたい事は山ほどあるが……まずはその前に……」


 肉体のコントロールをアイネスに返しつつ、ずっと気になっていた事を……。


『アイネス、状況は理解できたよね?』


『ええ、まあ』


『ま、そういう訳だから……くすっ、もう我慢しなくても大丈夫だよ』


『……え? 何をかしら?』


『だって、はじめチクチクしてたのがだんだん痒くなってきたよね?』


『――ま、まさかっ!』


『あはは……いくら冬用でもさ、パンツの内側に毛糸素材を使うのはどうかと思うよ?』


『そ、そ、そんな事まで……分かってしまうなんて……ちょっと恥ずかしいわ』


『くくく……早く穿き替えた方がいいんじゃないの?』


『そ、そうかもしれないわ……ね』


『あ、面倒なら言ってね、僕がリアルフィールで代わりに穿き替えてあげるからさ!』


『――ば、馬鹿なんじゃないのっ!!』




 謎の宇宙人プレイアの正体はプレミリーシアとイアルリーシアの融合体だった。

 ワームホールで繋がった惑星イアよりも未来の時間帯からやって来たらしい。


 プレイアの説明によれば、イグジストだった王女姉妹はある時点で融合し、プレイアの姿へと進化したそうだ。

 それにより、様々な能力も飛躍的に進化したらしい。

 その後、月の女神に任命され、そして現在に至る、と……。


 ちょっとややこしいけど、まあ、何となくは理解できた。

 ただ、どうやって現在の地球にやって来たのかは、僕の脳ミソでは理解不能。

 何かね、高次元からこの世界を見ると、時間も距離も関係なくなる、とか意味の分かんない事を言っていたんだ。

 やっぱり彼女はちょっと頭がおかしいのかもしれないね。


 それと、月の女神に任命されたって話だけれど……。

 一体誰が月の女神に任命したんだってな話だよね?

 高次元には神様が居ます、とか言われても、僕、納得はできないよ?


 あのトンカツ屋で初めてプレイアに会った時、その去り際に「次はある程度のお掃除が済んだ後に」って言たけど……。

 あれは、レプテリアンが地球から消滅した後に会いに来る、という意味だったみたいだ。

 そしてその理由は、地球の状況がレプテリアンが存在していた時と然程変わっていない、という事実を僕に教える為だったらしい。


 それと、プレイアによれば、表の世界で権力の座に就いている悪魔共は人間との混血でそんなに強くはないそうだ。

 彼等は只々上位存在――生粋の悪魔――の命令通りに動いているだけらしい。

 生粋の悪魔共はどこぞの地下深くに潜んでおり、表世界のお偉いさん達を操り人形のように操っている……それがこの世界の真の支配構造なんだってさ。

 要するに、表世界の政策や大きな行事等等々……全ては生粋の悪魔共によって決められているらしいね。


 となると、学校の休みとかを決めたのも奴等かもしれないね。

 全く……休日が少な過ぎるっつうの!


 まあ、それはさて置き、ここからは僕の推測だけれど、プレイアは本音……と言うか、真の目的を隠していたと思うんだ。

 だってさ、月の女神だよ?

 ちょっとミステリアスで大人な私を演出してみました的な匂いがプンプンするよね。

 ま、僕も似たようなところがあるかもだし、その点に関してはあまり突っ込みたくはないけど……。

 でも、ちょっと嘘っぽいかな。


 多分ね、プレイアは僕の創造主ごっこに以前から興味を持っていたんじゃないのかな?

 そんでもって、どこか遠くから様子見をしている内に、本格的に参加したくなった……って感じだと思うんだ。

 だから、僕が喜んで食いつきそうな月の女神という役を、ここぞとばかりに演じてみたと……。


 あり得るよね?


 ま、とりあえず、今後はその方向でプレイアと接してみるつもりだよ。

 彼女も「また来させていただきますわ、ステファン様」とか言っていたし、結構乗り氣だと思うんだ。


 ああ……かなりいい感じになって来たよね。

 だってさ、僕は月の女神を配下に持つ創造主だよ?

 テンション爆上がりだよっ!!


 プレイアの奴、結構いい仕事するね。

 今度来たら、なめこ汁でも作ってあげようっと!



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