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小さな巨人の魔法使い~最強魔法は全長数十メートルの物理攻撃!~  作者: 十一屋 翠


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第1話 巨人に育てられた娘、旅に出る

新連載始めました。

初日は2話一挙掲載です。


 深い森の中、男達は地面にしゃがみ込んで何かを見つめていた。


『これは……赤ん坊か? しかしなんだこの小ささは』


 彼等の視線の先には赤ん坊の姿があった。

 ただしその大きさは彼等の指先よりも小さい。

 明らかに普通の生き物ではない。


『もしかして人間の赤ん坊じゃないか?』


『これが!?』


 ふぇぇぇぇぇぇ! ふぇぇぇぇぇ!


『うわっ、泣き出したぞ!?』


『お前が大きな声を出すからだ。とにかく一旦連れ帰って長の判断を仰ごう』


『そーっとそーっと、潰すなよ』


『わかってるって』


 地響きを立てながら、彼等はおっかなびっくり赤ん坊を連れ帰ったのだった。


 ◆十数年後◆


 それから数年後、巨人の郷へとやって来た赤ん坊は元気に育っていた。


「「「「メェー、メェー」」」」


「ほーら、皆あっちだよーっ!」


 小さな少女が巨大な羊の上に乗って牧場の小屋へと誘導している。

 そんな少女を巨人達はハラハラしながら見守っていた。


『ミーニ! 落ちないように気を付けるんだぞ!』


「わかってるよー!」


 ミーニと名づけらえた少女は、成長してもまだ小さかった。

 ちなににミーニというのは愛称であり、ミナイフェスティニアが正式な名前だ。

 意味は小さく愛しい子という意味だが、長いので皆ミーニと呼んでいる。


『やれやれ、少しは大きくなったと思ったんだが、やっぱり小さいなぁ』


『元々人間は小さい生き物だからな。それにまだ拾ってからたったの15年だぞ』


『その割には凄く良く動くのよね。うっかり踏みつぶさないか心配でしょうがないわ』


『そのためにも長が直々に防御の魔法をかけてくれたんじゃないか』


 ミーニを拾った巨人達は穏やかな種族で慈悲深い種族だった。

 おかげで他種族の赤ん坊であるミーニを彼等は育ててくれたのだ。


『それに警戒心も薄いんだよな。この間の俺の手のひらの上に乗せてたらそのまま寝てたし』


『分かるわ。手の中に包むと心地よいのかしらね、ウトウトしだすのよね』


『それに飯を小さなほっぺに頬張って食べる姿が可愛くてなぁ』


『『『分かる』』』


 少し、いやかなりペットの小動物に対する可愛がり方ではあったが、おおむね彼女は愛されて過ごしていた。

 そうして、このまま末永く巨人の郷で暮らしていくかと思われたのだが……


 ◆


『ミナイフェスティニアを人間達の世界に戻す』


『『『『『『反対っっっっ!!』』』』』』


 巨人達を束ねる長の決定に郷中から批判と反対意見が噴出した。


『長! 何でミーニを捨てるなどと!』


『そうよ! 拾った以上は最後まで育てるのがマナーというものでしょう!』


『あの子はこの間15歳になったばかりの赤ん坊なんですよ!?』


『お前達。ミナイフェスティニアはペットではないんじゃぞ』


 巨人達の剣幕に呆れつつも長は理由を説明する。


『まずミナイフェスティニアは人間の年齢では既に一人前だ。そしてこの郷にミナイフェスティニア以外の人間はおらん。子孫繁栄を考えるのなら人間の世界に送り返して伴侶を見つけさせる必要があるだろう』


『それなら手ごろな人間の雄を捕まえてきたらどうです? 王族など血統書付きで良いと思いますが』


『だからペットじゃないっつーの』


 思わずフランクに返してしまった長は、咳払いをしてから言葉を続ける。


『人間は数十年しか生きられん。ミナイフェスティニアは儂等が大事に育てたから数百年は生きるかもしれんが、それでも数千、数万年を生きる儂等巨人とは一緒に暮らせぬ。ミナイフェスティニアを大切に思うなら、ミナイフェスティニアにも同族の家族を作る機会を奪ってはいかん』


 完全に上位存在目線の発言なのだが、言いたい事は理解できた為に言葉に詰まる巨人達。


『だが人間は群れになると残酷で狡猾になる生き物だ。一人で育てて来たミーニにとって毒ではないか?』


『それに人間換算で一人前と言ってもあの子一人じゃ頼る相手もいないから心配よ。伴侶を見つけるにしても保護者がついて行くべきだわ』


 うんうんと頷く巨人達。


『お前等……ペットのお見合いじゃないんじゃぞ』


 あまりの過保護っぷりに長は呆れる。


『はぁ……なにも着の身着のまま放り出す訳ではない。まず一年、外の世界に出す為の知識を教え込む。そしてその間にミナイフェスティニアを守る為の選別を用意ればよかろう』


『『『『『『一年!? 短すぎる! せめて100年は欲しい!』』』』』』」


『だーかーらー、人間は寿命が短いっちゅーとろーが! 人間世界で生きて行けるだけの力はもう鍛えてある! 後は常識や知識だけじゃ!』


 だが長は失念していた。

 長が知っているのは数千、数万年前の人間の常識だと言う事に。

 そして人間の常識は早ければたった数年で変わってしまう事を。


 ◆


 長から外の世界に出すと言われ、ミーニは大喜びで受け入れた。


「私と同じ人間の世界!? 行く行く!」


 完全にお出かけ気分で応じると、観光地の知識を教わるノリで人間社会の知識を学ぶミーニ。

そして一年が経過した今日、遂にミーニは巨人の郷を飛び出した。


「いってきまーす!」


『『『『『『気を付けるんだよー!』』』』』』


「はーい!」


 巨人達からの選別を山ほど貰って、ミーニは駆ける。

 興奮のあまり足は自然と駆け出し、時折遭遇する獣を隠れてやり過ごし、時には教わった技で倒して進んでゆく。


 その胸の内はドキドキとワクワクで包まれていた。


「ここから先は一人で行っちゃ駄目って言われてた場所!」


 そして、物心ついてから一度も入る事を許されなかった土地へと足を踏み入れ、ワクワクを胸に抱えたまま駆け抜けてゆく。


「あっ、薬草だ!」


 視界に入った薬草や木の実をついでとばかりに腕を伸ばして回収するミーニ。


「外で怪我をしたら誰も助けてくれないもんね。いざという時の為に薬の材料は用意しておかないと。


 肩から掛けた鞄に薬草を放り込み木の実を齧りながら走るミーニ。

 そうして山を飛び越え、大きな水場を跳びこして、日が落ちかけた頃に見晴らしの良い高台へとたどり着く。


「わぁ! 広―い!」


 高台から見下ろす景色は、見渡す限りの大地。

 緑や茶色の大地はところどこにナメクジが這ったかのような色違いの線が引かれており、その先に何かごちゃごちゃした塊が見える。


「もしかしてアレが長の言っていた人間の町って奴かな? 教わったのとはちょっと違うけど、いろんな形があるって言ってたし」


 人間の町が近いと実感し、落ち着いて来たワクワクが再び湧き上がる。


「よーし! 行くぞー!」


 ◆


 猛烈な勢いで馬車は走っていた。


「はぁはぁっ」


 馬車を狩る御者は必死の形相で馬を操る。

 だが馬の息は荒く、もはや限界を迎えていた。


「はっはー! 逃げろ逃げろ!」


 そんな馬車を負うのは馬に乗った男達、野盗だった。

 彼等の馬は逃げる馬車と違い余計な荷物が無い為余裕を残している。

 どちらが先に力尽きるかは明白だった。

 しかし、限界は馬よりも馬車の方が先だった。

 無理な加速を続けていた為、車輪の軸が壊れ脱輪してしまったのだ。

 その結果、馬車は横転、御者も投げ出されてしまう。


「へへっ、もう終わりか」


 野盗達は舌なめずりしながら馬車へと近づく。


「さーて、それじゃあお宝ちゃんを頂くとしますか」


 野盗達が横転した馬車の中にいるお宝を手に入れようとしたその時だった。


「あれ? どうしたの?」


 野盗達の耳に明らかに場にそぐわない少女の声が響き渡った。


「あん?」


 振り返ればそこには見たこともない格好の少女、ミーニが一人立っていた。


「ガキ?」


「ねぇ、凄い転がって行ったけど大丈夫なのアレ?」


 ミーニは興味深そうに横転した馬車を指差しながら聞く。


「ああん、まぁ生きてんだろ」


 興味なさげに返事をする野盗達だったが、内心では突然現れたミーニを値踏みしていた。


(変わった格好だが見た目は悪くねぇ。お宝ちゃんと一緒にこのガキもかっさらっちまうか!)


「に、逃げろ……」


 その時だった、意識を取り戻した御者がヨロヨロと立ち上がりながらミーニに逃げろと声を張り上げる。

 だが流血し意識も朦朧とした彼の声はとても弱々しいものだった。


「大変! 凄いケガしてる!」


 慌ててミーニが駆け寄ろうとするも、野盗がみーニの腕を掴む。


「離して! 早く手当てしないと!」


「放っておけって。あの怪我じゃどうせ助からねぇからよ。それよりも俺達といっしょに良い所に行こうぜ」


「逃げろ……そいつ等は野盗だ……」


「野盗? って、確か悪い人達の事だよね」


 今の言葉は本当かとミーニは野盗を見つめる。


「おおっと、バレちまったか。そうだぜ。俺達は悪い人達なのさー!」


「「「「はははははっ!!」」」」


 ここに至って漸く状況を理解したらしいミーニに野盗達は笑い声をあげる。


「そっか、貴方達が長老の言ってた悪い人達なんだ」


「なんなら逃げてもいいんだぜぇ。逃げれるもんならな」


 ミーニを掴む腕に力を込める野盗。


「……逃げたりしないよ」


「お? い~い子だ。良い子は売りに出すまでは優しくしてやるぜ。売った先でどうなるかまでは知らねぇがな」


「逃げたりしないよ。だってあなた達をやっつけるから!」


「は?」


 何を言ってるんだ、そう言おうとした瞬間、野盗の手が振り払われた。

 いや違う、突然ミーニの腕が太くなり掴む手が弾かれたのだ。


『悪い人達は……』


 グングンとミーニの姿が大きくなる。


『やっつけちゃうよー!』


 先ほどまで小さかった少女が野盗達を覆い尽くす程に巨大になり、男達の視界に広がっていた青空が少女の顔で埋め尽くされる。

 ありえない光景に硬直する野盗達。


「「「「ば、ばけものだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


 あわてふためいて逃げ出す野盗達。

 ある意味当然の行動であった。


『もー、化け物なんてひどいなぁ』


 逃げ惑う野盗達にプンプン怒ったミーニが大きく腕を振りあげる。


『巨人の! ビンターッ!!』


 ミーニが勢いよく腕を横薙ぎに降ると、猛烈な風を巻き起こしながら野盗達を纏めて吹き飛ばす。


「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


 そして宙に舞った野盗達はそのまま地面に激突して気絶してしまった。


『まったくもう』


野盗達を黙らせると、ミーニは倒れた馬車に視線を戻す。


『壊れちゃってるね。なんだろコレ?』


 そう言って横転した馬車を手に取ろうとした時、御者が立ちふさがった。


「お、お嬢様に近づくな……!」


 御者の男は血を流し、腕や脚はあらぬ方向に曲がっており満身創痍でありながら、ミーニを馬車に近づけまいと短剣を構える。

 逃げろといった業者だったが、突然巨人に変身するような相手となれば警戒しない訳にはいかない。


『わわっ、そうだった! ケガしてたんだった! これ飲んで!』


 そう言いながら懐から取り出した巨大な瓶の蓋を開けると御者の体にふりかける。


「うぼぁっ!? ガボッ!?」


 大量の謎の液体をぶちまけられた御者はあまりの水量に溺れそうになる。

 だが、液体が全部流れ落ちた頃にはすっかり体の痛みが無くなっていた。


「ゲホッ、これは? 傷が……治ってる?」


 そう、血まみれだった御者の体はきれいさっぱり直っており、あらぬ方向に曲がっていた腕や足も元に戻っていた。


『良かった』


 御者の怪我が治ってホッと安堵するミーニ。


「助けてくれたのか……その、ありがとう」


『どういたしまして』


 怪我を治して貰った事で冷静になったのか、御者は剣を収めてミーニに礼を言う。

 が、すぐにハッとなって横転した馬車へと駆け出す。


「お嬢様!!」


 男は横転した馬車を起こそうとするが、とても人一人で起こせるものではない。

 諦めて馬車に登って上を向いたドアから中に入ろうとしたところでミーニが馬車をもちあげる。


『はい、これでいい?』


「ありがとう!」


 礼もそこそこに馬車の中に駆け込むと中から御者の悲痛な声が聞こえてくる。


「お、お嬢様!」


 そんな声と共に御者が慌てて連れ出してきたのは血まみれになった少女だった。


「頼む! さっきの薬をお嬢様にも使ってくれ! 金は後で必ず払う!」


『いいよ、あっ、でもさっきの薬は慌ててたから全部使っちゃったんだった』


「そんな!?」


 御者が絶望の顔でへたり込むがミーニはちっちっちっと指を振って懐から大きな薬草の束を取りだす。


『大丈夫、すぐにポーションを作るから待っててね』


 そういうとミーニは薬草を握りつぶして巨大な容器に大量の絞り汁を注ぎ込む。

 次いで何種類かの粉末や乾いた薬草を入れて丸太のような擂粉木棒ですり潰して混ぜると、どこからか出した水に溶かしてゆく。


『出来た! お婆ちゃん特製ポーション!』


 さっそく出来上がったポーションを少女にかけるミーニ。

 治療というより水責めの絵面である。


「ガボガボッ……ゲェッホ!!」


 とても治療されている人間とは思えない咳き込みと共に少女が起き上がる。


「な、何なに!?」


 ガバッと起き上がった少女の体からはきれいさっぱり傷はなくなり、服を染めていた血もほとんどが流されていた。


「お嬢様ご無事ですか!?」


 安堵の溜息と共に御者が少女の手を握り締める。


「何がどうなっているの? 野盗は!?」


「野盗は彼女が追い払ってくれました!」


「彼女?」


御者の指差した方向に視線を向けると、そこには身をかがめてこちらを見ている巨大な少女の顔があった。


「化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 少女は気絶した。

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