第15話 ~被害報告~
2018年12月30日
佐賀県唐津市
巧次は唐津市の北部にある第1騎士団本部の会議室に来ていた。異形が大量発生した日から2日経ち被害の全容が少しづつ解明された。この場に集まった者に対魔騎士団が集められた情報の共有がなされる。会議室には各騎士団の団長5名、内務局から4名、そして対魔師団の意思決定機関である評議会から3名と対魔師団の中でも重役が集まっていた。第1騎士団は今回の事態の正面だったため団長の他に第6騎士隊長や補佐の人員が合わせて3名参加していた。さらに政府の関係者とみられるものも5人ほど参加していた。全員がスーツ姿だ。騎士団でも警察や軍隊のように独自の制服を作るといった話は出たがそんなことに使う予算があるなら防衛のための資材をということになりその話はすぐに消えた。巧次は勇二と遠藤の2名を追い詰めた異常に強い異形の報告のためにここへ呼ばている。
第1騎士団の補佐の人員がパワーポイントを使いながら報告する。「今回の事態において出現した異形は97体そのほとんどが討伐されたものの、そのうちの1体が交戦していた第2騎士団の騎士から逃走し、今も行方が分からない状況です。死者は騎士団全体では39名、負傷者は重軽傷合わせて48名に及んでいます。その中でも我が第1騎士団は軽傷者18名重傷者9名、死者は21名、行方不明者5名にも及んでいます。中でも第5,6騎士隊の被害が大きく、第6騎士隊に関しては16名もの隊員が死亡または戦線復帰不能の重傷を負っています。一般人の被害は死者17名行方不明者53名にも及んでいます」「想像以上に被害が大きいな」と第4騎士団の神田が呟く。1個騎士隊あたり30名の騎士で編制されている。16名はその半数にも及ぶ。「なぜここまで被害が大きくなった?例のβ個体とかいうやつが原因か?」と第5騎士団長の尾形が質問する。「いえ、わが隊の損害と報告に挙がっている個体とは無関係です。詳しくは第6騎士隊長より報告いたします」そう言い、補佐の人員は後方に控えていた第6騎士隊長と代わる。
「第1騎士団第6騎士隊長須田が当時の状況およびそれに至った経緯を説明させていただきます」プロジェクターが唐津市の地図へと切り替わる。その地図には赤い点と青い点が記されていた。「赤い点が異形、青い点が上が隊の配置となっています。当時避難所として機能していた市立名古屋小学校およびその周辺の防御を任務として与えられていたわが隊は当該施設へ20名、周辺に遊撃として5名編成の班を2個班配置しておりました。深夜0時50分頃の作戦開始当初当該施設周辺の異形は10体に満たないものと見積もられ、しばらくの間はその見積もり通り異形の数も多くなく、遊撃班で十分対処でき、撃破された異形は7体に上りました。事態が急変したのは1時30分頃です。当該施設が突如多量の異形の群れに襲撃されました。異形の数は30を超え、避難民はパニックに包まれました。当該施設の玄関等で4個班に分散配置されていた我々はは反撃を試みるも逃げ惑う避難民の群れに巻き込まれうまく対応できずに各個撃破されていきました」「なぜそのような配置にしたんだ。異形がすぐ近くに現れれば避難民がパニックになるのは予想できたことだろう!」と尾形が言い放つ。「おっしゃる通り避難民の異形が傍に現れた際の混乱は我々も予想しており、当初は5名1個班を当該施設を直接護衛、他の5個班を遊撃として当該施設の周辺地域に配置し異形が当該施設へ近付く前に撃破する作戦でした。ですが当該施設の学校長やその地域の自治会長等が学校の護衛の人数を増やすよう強く要望したためこのような配置となってしまいました」「外部からの圧力で配置を変更したと言うのかね」そう返した須田を尾形は問い詰める。「おたくと違って我々第1騎士団は最前線で活動している。地元住人の強力が無ければ異形との戦闘は困難となる。地元の意見をそう簡単に無碍には出来ない!」第1騎士団長の後藤が尾形に反論する。「その結果がこれだろう!騎士団にも一般人にも大勢犠牲が出てる!」机を叩き尾形は立ち上がる。「ふたりとも落ち着け!今は責任追及の場ではない」第2騎士団長の真田勝馬がその場を収める。チッと舌打ちをし尾形はその場に座る。「それでは続けさせていただきます」と言い須田は説明を続ける。「施設を直接護衛にあたった我々は学校の正門、北門、体育館前、グラウンドにそれぞれA、B、C、D班で別れ配置致しました。1時30分頃異形がこのグラウンドの位置に侵入致しました。すぐにグラウンドの護衛にあたっていたD班が対応、その間に他の班が現場へ向かおうとするも逃げようとした避難民達が通路に押し寄せA、B、C班は身動きが取れなくなりました。その隙にD班が取りこぼした異形が体育館を襲撃、C班は避難民のため満足に抵抗できず壊滅しました。A、B班は直線距離でグラウンドに向かうのは諦め、避難民の流れに沿い事後この位置から外周沿いにグラウンドへと前進しました。ですが到着した際にはD班も..!」須田は言葉に詰まる。無理もない大勢の部下が犠牲になったのだ。数秒の後、気を取り直し須田は言葉を続ける。「その多くが死亡または重症を負っていました。到着した我々はA班がグラウンド、B班が体育館にいる異形の対処に当たりました。数は敵の方が多く、戦況へ拮抗しておりましたが、当該施設の周辺で遊撃に当たっていた1個班が合流し戦況は好転、グラウンドの異形を殲滅、事後体育館の異形の殲滅を実施しました。異常が名古屋小で起きた事案の経緯です。何か質問等はございますか?」須田は会議室の面々に聞く。
「1つ良いかな?」神田が手を挙げ質問する。「鎮西町に異形が発生した当初、通報や監視所の報告などから異形の数は60と見積もられている。そのうちの約20はこの第1、2騎士隊の位置、さらに20が第3及び2-3騎士隊の位置、10が当該施設周辺、さらに十数体が第4、5騎士隊の位置に出現している。既にこれで通報当時の60だ。避難所襲撃前に遊撃隊が7体の異形を倒していいることを考えると少なくとも27体の異形が新たに発生していることになる。これは実際に異形の発生が2回に渡って起きたのか、それとも最初の見積もりが間違っていたのか、第1騎士団はどのように考えているか教えて頂きたい」今までの経験上異形は連続して発生することはない。複数の場所に発生することはあるがそれは同じタイミングで発生する。そして1度異形が発生すると暫くは発生しない。今まで報告されている事例で同一地域において次の異形が発生するまでの最短の期間はカナダのブランドンと言う地域で報告された11日間が最短である。もしも今回2回に分けて異形が発生していたのなら異例の事態だ。世界中の抗魔機関で今後の対策を見直す必要がある。
「それについては私から」と後藤が説明を代わる。「結論からいえば確たる証拠はないが2回に渡って異形が発生可能性が高いと我々は判断している。理由としては第1騎士団は鎮西町を始めとした唐津市北部の各町に監視網を構築している。友人監視所、監視カメラや一般人の協力者など唐津市を完全にカバー出来てるわけではないがその目は広い。その監視網の中で異形の集団発生を確認したのは4ヶ所。皆さんご存知の通り異形は発生する際に緑色の光を発生する。多量発生時は異形はまとまって発生しその光はより強くなる。異形の数が十体を超えればその光はより目立つ、ましてや30体ともなればその光を見逃すことはそうそうないだろう。だが今回はこの30体の集団発生を確認出来なかった。考えられることは3点、1点目はたまたまこの大集団の発生を我々が確認出来なかった。2点目は1体1体で分散して発生、事後30体がどこかで合流して当該施設を襲撃した。3点目は我々がはじめの異形発生後、監視体制から応戦体制に移行した後に発生した。この3点の理由が考えられる。この中で最も現実的なのはやはり2回に渡って異形が発生した、と言う案です」後藤は説明を終える。
評議会の議長でありこの報告会議の議長も務める1人の初老の男性が「確たる証拠がない中で結論を急いで誤った判断をするわけにはいかん。第1騎士団は引き続きこの件の調査を実施、外部調整部は日本政府や各国の抗魔機関へこの件を報告、あくまで連続出現の可能性があり引き続き調査し報告する旨を伝えよ。人事部は今回大きな損害を受けた第1騎士団へ人員を補充するように」そう指示を出すと。後藤と内部局の2名は頷く。「さてもう1つ問題があったな」と議長は巧次へと目を向ける。直属の上司である勝馬が「巧次、説明してくれ」と言う。はい、と返事をすると巧次は立ち上がり会議室の前に立つ。「それでは私からは今回の事態に置いて現れたら、強力かつ通常の異形と異なる行動をとる個体について説明致します。例の個体、以降β個体と呼称します。β個体は当初1-3騎士隊が接触しておりました。その際は目立った行動はなく、交戦していた1-3騎士隊の隊員たちは特に違和感無くβ個体を含む異形の集団と交戦しておりました。1時10分頃1-3騎士隊のの別動班と合流した我々は交戦していた1-3騎士隊とともに異形の集団を挟撃しました。作戦は上手く行き我々が接触時に敵の異形を数体撃破、事後、隊は数人毎に別れ異形を撃破していきました。その際β個体と交戦していたのは1-2騎士隊の前線支援事務所長を努めていた隊員と3-3騎士隊から事務所へ派遣されていた隊員、そしてうちの新人の3名でした。その3名はβ個体及び魚頭型の異形と交戦、事務所長が魚頭型を足止め3-3の騎士と新人がβ個体を撃破し、事後3名で魚頭型を撃破する作戦でした。ですがβ個体はなかなか倒せず当初は新人と他の隊員の連携不足が原因と思われていました。その後新人、3-3の騎士が戦闘不能となり、魚頭型とβ個体を事務所長が相手にすることとなりました。その際にβ個体は魚頭型を武器のように扱い事務所長へ襲いかかりました。今まで異形が道具を使うといった例はなく、この個体は普通ではないと交戦していた当人は感じたそうです。その後他の異形は殲滅した私をはじめその場にいた隊員達は事務所長への援護に駆けつけました。その後β個体はふりを悟ったのか足元の土を使い我々の目を晦ませ逃走しました。これもやはり今まで逃走を図る異形はおらずβ個体の異常さが分かる行動です」神田が「道具を使う上に逃げる知識もあるのか厄介だな」と呟く。評議員の1人が「そいつはいまどこにいるのかわからないのか?」と聞く。「第2騎士団の人員で近辺を捜索するも現在まで発見に至っておりません。また第1騎士団の監視網にもβ個体の姿は入って以内とのことです」と真田が代わりに答える。何故だ、元の場所に戻ったのでは、いやそんなことあり得るのか、会議室にいる面々はそんな疑問や予想を口にする。「静粛に」議長が場を静める。「β個体についても各機関へ報告、そして調査、再度現れた際の対応を定めよ。β個体にしろ異形の連続発生にしろ今回の事態は分からないことが多すぎる。もしかしたら予知夢の日が近いのかもしれん。今後退魔師団はさらに防衛体制の強化、及び政府の説得が必要じゃ。詳しい方針については今一度評議会で話し合い追って通達する。各部署は今出来ることを改めてしっかりと実施してもらいたい。特に隊員たちに覚悟を決めさせよ。いつ予知夢の日が起きてもいいように」会議室の面々はみな首肯する。「その他質問事項や報告することがあるものはおるか?」議長は尋ねる。「誰もいないようじゃない。それでは今回の報告会議はこれにて終了する」
議長の宣言により会議室から皆は退出していく。巧次も配られた資料をカバンにしまい、真田と共に会議室室をあとにした。




