024-プルルン星人一網打尽作戦1
現在行われている作戦……その名は【プルルン星人一網打尽作戦】だ。
プルルン京の串団子タワーで何らかの実験を行っていた宇宙人……プルルン星人の残党を見つけ出し、やっつける事が僕達の仕事だ。
奴等の拠点はエルフェスタ王国領内……特に広大な巨大樹リモリモの森の中に存在する可能性が高いらしい。
プルルン京の一件から三百年以上が経過した訳だが、その間にも奴等は色々と悪事を行っていたようだ。
と言うより、現在進行形で度々プルルン星人絡みの事件が起きているそうだ。
そのうちの一つ……十年程前に、エルフェスタ王国の水源であるルククシイ湖に秘かに毒を撒いた、という悪質な事件があったらしい。
結果的には、水質浄化の魔道具が開発された事で大事には至らなかったそうだ。
だが、検出された毒を分析した結果、極々少量ずつ体内に蓄積し、やがて何らかの病を引き起こす類のものだったらしい。
そんなこんなで、二人の王女に頼み込まれ、作戦に参加した訳だが……。
既に十日程が経過しているにも関わらず、未だに何の手掛かりも得られてはいない。
恐らく奴等は、何らかの方法で探索魔法から逃れているはずだ。
兎にも角にも、二人の王女からの頼まれ事をとっとと解決してしまいたい。
だって、今回僕達は観光目的でこの惑星にやって来たのだし……。
「ねえ、イアルリーシア……そろそろ自由にしてくれるかしら?」
「……もう三分経ってしまいましたか……残念ですわ」
イアルリーシアは太腿が大好物らしい。
頬をくっ付け、キッチリ三分間抱き着くのが毎朝の恒例行事となっている。
これをするとしないとでは、彼女のヤル氣に大きな違いが出てしまうのだ。
それもこれも、作戦が開始されて以降、僕が毎日毎日ワイルドミーのエイリアスを纏っている事が原因なのは間違いない。
でもね、イアルリーシアの氣持ちは理解できてしまうんだ。
だって、僕の……じゃなくて、ワイルドミーの絶対領域からは、絶えず甘い香りが漂っているからね。
まあ、そんな魅力的な絶対領域ではあるが、エイリアスに刻まれている堕天使ワイルドミーの記憶によれば、それは嘗ての悪行に対する報い……のようだ。
「……にしても、ウチの探索能力を以ってしても、何の手掛かりも得られないなんて……もう十日も経つのよ?」
「ぐひひひ……十日程度ではまだまだ満たされませんわぁぁぁ!」
「――い、いつまでも抱き着いている場合じゃなくてよっ!」
それにしても不思議だ。
ワイルドミーのエイリアスを纏えば、ちゃちゃっと奴等の尻尾を掴めると思っていたのだけれど……。
不本意ながら、現時点では尻尾のしの字すらも掴めてはいない。
一体全体、奴等は何処に潜んでいるのだろうね。
ここ一週間程は、巨大樹リモリモの森の中を捜索しているのだけれど……。
などと考えていると、脳ミソにビビッと!
この感覚は念話……アイネスからだ。
ペアを組んでいた優凛がプレミリーシア第一王女が所長を務めるエルフェスタ王立最先端技術研究所に呼ばれてしまったせいで、ここ数日、アイネスは一人で頑張っているらしい。
そんな彼女に少しは氣の利いた言葉をかけてやりたいのだけれど……。
でもね、そうは問屋が卸さない。
だってさ、今纏っているのはワイルドミーだからね。
『……誰かしら?』
『ちっ……』
『……誰かしら?』
『……理解はしているのだけれど、やっぱりイラッと来てしまうわ…………ステファン、貴方が何とかしなさい!』
『……誰かしら?』
『ちっ……ポンコツ……』
『……誰かしら?』
『…………ご、御機嫌よう……こ、こちらはアイネス……で、ですわ』
『あら、アイネス……ご機嫌よう。それで、ウチに何か御用?』
残念な事に、この受け答えは省略不可となっている。
何故ならば、これもワイルドミーの個性と言うか性格と言うか……まあ、要するに、エイリアスの一部なのだ。
にしても、ワイルドミーの曲者度はハンパない。
ヤツは僕を困らせる為に生まれて来たのかもね。
『あのね、ステファン……もうすぐ王都の東門から不審な荷馬車が出て行くはずよ。二頭立てで青い旗を掲げているわ』
『あらあら、遂に尻尾を出したのね……と言いたいところだけれど、間違いないのかしら?』
『ちっ、このあたしを一体誰だと……』
『確か……ウチらの中で一番胸が小さいアイネス・ダークネスだったかしら?』
『そ、そういう事じゃ……って言うか、その身体と大して違わないじゃないっ!』
――ですよねー!
いやいや、楽しい氣分でツッコミ入れている場合じゃないよね?
このままだとマジギレさせちゃうよね?
『おほん……それで、どう不審だったのかしら?』
『……センサーを使ってみたのよ。そしたら、荷馬車に乗っていた全員に反応があったのよ。見た目は四人ともがフサフサだったけれど、アイツ等全員――――絶対にハゲよっ!』
アイネスはハゲを苦手としている。
彼女の唯一の弱点と言ってもいいはずだ。
そんな彼女がある意味命懸けで生み出したのがセンサーという探索魔法だ。
お世辞にも性能が良いとは言えない魔法だが、対象がハゲならばその精度は宇宙一かもしれない。
『なるほど……つまり、カツラを被っていたと?』
『ええ、かなりの至近距離からセンサーを発動して確認したのだから間違いないはずよ』
惑星イア、少なくともエルフェスタ王国にはカツラは存在しない、という情報は得ていた。
と言うか、エルフは禿げる事がないらしい。
以前、プルルン京で奴等の髪型に違和感を感じたのはそのせいだったのだろうね。
因みに、素の姿のプルルン星人は髪の毛は一本も生えてなく、ワニっぽい顔と鱗が特徴らしい。
しかも、トランスフォームをする、と……。
何かと似ているよね。
『ふむふむ……でかしたのね、アイネス……うふっ、後はウチらに任せてくれればよろしくてよ。じゃあ、バーイバイ』
『ちっ…………バ……バ、バー……バ、バカなんじゃないかしら?』
『……』
『――き、切りなさいっ!』
僕もそうしたいよ?
でもね、誠に遺憾な事に、この受け答えはどう藻掻いても省略不可なんだよね。
だからこそ、サキュベール公国ではあんな出来事が……。
きっとイアルリーシアは念話を終わらせる為の言葉を一週間以上も口にしなかったのだろうね。
『……』
『ちっ、ホント碌でもないエイリアスだわ。早く融合させるなり捨てるなりしてしまいなさいっ!』
『……』
『……し、仕方ないわね…………バ……バ、バーイバイ』
暫くアイネスとは会いたくない氣分だよ。
絶対に八つ当たりされるに決まっている。
僕は悪くない……よね?
まあ、それはさて置き、漸く現状を打開するチャンスがやって来たようだ。
きっとイアルリーシアも、この機会をさぞや……。
「漸く奴等が動き出したみたいなのね。二頭立てで青い旗を掲げた荷馬車が東門から出て来るらしくてよ」
「うふふふ……漸くですか。では、東門に転移する前に……」
ワイルドミーを纏った僕の太腿をじーっと見つめているイアルリーシア……。
すると、ちょろっと舌を出し……。
「……な、何をするつもり……か、かしら?」
「おほほほ……お掃除ですわ! ワタクシとした事が、先程その美味しそうな太腿に涎を垂らしてしまいまして……ぐふっ」
「――だ、だからって、ペロペロ舐める必要はなくてよぉぉぉぉぉぉぉ!」
リモリモの大森林を貫き、隣国へと続く道を例の荷馬車は一時間程走り続けた。
その後、その道を外れ、雑草生い茂る獣道を更に三十分程進んだ。
そして最終的には、名も無いであろう小さな泉の畔で止まった。
人氣の全く無い、とても薄暗い場所だ。
その泉の近くには、巨大な切り株があった。
直径で優に五メートルは超えているであろうリモリモの切り株だ。
その周囲は、高さ三メートル程の茂みで覆われていた。
例の荷馬車から降りた四人の男達はその茂みの中に入って行った。
ペアを組み、周囲をやたらと警戒していた。
五分程が経過した後、彼等は荷物と共に現れた。
その後、数回往復し、十分足らずで荷馬車の荷台を綺麗に埋めた。
そして現在、彼等は再び荷馬車に乗り込み、王都へと戻って行くところだ。
僕とイアルリーシアはリモリモのぶっとい幹の影からそんな彼等の様子を窺っている。
既に念話で確認済みけど、アイネスはこの森の何処かに潜んでいるようだ。
だから、四人の男達の方は、彼女に任せておけば問題ないはずだ。
優秀な彼女ならば、彼等から最大限の情報を引き出してくれるだろう。
「さてさて……運び出した荷物も氣にはなるのだけれど……うふっ、あの中には一体何が隠されているのかしら? それじゃあ、イアルリーシア、あの茂みの前まで一氣に転移するのね」
「了解ですわ」
次の瞬間、目の前にその茂みが現れた。
だが、無理にかき分ける必要はなさそうだ。
多少身を縮める程度で難なく入って行けるだけのスペースが……。
「あら? あれは……」
茂みの奥に鎮座していたリモリモの巨大な切り株……その側面に少々違和感を感じた。
~数時間後。
諸々の調査などが終わり、いよいよ奴等の拠点に乗り込む時が来た。
この場にはアイネス、マキア、ルキア、イアルリーシアの他にムンムンも駆けつけてくれた。
因みに、僕は今もワイルドミーのエイリアスを纏っている。
彼女の魔法は何かと役に立つからね。
巨大なリモリモの切り株の側面には細工が施されていた。
特殊な装置を使う事で変形し、側面に地下への入り口が現れる仕掛けのようだ。
アイネスが例の馬車に乗っていた四人から聞き出したみたいだね。
彼等にどうやって吐かせたのかは知らないけど……。
『でかしたのね、アイネス……褒めて遣わしてやるのね』
『はあ?』
不機嫌そうなアイネスの言葉が脳内に響いた。
まあ、普通の反応だよね。
ワイルドミーって無駄に態度デカいし……。
因みに、例の男達四人は、王都の外れにあったという彼等のアジトに戻ったところでアイネスによって捕らえられ、その後、プレミリーシアに引き渡されたそうだ。
そして、あの大量の荷物は、数種類の化学物質だったらしい。
きっと奴等は、またしても何か碌でもない事を企んでいたのだろうね。
そんなこんなで、優凛は今も王立研究所に居るんだ。
数種類の化学物質とやらが何なのかを解明する為にね。
アナライズが相当に役に立っているみたいだ。
『な、何でもないのね……アイネス、一々腹を立てる必要はなくてよ?』
『……ちっ』
『そ、それで……マキア、ルキア、周辺はどんな感じだったかしら? 状況を聞いてあげてもよくてよ』
すると、巨大なリモリモの切り株の側面にルキアが現れた。
ミスティカメレオンと融合し、復活したことで得た能力……擬態を解いたのだ。
それとほぼ同時に、マキアも現れた。
エアリアルホワイトファルコンと融合した事により、視力と暗視能力の両方が以前より大幅に向上している。
しかも、風を利用した素早い動作も得意とする。
因みに、ミスティカメレオンもエアリアルホワイトファルコンもアイネスと融合したアダマンタイトキャットと同じ小説に登場していた妖精だ。
確か……【精霊妖精大冒険】だったかな?
『はい、では報告させて頂きますわ。わたくしとルキアが念入りに周囲を調べた結果……』
問題が無いのは分かっていたけどね。
一応報告は聞いておかないとね。
場の雰囲氣も変えたいし……。
『えーと……では、そろそろ奴等の拠点に乗り込込もうと思うのだけれど、準備はいいかしら?』
『ええ、ワタクシは何時でもオーケーですわ』
『わたくしとルキアも問題ありませんわ』
『ムンムンもだよ、超越者ステファン様!』
『ふふっ、そうね……あたしも何時でも行けるわ、超越者ステファン・さ・ま!!』
――小っ恥ずかしいぃぃぃぃっ!
ムンムンは兎も角、アイネスには呼ばれたくはないよね。
絶対にバカにしてそうだし……。
でも、アイネスの機嫌が少しばかりは良くなったみたいだし……ま、いいか。
『ふふーん……じゃあ、決めたのね! マキア、ルキア、ムンムン、イアルリーシア、ウチ、そしてアイネスの順で奴等の拠点に乗り込んじゃってもよくてよっ!』
『『『『『――了解っ!』』』』』




