第3話 巨人の娘小さな人間の町に入る
「わぁ! これが人間の町!」
ミニマの町に入ったミーニは感動の声を漏らす。
「すっごい! 小さな人間がいっぱい!」
「はぁ……?」
ミーニの言葉に首を傾げるロムカ。
見える者達は全員がミーニよりも大きいのだが、巨人達の中で暮らしていたからみればビックリする程小さく感じていた。
「では詳しい話を聞くので一旦詰め所まで来てもらえますか?」
ミーニが外見相応に小さくなったものの、先ほどまでの巨体を知っているが故にロムカはミーニに対して敬語のままで話しかける。
「まずミーニさん、君は一体何者なんだ? 大きくなる魔法なんて聞いたことも無いんだが」
「魔法は郷の長老に教わったんだよ! 私が小さすぎていつ皆に踏みつぶされたら心配だって教えてくれたの!」
「踏みつぶされる? ええと、君の故郷の人達は皆大きいのかい?」
「うん! 私以外は皆巨人だから!」
「巨人!?」
巨人の郷で暮らしていたと言われ、ロムカは内心で驚きの声を上げる。
(魔物に育てられたと言うのか? だがそれにしては我々に対して友好的過ぎる。というか巨人が人間を育てるなんて聞いたことも無いぞ)
冷静にロムカはミーニの話を聞く。
「ではその魔法を覚えれば誰でも巨人になれるのかい!?」
「そうだよ!」
興奮した様子で割って入って来た魔法使いに対しミーニはあっさりと同意する。
「す、素晴らしい! あんな魔法見たことも無い! ぜひ私も使ってみたい!」
「ズルいぞ! 俺も使ってみたい!!」
先ほどからこっそり聞き耳を立てていた魔法使い達が殺到してくる。
「ええい話の邪魔だ! そういうのは後にしろ!」
苛立ったロムカが魔法使い達を追い払うと、改めてミーニの話に戻る。
「それでええと、君は巨人の郷で暮らしていたんだったね。どんな郷なんだい?」
「どんなって普通ですけど」
ミーニの言葉にロムカは効き方を間違えたと質問の内容を変える。
「ええと、食べ物は何を食べているんだい?」
「ご飯ですか? お肉や野菜ですね」
「その肉は?」
(頼むから人間とか言わないでくれよー)
「羊や牛、それに魔物のお肉です!」
(良かった、人間は食べてないみたいだ)
それだけでもミーニの所属する巨人達は人間を獲物として襲う種族ではないようだと安堵する。
「郷には巨人しかいないのかい? 外から来る人はいなかったのかな?」
「いないです! 郷の皆しか見たことありません!」
(なるほど、閉鎖的な村で人間には不干渉と、良いぞ良いぞ)
「ところで君がやって来た理由だが、確かさっき……」
「はい! 伴侶を探しにきました!」
「……そっかー」
どうやら聞き間違いではなかったらしく、ここからどう質問すればいいかロムカは頭を抱える。
「ちなみになんだが、君は伴侶が何か知っているかい?」
「うん! 子孫繁栄の為に必要って長老が言ってた!」
(かんっぜんに理解してないなコレ!)
明らかに伴侶の意味を分かってないミーニにロムカは頭を抱える。
「そうかー、子孫繁栄か~」
(これはマズいぞ。下手に放置したら大変なことになる。場合によっては悪い男にひっかかって彼女が暮らしていたという郷の巨人達を敵に回しかねない!)
「ちなみにー、君の暮らしていた郷の巨人達は魔法で大きくなった君よりも……」
「大きいですよ!」
「だよねー」
(厄介事決定……)
出会って数分でロムカの胃が痛くなってきた。
「よ、良く分かったよ。何はともあれ野盗を捕まえてくれてありがとう。連中の報奨金を用意させるからもう少し待っててくれ」
「報奨金?」
「……はっ!」
ミーニが首を傾げる姿を見て、ロムカははっとなる。
「もしかして、お金の事は知らない?」
「知ってますよー。人間の世界で生きていくなら必要な知識だからって長老に習いましたから」
「そ、そうだよね!」
(長老ナイス!)
心の中で安堵しながら長老を絶賛するロムカ。
「人間の世界はマテバっていうお金を使うんですよね。1マテバが10マテルバになって」
「待って待って、マテバって何?」
「何ってお金の単位ですよね?」
(何それ知らない!)
「あーそれ、大昔のお金の単位ですね。球に遺跡から出て来る貨幣がそう呼ばれていたらしいですよ」
幸いにも聞き耳を立てていた魔法使いの一人がマテバについて解説してくれたがロムカは頭を抱える。
(長老知識古すぎぃー!)
「ええと、今のお金はね……」
「ちょっと待ってください! お金の事なら私達に任せてください!」
と、一緒に町に詰め所に連れてこられたレインが待ったをかける。
「我が家は商いをしておりますので、お金に関しては物価も含めて詳しく説明できます!」
「ああ、それは助かるよ。では報奨金を用意するので詳しい話は君達に頼めるかな」
「お任せください!」
ロムカ達が一旦席を外すと、レインが代わりに席に座る。
「ふふ、やっとミーニさんのお役に立てます」
レインはミーニと出会った時の事を思いだす。
(あの時は突然目の前に巨大な女の子がいてビックリしてしまったのよね)
あまりのショックに気絶したレインだったが、御者に起こされて事情を聞いたことで状況を把握した。
「あの時は本当にありがとうございました。命を助けて貰っただけでなく、馬車まで運んでもらって」
「たまたまだよ」
「改めて、私はレイン、キチンバーナ商会の店主ハレイの娘です」
「私はミーニだよ」
落ち着いた状況になった事で、レインは改めてミーニに礼を言う。
(さっきは慌ててお礼を言ってしまったから、今度はちゃんとお礼を言えたわね)
(人間の世界って二回お礼を言うルールがあるのかな?)
お互いに意図がズレている事に気付かず、レインはミーニに金の話をする。
「基本は銅貨、銀貨、金貨の三つです。他にもあるけど私達には関係ないわ。価値は銅貨、銀貨、金貨の順にあがっていき10枚で上の価値の貨幣と同じ額になる。宿に泊まるなら大体銀貨1枚。飯を食うなら一食銅貨2枚というところですね」
「ふむふむ」
「ただ、不作の時や災害があった時には物価が変わるので今説明した金額は参考程度に考えておいてください」
「うん、分かった!」
「あと宿屋はあまり安い所は使わない方が良いです。寝ている時に泥棒が荷物を盗んでいったり、汚くてとても寝れたものではない酷い部屋があるそうですから」
「へー、そうなんだ」
「こんなところかしら?」
「お嬢様、冒険者ギルドの事も教えた方が良いと思いますよ」
「冒険者ギルド?」
「あら何で?」
説明が一段落したところで、御者が会話に参加してくる。
「ミーニさんは巨人の郷とかいう場所の事しか知らないんでしょう? となると信用の無い人間が手っ取り早く金を稼ぐ方法を教えた方が良いと思います」
「言われてみればそうね。ありがとうトマス」
「へへ、差し出がましい事を言ってしまいました」
トマスと呼ばれた御者は頭を搔いて照れつつ、一歩下がって口を閉じる。
「レインちゃん、冒険者ギルドってなに?」
「簡単に言うと何でも屋よ。ここに組合員として登録すると、いろんな仕事を斡旋して貰えるようになるの。手数料は取られるし失敗したら違約金を支払う事になるけど、信用が無い人間は普通の店で雇ってもらえないから、まずはここで働いて町の人達の信頼を得るのが良いわね」
「へー、そうなんだ、誰でも働かせてくれるなんて良い人達なんだね!」
(そんな良いものじゃないんだけどね)
(冒険者ギルドってようは仕事にあぶれた人間が犯罪者にならないようにする為の斡旋所だからなぁ。まぁ孤児に仕事を与えてるから良いっちゃ良いのか?)
「冒険者ギルドは剣と靴が交差したマークの看板を掲げているからすぐわかるわ」
「ありがとう! 後で行ってみるね!」
「お待たせしました。こちらが報奨金です」
会話が終わるのを待っていたのか、タイミングよくロムカがやってくる。
「全部で金貨5枚になります」
「あら、結構多いんですね。もしかして名ありの盗賊団だったんですか?」
レインが訪ねるとロムカは首を横に振る。
「いえ、盗賊達は名ありの盗賊団ではありませんでしたが、全員を生け捕りにした事と冒険者に盗賊の仲間が紛れ込んでいた事が分かったので、情報量も兼ねてですね。生きているので鉱山で強制労働させる労働力として国に売る事が出来ますし、冒険者の方はまだ仲間がいるかもしれないのでその情報源としてです」
「成る程、確かに護衛として雇った冒険者が盗賊の仲間だなんてぞっとしませんからね」
「今回の件はウチの店からも冒険者ギルドに強く抗議をしませんとね」
と、まさに冒険者の裏切りで死にかけたレインとトマスがウンウンと頷く。
「では事情聴取も終わりましたので、お帰り頂いて結構ですよ」
「わかりました。じゃあ行きましょうかみーニさん! 今日はもう遅いですし、私の家に……」
「「「ちょっとまったー!!」」」
詰め所を出ようとしたミーニ達だったが、そこに魔法使い達が立ちはだかる。
「我々の話がまだ終わっていない!」
「そうだ! 大きくなる魔法の事を教わっていない!」
「という訳で教えてください!!」
「お前達……」
魔法使い達の言葉にロムカが眉間に皺を寄せる。
「あのですねぇ、私達は疲れているので……」
「いいよ!」
「「「おおっ!!」」」
だが断ろうとしたレインを遮ってミーニがあっさり許可を出してしまう。
「待て待て、その魔法を使ったら巨大になってしまうのだろう!? こんな所で使われたら困るぞ!」
「おっとそうでした! では町の外に行きましょう!」
「待て待て、もう町の門を閉めてしまったんだぞ。明日にしろ」
「そうはいきません! 我々にはこの町を守る義務があります! 新しい魔法を覚えるチャンスがあるならそれを逃す訳にはいきません!」
「わー、人間ってすっごい真面目なんだねー」
「この人達はそういうのではないと思うわ」
結局ロムカは魔法使い達の勢いに押され、というかウンザリさせられ、しかたなく防壁の上からロープを垂らして外に出る事を許可した。
「じゃあ魔法の契約式を教えるねー」
「契約式?」
「「「契約式だって!?」」」
ミーニの言葉にレインが首をかしげる。
「うん、魔法は契約式をあらかじめ組んでおくといちいち呪文を唱えなくても使えるんだよ」
そう説明しながら地面に魔法陣を書いてゆくミーニ。
「おお!? なんだこの複雑怪奇な魔法陣は!?」
「見たことも無い術式だ! っていうか全然公式が読めない!?」
「複雑すぎる! これはもしかして古代に実在していたという立体式!? いやいや、アレは机上の空論で実現は不可能な筈! だがこれはどうみても……」
「出来たよー。みんな陣を踏まない様に中に入ったら一緒に契約の誓文を唱えてね」
魔法使い達が魔法陣に入ると、ミーニは魔法使い達を見つめて呪文を唱える。
「我、大いなる躯を求めん」
「「「我、大いなる躯を求めん」」」
「我、天まで伸びる腕で掴まん」
「「「我、天まで伸びる腕を掴まん」」」
「我、大海をまたぐ脚で進まん」
「「「我、大海をまたぐ脚で進まん」」」
「我が身は我が身にあらず、我が身は我が身を超える」
「「「我が身は我が身にあらず、我が身は我が身を超える」」」
「故に、我巨人となる」
「「「故に、我巨人となる」」」
全ての呪文を唱え終わると同時に、魔法陣が輝き始める。
「おお! 体に!」
「凄まじい力が!」
光は魔法使い達に伝播し、輝きを増してゆく。
その光景を見ていたレイン達が息を飲む。
「あの人達もミーニさんと同じように……」
「巨人になる……のか!?」
そして光が明滅して、
「……ぬ、抜けてゆくぅ~~」
ぷしゅ~と音を立てて抜けていった。
「「「え?」」」
ヘナヘナと崩れ落ちる魔法使い達。
その光景を見ていたレイン達は目を丸くする。
「ええと、これで覚えたんですか?」
「とてもそうは見えませんけど」
「あれー?」
そしてミーニも首をかしげて魔法使い達の所に行くと何やら調べている。
「あっ、分かった」
レイン達に向き直ったミーニは短く告げる。
「この人達魔力が足りないみたい」
「足りない、ですか?」
「こ、この魔法……とんでもない魔力消費です~」
「無、無理して格上の大魔法使おうとした時と同じで魔力だけ取られた……」
「し、死ぬ……」
彼等は知らなかった。
ミーニの魔法は魔力に満ち溢れた巨人の使う魔法だと言う事に。
そして同じ人間であってもミーニは心配性で過保護な巨人達によって幼い頃から食育と投薬ならぬ投ポーション、そして人間を遥かに超える巨人の知識と鍛錬によって鍛え上げられた莫大な魔力を持っていた事に。
それはつまり、乾電池の電力で電気自動車が動かないのと同じと言えた。
結局彼等は無駄に魔力を放出するだけでミーニの魔法を使う事は出来なかったのであった。
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