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025-プルルン星人一網打尽作戦2

 巨大なリモリモの切り株の側面に入り口が現れた。

 マキアは春風のように穏やかに且つ迅速に、そしてルキアは擬態能力で階段や壁の一部と化しながらその中へと入って行った。

 その後を小人化したムンムンを肩に乗せたイアルリーシアが追う。


 巨大なリモリモの切り株をくり抜いたような通路だが、二人の人間が肩を並べた状態でも楽に進んで行けるだけの広さがあった。

 床はステップ幅の広い階段状に削られていた。

 僕とアイネスは紫色の球体に包まれ、イアルリーシアの数メートル後方を進んでゆく。


 ワイルドミーの探査魔法の有効範囲は三百メートル……。

 今のところ奴等の氣配はない。


 数分後、大きな地下空間に辿り着いた。

 鍾乳洞のような空間だ。

 この場には自然にできた地下空間が元々あったのかもしれない。

 プルルン星人はそれを利用し、この拠点を造ったのだろう。


 その大きな地下空間を通り抜け、更に進んでゆく。

 すると、今度は緩やかな下り勾配の洞窟となった。

 天井がかなり高く、地面の所々には小さな穴がある。

 それらの真円に近い形状からして、殆んどが人工的に穿たれたものと考えるのが自然だろう。

 瘦せ型の人間一人が何とか入っていける程度の大きさだ。


 今のところは順調だ。

 だが、奥へと進むに連れ、アイネスの機嫌が悪化しているように感じる。

 鋭い琥珀色の猫目でずっと睨まれている……ような氣がしてならない。


 きっと多分、今回の相手がプルルン星人なのが不機嫌の根本的な原因だろうね。

 だってさ、素の姿はまだしも、トランスフォームしてもハゲって……。


「絶対に八つ当たりされるかと思っていたけれど……アイネス、貴女も少しは大人になったのね。ちょっとだけ見直してあげてもよくてよ?」


「はあ? 何か言ったかしら?」


「な、な、な、何でもないのね……た、た、ただの独り言なのね」


「ちっ……その高飛車な態度……毎度毎度イラっとさせられるわ!」


「んごっ!」


 ワイルドミーのエイリアスが原因だった感じ?

 でもでも、過失割合はトランスフォームハゲ>ワイルドミーだよね?


「……そんな事より、反応はないのかしら? 折角、とっても個性的で碌でもないエイリアスを纏っているのだから、少しぐらいは役に立って欲しいものね」


「あはは……えーと、ウチの探索魔法には……い、今のところは何の反応も無――――――――あ、有るのねっ!!!」


 ワイルドミーのエイリアスを纏っているのは探索魔法を使う為だ。

 そしてその対象は言うまでもなくプルルン星人――――!


「――ちっ! ハゲ共との距離は?」


「ちょ、丁度三百なの――――うひゃっ!」


 紫色の球体が一瞬にして消滅してしまった。

 必然的に落下が始まる――――――!!




 ほんのちょっと落下するだけで済むはずだった。

 数メートル程下の岩の地面に落ちるだけだと……そう思っていた。


 だが、実際にはかなりの距離を落下したはずだ。

 感覚的には数百メートルは落ちた……ような氣がする。


 そして現在、身動きが全くとれない状態に陥っている。

 しかも、視界が完全に奪われてしまっている。

 

 状況は最悪だが、ワイルドミーのエイリアスを纏っていたお陰で、直ぐ近くにアイネスが居る事は感知できている。

 だが、彼女以外の反応は無い。


 兎にも角にも、先ずは念話を試みる。


『ご機嫌よう、アイネス……こちらは、ステファンなのね』


『――ご、ご機嫌な訳ないじゃない!』


 ――ごもっともですっ!


 だけど、この受け答えは何時でも何処でも省略不可。

 こればかりは僕にはどうにもできない……。


『……』


『もう、毎度毎度……イライラさせてくれるわねっ!』


『……』


『ちっ…………あ、あら、ステファン……ご、ご、ご機嫌よう……それで、あたしに何か御用?』


『今、どんな状況なのかしら? アイネスが直ぐ近くに居る事だけは感知できているのだけれど……』


『……あ、あまりにも伝えるべき情報があり過ぎるのだけれど……そうね、先ずは――』


 アイネスによれば、僕達二人は縦穴に落ちてしまったらしい。

 所謂ホールインワンというやつだ。

 そしてその縦穴は魔法金属でできていたらしい。

 要するに、プルルン京にあった串団子タワーのような奴等の何らかの施設内に意図せず飛び込んでしまったようだ。

 言われてみれば、確かに通常とは違う魔力の流れを感じる。

 プルルン京の地面を踏み締めた時に感じたあの違和感とよく似ている。


 既にアイネスは仲間達と連絡を取ろうと念話を試みてくれたようだ。

 だが、やはり繋がらなかったらしい。

 そのことから推測するに、偶然にしろ、意図的にしろ、念話はプルルン星人によって妨害されている、と考えられるそうだ。

 それと、僕達は既に奴等に感知されてしまっていると考えるべき、との事だ。


 因みに、僕とアイネスがピタッと密着しているお陰で、念話は繋がっているようだ。

 空氣や空間を媒介にしなければ、魔法も念話も使えるらしい。


 まあ、それはさて置き、この柔らかな感触は……何?


『なるほど……凡そは理解できたのね。それで……ウチは何に挟まっちゃっているのかしら? 全然身動きがとれないし、視界も真っ暗なままなのね』


『はあ? だから、縦穴の途中に嵌っている、って言ったはずよね?』


『そうじゃなくて……ウチの顔は何に挟まちゃっているのかしら? 教えてくれてもよくてよ?』


 顔面に密着している何かがビクンッとなる。


 とってもとっても心地の好い温かさだ。

 しかも絶妙に柔らかい……?


『……あ、足……ね』


『アイネスの……かしら?』


『そ、そうに決まっているじゃないっ!』


『あらあら……ん? にしては、柔らかいような……でも、まあ……なら、動いても問題はないかしら? ちょっと息苦しいのね』


『――う、動くのは……や、や、止めて……ほ、欲しい……わ』


『……何故かしら?』


『な、何故って……』


『ウチは息苦しいのね! だから、早く答えるのね! さもないとガブッと(かじ)っちゃうのね!』


『――じ、実は……お、お、お股…………な、なのよ』


『……お股?』


『そ、そうよ……あ、あたしのお股に……あ、あ、貴女って言うか……あ、貴方の顔が挟まっちゃっているのよっ!』


『ああ、そういう事…………うふっ……うふふふ…………だからなのね…………だから、こんなにも……あははは……』


 アイネスの動揺につけこむように、碌でもないスイッチがオンになってしまった。


 ワイルドミーのエイリアスが勝手に(わら)っているんだよ?

 僕の意思じゃないよ?


『――ちょ、ちょっと……「だから、こんなにも」って……い、い、一体何の事……か、かしら?』


『あははは……別に大した事ではないのね。でもでも、どうしてもと言うのであれば……うふふ……教えてあげなくもなくてよ?』


 再びビクンッと反応したアイネス……。


『……じゃ、じゃあ……お、教えなさい』


『あははは……仕方ないのね。何を隠そう貴女と貴女のお股についてなのだけれど――』


 柔らかな感触と仄かな甘い香り……。


 今この瞬間に五感で感じ取れるのは精々その程度だけだよ?

 そしてそれらの情報から推測するに、アイネスのお股は特に問題はない……はずだよ?

 女子のお股に詳しくはないけれど、きっと多分そうだと思うんだ。


 だが、堕天使ワイルドミーの毒舌は止まらない。

 僕の意思では止められない一種の病氣のようなものだ。

 エイリアスに刻まれている碌でもない制約がこの口を動かし続ける。


 まるで悪魔のような言葉の数々……。

 ある事無い事ベラベラと喋り続け、終わる氣配すらない……。


 きっと多分全部嘘……であって欲しい…………よね?


 この顔を左右から挟んでいるであろうアイネスの太腿が、まるで釣り上げたばかりのサバのようにプルプルしている。

 この尋常ではない太腿のバイブレーションは、きっと彼女の動揺と怒りの大きさを如実に表現しているのだろうね。


 ああ……きっと多分僕死ぬ……よね?




 ……色々とあった。

 だが、アイネスに殺られることもなく、何とか縦穴の底まで辿り着けた。

 あの体勢を嫌がった彼女が、あの場で新たな魔法をパパっと創造してくれたのだ。

 きっとワイルドミーの毒舌が良い刺激となったのだろうね。


 ホント、ワイルドミーには困ったものだよね。

 関係のない僕がプチ拷問を食らってしまったよ。


 まあ、そんなこんなで、自由に動けるようになっている。

 実は、アイネスがちょちょいと生み出した魔法によって、僕達二人は身長三十センチ程の小人となっているんだ。

 そのお陰で、ちょくちょく出くわすプルルン星人共を上手い事躱せている。

 物陰等で小さな身体を隠しつつ、どんどん奥へと進んでゆく。


 因みに、この施設内に居るプルルン星人共の容姿は以前プルルン京で見たものとは違っていた。

 と言うか、トランスフォームを解いていたからね。

 だから、姿形は地球のレプテリアンとほぼ同一……。

 でも、肌がちょっと青いんだ。


 やっぱり地球のレプテリアンとは微妙に違う種族なのかな?


『ちっ……意思疎通の為とは言え、貴方のような女と……いいえ、貴女のような男と……ああ、もうどっちでもいいわ。兎に角、とっても腹立たしいわ!』


 今も念話が使えない状況が続いている。

 でも、空間もしくは空氣を媒介としなければ使用可能。

 だから、僕とアイネスは手を繋ぎ、縦穴の底で繋がっていた横穴を全力で走っている。

 遠くに見える明かりを目指して――――。


 ただね、プルルン星人のハゲ率は百パーセント……要するに、全員ハゲだね。

 見た目はレプテリアンだからね。

 だから、アイネスの機嫌はますます……。


『あら、ウチの手を握って来たのは貴女の方じゃなかったかしら?』


『ちっ、一々細かい事を…………けど、もうそんな事なんてどうでもいいわ。うふふふ……漸く楽しくなりそうだわ!』


『――んなっ! あ、あれは何なのかしらぁぁぁ!』


 緩やかなカーブを曲がった先に現れた地下空間――――。

 プルルン京にあった串団子タワーのお団子の大きさなど比ではない。

 途轍もなく巨大な球状の地下空間が視界に入った。


 その中では様々な物が……浮いているっ!?


『――んげっ!』


 アイネスの動きがピタッと止まった。

 まるで瞬間冷凍されてしまったかのようだ。

 目玉が飛び出しそうな程に目を見開いている。


『ア、アイネス?』


『…………た、た、助かった……? ギリギリセーフだった…………み、み、みたいだわ』


 目の前に存在する巨大な地下空間……その中には何らかの作業をしているであろうプルルン星人が無数に居た。

 だが、その殆んどは機械等を操縦しており、その姿……と言うか、その頭部は見えていない。


 【夜明けのストラーダ】のアンポンタン作家によって、アイネスには碌でもない呪いのようなものが掛けられている。

 彼女の視界に入ったプルルン星人の頭数次第では、その呪いが発動してしまうところだった……。

 アイネスの表情から察するに、きっとそうだったに違いあるまい。

 あの呪いのせいで彼女は一度死んでいるし、かなりゾッとしたはずだ。


『あらあら……それは残念だったのね。ところで、あれらは何で浮いているのかしら?』


『……』


『アイネス?』


『……え? ああ……きっとこのガラスの向こう側は無重力空間になっているのでしょうね』


『……落ち着いたかしら?』


『ふんっ、とっくに落ち着いているわ! それにしても巨大ね。ねえ、ステファン、あれは何かしら?』


 超巨大な地下空間……。

 その中には、全長数百メートルはあるであろう物体が幾つか浮いていた。

 アイネスは、その内の一つを指差しながらそう口にしたのだ。

 

『巨大な宇宙船……いや、あれは宇宙戦艦だと思うのね』


『ふーん……あたしが生まれ育ったあの世界と地球……どちらにもあんなモノは存在していなかったわよね?』


『そうね。プルルン星人文明が地球よりもはるかに進んでいるのは間違いないようだけれど……アイツ等、一体何を企んでいるのかしら?』


『さあ……でも、ステファン、貴方はアレらが危険だと……そう感じているのよね?』


 プルルン京に於いて、奴等はいきなり攻撃を仕掛けて来た。

 それに、きっと今回も僕達と真面に会話をするつもりもないはずだ。

 そんな奴等がアレらを平和的に使用するとは到底思えない。


 けど、一隻ぐらいはゲットしておきたいよね?


『まあね……でも、ぐふふふ……宇宙海賊ごっこも楽しいかもしれないのね!』


『はあ? 宇宙海賊ごっこ……?』


『うふふ……奴等から一隻拝借して――』


『ハゲもその創造物もこの世界には微塵も必要ないわっ!!』


『ちょ、ちょっと待つ――――――って、うにゅっ……』


 瞬時にアイネスの身体が元の大きさに戻った。

 かと思うと、僕は摘まみ上げられ、彼女の小ぶりな谷間にムニュっと納められた。


 些か窮屈ではあるよ?

 でもね、これはこれで……むふっ! むふっ!


 いやいや、柔らかな感触に浸っている場合ではないよね?


「さてと……」


「ア、アイネス……ちょっと待――――おほっ!」


 一瞬にして視界が紫色の光で埋め尽くされた。

 その輝きが……アイネスの魔力が急激に増大してゆく――――――!


「うふっ、やっぱりだわ…………女神アルシェミナ様より与えられし無限の魔力……それを惜しみなく流し込めば……うふふふ……こんな状況下でも攻撃魔法を……あははは!!」


 目の前に出現した濃密なる紫色の領域――――!

 まるで無数の稲妻が閉じ込められているかのようだ。


「い、い、嫌な予感しかしない……のね」


「あははは……総て跡形もなく消えてしまいなさいっ!!」


 紫色の領域が一氣に膨張する――――――!!

 巨大な地下空間が一瞬にして破壊と鏖殺(おうさつ)の領域へと変貌を遂げる――――――――!!!




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