第2話 巨大な少女、町に現る
新連載始めました。
初日は2話一挙掲載です。
ニマムの町は今日も平和だった。
日が沈む直前までは。
「おーい、そろそろ門を閉めるぞー」
「分かったー!」
夜になると魔物と呼ばれる危険な生物は活発化し、また夜の闇に紛れて犯罪者が町へ忍び込みやすくなる。
その為夜が来る前に町へ入る為の門を閉める事になっているのだ。
指示を受けた門番達が門に手をかけたその時だった。
「お、おい! なんだアレは!?」
町を守る防壁の上で見張りをしていた兵士が街道の向こうからやってくる巨大な影に気付く。
「デカい? まさかオーガか!?」
近づいてくるにつれその巨体は地上の兵士達にも見えるようになる。
オーガとは人間の3~5倍はある巨体の怪物の事で、その力は大木すらもへし折る恐ろしい魔物の事だ。
「いかん! すぐに門を閉めろ!!」
「わ、分かった!」
遠くから見える程の巨体なら門どころか防壁すら意味をなさないのだが、慌てた兵士達はそんな事にも気付かない。
同時に、兵士達が門を閉めようと動き出したのとほぼ同時に、巨体が走り出した。
「警報! 警報! 戦闘準備! 正体不明の巨大な怪物が走ってくる!!」
兵士達が慌てて門を閉じようと増援を呼び、防壁の上に続々と弓を持った兵士達と杖を手にした魔法使い達が駆けあがってゆく。
「相手は相当な速さだ! 矢の射程に入ったらすぐに射て!」
「なんだあの巨体は!? オーガじゃない!? ジャイアントか!?」
魔法使い達は近づいてくる巨体がオーガよりも大きい事に気付き困惑する。
「ジャイアント!? 山の奥に住んでるっていう魔物か!?」
「恐らくは! 不味いぞ! ジャイアントは銀級超えの魔物だ! 種類によっては金級冒険者の力が要るぞ!!」
「金級!? そんな腕利きこの町には居ないぞ!!」
「しかもなんだあの不気味な姿は! まるで全身に鬣が広がった獣のようだ」
向かってくる巨大な影はブワリと全身にヒレの様な物を揺らしながら接近してくる。
だが日が沈む方角から向かってくるため陰となり、詳細な姿が確認できずにいた。
その為どんな魔物なのか把握して対策する事が出来ない。
だが泣き言など言っていられない。
兵士達はなんとか未知の巨大存在を水際で迎撃すべく戦闘態勢に入る。
「倒せないまでも追い返すんだ!」
そうして、緊張と共に巨体が矢と魔法の射程内に入ったその時だった。
『待ってー! まだ門を閉めないでー!』
「「「「は?」」」」
聞こえてきたのは雄叫びでも叫び声でもなく、まさかの内容だった。
◆
「あれは……巨大な少女?」
漸くその姿が確認できるまでに近づいて来た事で、謎の怪物の正体が少女だとはんめいした。
ただしその大きさは城よりも大きいのだが。
「あの不気味なヒレは服だったのか……」
近づいてくるにつれその詳細がはっきり見えてくる。
一見すると無害などこにでもいる少女だが、やはり大きすぎて異常だ。
「ど、どうする? 敵じゃないっぽいが」
「油断させようとしているのかもしれないぞ?」
兵士達もこんな状況は初めてでどうすれば良いのかとパニックになる。
「落ち着け! とにかく町に近づけない事が重要だ! 風の魔法で声を届ける事が出来る者はいるか?」
そこに防壁を守る衛兵隊の隊長が喝を入れるとともに魔法使いに問いかける。
「私が出来ます」
「うむ、ではあの巨大な娘にこちらから出向く故、そこで止まるようにと伝えてくれ」
「分かりました!」
魔法使いが呪文を唱えて魔法を発動させると、走ってくる少女の足が遅くなり止まる。
そして周囲を見回してキョロキョロとしだした。
「よし、聞こえたようだな」
そして魔法使いが指示された言葉を伝え終わると、少女は町に向かって頷いてその場にしゃがみ込んだ。
「……なんとか止まってくれたか」
実は本人も緊張していたのか、隊長は大きく安堵の息を漏らした。
「よし、私が向かう。お前達と、お前も来い」
「「はっ!」」
「ええ!? 私もですか!?」
部下の兵士達だけでなく、自分も選ばれた事で魔法使いが驚く。
「お前の魔法を介さないとあの巨大な娘に言葉が通じない可能性がある。他の者達は万が一を考えて警戒体制のまま待機!」
(頼むから何事も起きないでくれよ)
もはや今更な事を心から願いながら、隊長達は馬を走らせたのだった。
◆
暫くすると、巨大な少女の下に馬に乗った隊長達が到着する。
「おお、近くで見ると本当に大きいな……」
その大きさは10mを超えるだろうか。
見た目は普通の女の子である事が逆に異様さと恐怖心を掻き立てる。
『こんにちわ! 貴方達がさっき話しかけて来た人達?』
「そうだ! 私はミニマの町の衛兵隊隊長ロムカだ。君の名前と目的を聞かせて欲しい」
「私はミーニ。人間の町に伴侶を探しに来たんです!」
「……伴侶?」
予想もしていなかった言葉に一瞬理解が追いつかなくなる隊長と部下達。
『あと、この人達の馬車が壊れちゃったから運んできたんです』
そう言って車輪の壊れた馬車を下ろすミーニ。
だが馬車の中から誰かが降りてくる様子はない。
『あれ? レインちゃん?』
ミーニが呼びかけるも返事はない。
不審に思った兵士の一人が馬車の扉を開けて中を見るとこういった。
「気絶してますね」
◆
「酷い目にあったわ!」
「急に凄い勢いで揺れだして、死ぬかと思いました……」
兵士達に支えられてヨロヨロと馬車の中から出て来たのはミーニに助けられた御者と少女だった。
『ごめんなさーい! 門が閉まる前に町に入らないといけないって聞いたから!』
「ああそれで……」
突然巨大な影が猛烈な勢いで接近してきたのはそういう事情があったのかと理解し内心で脱力する隊長。
「それにしても馬車が脱輪とは運が悪かったですね」
「いえ、それは野盗に追われていたからなんです」
「野盗に?」
ここに至ってまだ厄介事があるのかと眉を顰める隊長。
『あっ、野盗なら持ってきたよ!』
そう言って背中にひっかけていた細い縄を下ろすと、そこには軒先で干す大根の様に順番に縛り上げられた野盗らしき男達の姿があった。
さらに言えば野盗達は全員が真っ青な顔で目を回しており、これには兵士達も思わず同情してしまった。
「この男達に追われていた所を彼女、ミーニさんに助けられたんです」
「それは運が……良かったですね。ですが護衛は付けていなかったんですか?」
普通に考えれば町から町へ移動する際には護衛を付けるものだ。
町の外には矢藤だけでなく魔物という危険な生物がいるのだから。
「雇った護衛が野盗の仲間だったんです。危うく捕まる所だったんですが、御者のマルクが機転を利かせて逃げる事が出来たんです」
「私は元冒険者なんです。道中の護衛の様子に違和感を感じたので警戒していたんです」
「ほう、優秀なのですな」
「いえ、町で合流した時に気付けなかったので無意味でしたよ」
と、マルクは自分が役に立てなかった事に項垂れる。
「そんな事ないわ。マルクがギリギリまで逃げてくれたから私達はミーニさんに助けて貰えたのよ!」
(ふむ、聞いた感じでは危険な存在ではなさそうだな。だがどのみちこれ程巨大な存在を町に入れる訳にはいかん。しかし迂闊な事を言って怒らせたら大変なことになる!)
どうすれば角が立たないかとロムカは頭を悩ませる。
「二人を助けてくれた事には感謝する。ただ見た通りあの町は人間用の町なのであなたが入るには狭すぎるのです。申し訳ないが町の中に入るのは勘弁して貰えませんか? 必要な事があれば我々が対応しますので」
内心で必死に怒らないでくれよーと祈りながらロムカが事情を説明すると、ミーニはうんと頷く。
「大丈夫です、ちっちゃくなれますから!」
そう言った直後、ミーニの姿がグングンと小さくなってゆく。
そしてあっという間にロムカどころかレインよりも小さくなってしまった。
「こ、これは小さくなる魔法ですか?」
あっけにとられるロムカにミーニは首を横に振る。
「逆です。今まで大きくなる魔法を使ってたんです」
「「「「大きくなる魔法!?」」」」
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