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小さな巨人の魔法使い~最強魔法は全長数十メートルの物理攻撃!~  作者: 十一屋 翠


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第5話 ちびっ子、薬師にスカウトされる

「コイツはトンでもなく高性能なポーションだよ!!」


「ええっ!?」


 薬師の言葉にまさかと目を丸くする受付嬢。


「一体どんな奴なんだいこれを作った奴は! すぐにここに連れて来な!」


「え? 何で?」


「こんなとんでもない薬を作る奴なんだよ! 冒険者なんかになって魔物に殺されたりしたら大損害だからだよ! 冒険者なんてやめて薬師として働くように説得するんだよ!」


「え、ちょ、ちょっと待って。すぐ呼んでくるから」


 老婆の剣幕に押されて受付嬢はミーニを呼びに戻る。

 そうして訳も分からず連れてこられたミーニも何が起きているのか分からず戸惑うばかりだ。


「この子よ」


「え? あの……?」


「こんな子供がアレを作ったのかい!?」


「私も見ていたから間違いないわ」


(遠巻きにだけどね)


「あの……試験駄目でしたか?」


 呼ばれた理由はポーションの性能が低かったからなのかと不安になるミーニ。


「アンタがこのポーションを作ったのかい?」


「は、はい」


「もう一度作れるかい?」


「出来ます」


「じゃあやっておくれ」


「分かりました!」


 どうやら再度チャンスが貰えたようだと安堵したミーニは失敗しないようにと調合を始める。


「ちょっと待った、その薬草見せておくれ」


「え? はい、どうぞ」


 ミーニは薬草の一部をカットして老婆に渡すと調合を再開する。


(何だいこりゃあ。見たことも無い薬草だよ。それにこの子の手際、とんでもなく速い。速いが雑じゃない。無駄が無いから速いんだ。なんだい今の工程は? 何をしたのか分かんなかったよ。薬草の効能だけじゃないね。間違いなく技術も一級品だ。こりゃとんでもない拾い物だよ!)


 ミーニの手際に舌を巻いて興奮する老婆。


(正直言ってアタシが教える様な事なんて何もないね。けど世の中技術だけじゃ食っていけない。商売人として業界を渡り歩いてゆく振舞い方を教えてやんないとねぇ。で、その礼としてちょーっとばかしこの子の調合技術を教えて貰うとしようかね。世の中持ちつもたれるだからねぇ!)


「ヒィーッヒッヒッ!」


((怖いなぁこの人))


 突然笑い出した老婆にミーニと受付嬢は何事かと体を震わせる。


「出来ました!」


「ふむ……」


 受け取ったポーションを改めて確認する老婆。


「間違いなく高性能なポーションだ。さっきの奴はインチキなんかじゃなかったようだね」


「ええ!? 疑われてたんですか!?」


 自分のポーション調合技術が疑われていたと知って驚くミーニ。


「悪く思わないでおくれ。世の中人を騙す為なら何でもするロクデナシがいるのさ」


「あっ、それ郷のおじさん達も言ってました。人間は群れになると途端に卑劣になるって」


「あっはっはっ! そりゃ正しいよ! 世の中ロクデナシが多すぎるってもんさ!」


 あまりにも素直なミーニの言葉に大笑いすると、老婆は受付嬢に頷く。

 そしてミーニに向き直って言う。


「でだ、アンタ冒険者になるのは辞めて薬師の仕事に専念しないかい? アタシの店ならすぐに雇ってあげるよ」


「え? 良いんですか?」


「アタシも年だしね。若い働き手は欲しいのさ」


(アタシに何かあった時店を任せられる奴ができるしね)


「この人この通り偏屈だから、若い弟子がすぐに逃げちゃうのよね」


「最近の若い連中がこらえ性が無いだけさ! 薬草の下ごしらえも満足にできないくせに調合ばっかりしたがるんだからさ!」


「あはは……」


 そっと気まずそうに眼を逸らすミーニ。


「さてはアンタも叱られたクチだね」


「いやー……」


 呆れつつもミーニの手際からしっかりと教育を受けた事を疑わない老婆。


「冒険者なんて危険な仕事は辞めておきな。それよりも薬師として堅実に生きていくのを強く勧めるよ」


「でも、その場ですぐに加工した方が良い薬草もあるし……」


「あー、それがあったか。下手な奴らに頼むとせっかくの薬草が駄目になるし、分かってる奴等はさっさと出世しちまうから依頼料が高くなっちまうんだよね」


 頭が痛い問題だと老婆は眉間に皺を寄せる老婆。


「それならとりあえず冒険者登録だけはしておいて、直接その場で加工をしたい薬草がある時だけ冒険者を護衛として雇ったらどうかしら?」


 と、受付嬢が妥協案を提案してくる。

 彼女としても優秀な冒険者候補を確保しておきたいのだ。


「~~それが妥当なところかねぇ」


 最初は反対する気満々だった老婆だが、薬師のジレンマに直結する問題を出されて強く反対できなくなってしまう。


「じゃあ私冒険者になれるの?」


「そうね、ポーション作りは確認できたけど、魔物と戦えるかはまだ確認してないからこれから行ってもらう事になるわ」


「絶対怪我させるんじゃないよ!」


「無茶言わないでよ。とはいえ、予定が滅茶苦茶になっちゃったし、もう普通の試験の流れじゃないのよね。しょうがない、暇してる連中に確認役任せるかぁ」


(本当なら熟練の冒険者が新人をこっそり追跡してちゃんとやってるか確認してもらうんだけど、薬草関係は問題ないっていうか逆に問題になっちゃったから、採取はすっ飛ばして戦闘技術の確認だけでいっか)


 ◆


 冒険者ギルドに戻って来た受付嬢は手ごろな冒険者はいないかフロアを見回す。


「ちょっと貴方、今から良い?」


「え? 私?」


 そして呼ばれたのは、先ほど古代エルフ語の件で呼ばれたエルフの冒険者だった。

 多分実力よりもさっきの今で顔を覚えていたからだろう。


「この子の戦闘能力を確認したいからついていってあげて欲しいのよ。報酬はないけど昇格検査の際に評価基準になるわ」


「ああ、新人の審査か。いつもと違うみたいだけど何かあったのかい?」


「ちょっとこんがらがっただけで特別な事はないわ。危険な状況にならない限り手出し無用ね」


「分かった」


 快諾したエルフの冒険者だったが、内心では全く信用していなかった。


(審査手順がおかしくなったのは間違いなく彼女がハイエルフだからだな。流石に正体がバレてはいないだろうが、上手く評価してバレないように協力しないと)


 完全に勘違いなのだが、やはり状況が状況だけに勘違いが補強されてゆく。


「私の名前はフィーシュ。よろしくお嬢さん。君の名前を教えて貰えるかな?」


「私の名前はミナイフェスティニアです! ミーニって呼んでください!」


「ミナ=イフェス=ティニア!?」


 ミーニの自己紹介にフィーシュは驚いた。

 それというのも彼がわずかに知っている古代エルフ語の中でイフェスとは『高貴な』や『気高い』と言った意味があるのだ。


(やはりこの子は特別な使命を背負ったハイエルフなのか!? いやイフェスの名を背負っていると言う事は……この子はハイエルフの王族!?)


 完全に勘違いである。

ミナイフェスティニアは巨人の郷の言葉で『小さく愛しい子』である。

 偶然、単語の読み方が偶然一致したことによる悲劇であった。いや、喜劇かもしれない。


「よろしくお願いしますミナ=イフェス=ティニア様」


「様!? ミーニで良いですよ! 呼び捨てで!」


「しかし……いえ、分かりましたミーニさん」


(やはり正体がバレてはいけないのだな。私も気を付けないと)


 勘違いが加速したままフィーシュはミーニを守らねばと使命感に燃え上がる。


「じゃあいきましょう!」


「ええ!」


 ◆


 ようやく町の外に出たミーニ達はさっそく魔物を探す。

 だが暫く街道沿いを歩いても魔物の姿は見当たらない。


「魔物はどこかなぁ」


「このあたりは町の傍ですからね。もう少し街道沿いから離れた場所に行かないと」


「そうなんですね私の郷は外に出たらすぐ魔物が襲い掛かってくるのに」


「土地によって魔物の分布の差はありますからね」


(町の外に出たらすぐに襲われると言う事はやはりいずこかの隠れ里で暮らしてきたのだな)


「分かりました! それじゃもっと離れた場所に行きましょう! ふんっ!」


 ミーニが気合を入れるとその体が一瞬で巨大になる。


「じゃあちょっと走りますから、手の上に乗ってくださいフィーシュさん」


「……は?」


 ずいと巨大な手のひらが差し出されたものの、フィーシュは目の前の光景に理解が追いつかず間抜けな声を上げるだけだった。


「フィーシュさん?」


「は? これは?」


「私の魔法です。さ、乗ってください」


「ま、魔法!?」


 戸惑いつつも強引に背中を押されてミーニの手のひらの上に乗せられるフィーシュ。


「落ちないように私の指に捕まっててくださいね」


「うわぁっ!?」


 ミーニが立ち上がった振動でバランスを崩しかけたフィーシュは安全柵のように立てていたミーニの指にしがみつく。


「それじゃあ行きますよー!」


 巨大な少女の足が街道から離れた方角へ向けて走り出す。

その光景を見た旅人達がパニックとなり、その混乱を収める為にロムカの仕事が増える事になる。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 猛烈な速度で走る少女の手のひらの上は猛スピードの馬車など比較にならない程のすさまじい揺れだ。

 瞬く間に視界が森になり、森を抜けて岩場になり、岩場を抜けて平原となる。


「ちょっ! どこまっ、止まっ!!」


 どこまで行く気なのか、止まってくれ、そう言いたかったものの、あまりの揺れに舌を噛みそうになって何も言えないでしがみ付くしかないフィーシュ。

 そうして、たっぷり一時間以上走ったところで漸くミーニの歩みはゆっくりになった。


「ふぅ……このくらい離れれば魔物も出て来るかな?」


「……うっぷ」


 道中魔物らしき残像をいくつも置き去りにしてきたのだが、それを指摘する事すら今のフィーシュには出来ないでいた。

 車酔いならぬ少女酔いである。


「魔物魔物……どこかなー」


「「「ギャオォォォォォッ!!」」」


 その時だった。ミーニ達の耳に甲高い雄叫びが響いた。


「何々?」


 周囲を見回せば、空に何十もの影が飛び回っていた。


「あれは……トカゲ?」


 それは羽の生えたトカゲだった。

 しかし物語で言うドラゴンと違って四本の足を持たず、前足が翼となっている。


「ワ、ワイバーンの群れ!? まさか龍の峰に来てしまったのか!?」


 青い顔をしたフィーシュが悲鳴を上げる。

 ワイバーンとは亜龍やデミドラゴンと呼ばれる魔物でドラゴンの生息域の近くで暮らす危険な生物だ。


ドラゴンの様にブレスを吐いたり賢くはないが、巨体の生物が群れを成して素早く空を飛んで襲ってくるのは凄まじい脅威といえる。


「縄張りに侵入されて気が立っている! ミーニさん、すぐに逃げてくださ……」


「「「「ギャオォォォォォッ!!」」」」


 だが、フィーシュが警告する前にワイバーン達が襲い掛かってきた。


「いかん!」


 すぐにフィーシュはミーニを守るべく魔法を発動する為の魔力を溜める。


(これだけの数、守り切れん! せめて急所だけでも……)


「もー、じゃま!」


 が、ミーニがうっとおしそうに手をパッパと振ると、ベチベチという音を立ててワイバーンが吹っ飛んだ。


「……え?」


「「「ギャウ!?」」」


 これにはワイバーン達も戸惑った。

 高速飛翔からの必殺の噛み付きをお見舞いしようとした仲間達が一瞬で吹き飛ばされたんだから」


「もー、私は魔物を探しに来てるんだから邪魔しないで!」


「え? いやアレが……うわっ」


 魔物なんですけどと言おうとしたフィーシュだが、ミーニが羽虫を払うように手を振った揺れで言葉が続かない。

そして運悪く当たってしまったワイバーンが宙を舞う。


「ギャウウ!!」


 これにはワイバーン達も警戒して距離を取る。

 そしてどうやってミーニを倒すべきかと策を練る。


「ギャウ」


 彼等が即座に決定した方法は、シンプルなものだった。

 ワイバーン達は四方八方に散ると、全周囲からミーニの全身を狙う事にしたのだ。

 いかに恐るべき巨体といえど全周囲から噛み付けば手も足も出まいと。

 それは巨大なクジラを襲うサメやシャチのようですらあった。

 肉体強度が変わらなければ。


「わわっ、もー! うっとおしいよ!」


 急に体中にまとわりついて来た事にびっくりしたミーニが避けようと体を捻ると、その余波でどこかしらにぶつかったワイバーンが吹き飛ぶ。


「あっち行って!」


 バタバタと振った手は猛烈な速度でワイバーンに迫り、回避する間もなく地面に叩きつけられる。

 圧倒的、圧倒的質量とサイズの差によってワイバーン達の包囲は見るも無残に崩壊していった。


「はー、ようやく居なくなった」


 手も足も出ないと悟ったワイバーン達がチリ尻になって逃げてゆく。


「ふー、それじゃあ魔物を探すぞー!」


「あの、ミーニ様」


 と、フィーシュが申し訳なさそうにミーニに声をかけると、地上を指差して言った。


「今のが魔物です」


 そこには大変無残なことになった無数のワイバーン達の残骸があったのだった。

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