叛逆の序曲
王都、ルルト家の邸。その館は、まるで嵐の前の海のように、表面上は静まり返っているが、その下では暗い潮流が激しく渦巻いていた。
邸の一階、大広間は煌々と灯りが照らされているにもかかわらず、その雰囲気は息が詰まるほどに重苦しい。三、四十名ほどの家の中核を担う者たちがここに集っているが、言葉を交わす者は誰一人いない。ただ、完全武装の兵士たちが、鎧を纏い、大理石の床の上を行き来する際に発する、意図的に抑えられてはいるものの、それでもなお耳障りな「カチャカチャ」という音だけが響いていた。
そして二階の書斎では、家主であるニール・ルルトが、まるで檻に囚われた獣のように、書斎机の前を苛立たしげに行き来していた。燭台の炎が、彼の特徴的な鷲鼻の横顔を、長く、歪んだ影として壁に映し出し、陰鬱で滑稽な雰囲気を醸し出している。
部屋のもう一方では、この陰謀を真に支配する男――ミゲル・フラッドが、ゆったりと体を伸ばし、天鵞絨のソファに怠惰に横たわって、目を閉じていた。まるで、間もなく訪れる血生臭い政変が、彼にとっては心地よい狩りの一つに過ぎないかのように。
「ミゲル様……」ニールはようやく歩みを止め、その声には、隠しきれない焦燥が滲んでいた。「前線からの知らせ……本当に、信頼できるのでしょうか? 事態が……事態が、あまりにも順調に進みすぎて、かえって胸騒ぎがいたします。万が一、辺境の方が先に勝利を収めてしまえば、我らが数年を費やしたこの心血は、全て水の泡と化してしまいますぞ!」
「ニール、我が親愛なる友よ」ミゲル・フラッドは目さえ開けず、その声には、どこか怠惰な笑みが含まれていた。「君のその猜疑心は、時には美点だが、時には、運命の女神の寵愛を逃す原因ともなる。我々の軍はとうに小部隊に分かれ、王都の隅々に潜入済みだ。あの、時勢を読めぬブレン家の老いぼれでさえ、我々は『事故』に見せかけて消し去ったではないか。君は、まだ何を心配している?」
「しかし……」ニールは机の上の、蝋印で厳重に封をされた密書を手に取り、再び広げた。手紙は娘のミレイユが、最高機密用の伝令で送り返してきたもので、筆跡も間違いなく本人のものだ――「前線にて伏兵に遭い、アルヴィン将軍は重傷、全軍、将を失い混乱」。情報は完璧で、非の打ち所がない。だが、まさにその「完璧さ」こそが、彼を不安にさせていた。
「……耳にしたところによりますと、ここ数日、女王は頻繁に多くの中立派の家を召見しておられるとか。あの、世事に一切関心を示さぬ書痴、アウグスト・バイロンでさえ、王宮の賓客となったそうです。あなた様は……彼女が、何かを察知したとは、お思いになりませんか?」ニールは、無意識のうちに自らの鷲鼻を撫で、その眼差しの憂いは、ほとんど溢れ出さんばかりだった。
その言葉を聞き、ミゲル・フラッドは、ようやくゆっくりと目を開けた。彼は起き上がることなく、ただ、全てを見通すかのような、そして、いくらかの憐れみを帯びた視線で、ニールを見つめた。
「ニール、君が望むのは、エグモンド家が持つ、領地の全てだろう? 考えてもみたまえ。『鋼鉄の壁』ラヴェンナ城、あの油が湧くように豊かな鉄鉱、そして、北境全体を見下ろす、名を『鷹の巣』という、あの古城……君が頷きさえすれば、それらは全て、君のものになるのだ」彼の描く青写真は、誘惑に満ちており、ニールの呼吸さえも、荒々しくさせた。
「だが」ミゲルの口調は一転し、冷たくなった。「もし君が、これ以上、優柔不断でいるならば、この私が、自ら手を下すしかない。その時になれば、税収減免の約束は、依然として果たしてやろう。ただ……エグモンド家の土地は、恐怕、より気骨のある盟友に、引き継いでもらうことになるだろうな」
その、何気なく言い放たれた脅しは、まるで一本の冷たい匕首のように、瞬時に、ニールの喉元に突きつけられた。
「お、お待ちを! ミゲル様!」ニールの額から、冷や汗が一気に噴き出した。「我々は、一本の縄で繋がれた運命共同体ではございませんか! そのような他人行儀なことを仰らないでください!」
「私の時間は、そう多くはないのだ、ニール」ミゲルは、再び目を閉じた。「王都を平定した後、我々はすぐにでも辺境へ『馳せ参じ』、本来なら君のものであるべき領地を、接収しに行かねばならんのだからな」
「は、はい! 急ぎます!」ミゲルの最後の一言が、ニールの心中の全ての躊躇いを、完全に打ち砕いた。「これより、直ちに命令を下します! このルルト家が先鋒となり、あなた様のために、全ての障害を掃き清めましょう! それで、よろしいですかな?」
「無論だ、我が親愛なる友よ」ミゲルの声は、再び温和なものへと戻った。「行け。そして、君の栄光を取り戻すがいい。私が言ったことは、必ず守る。君のものであるべきものは、一片たりとも、欠けることはない」
ニールは、ついに満足げな笑みを浮かべた。彼は、娘が送ってきた手紙を手に取り、心の中で思った。この度の大事が成った暁には、ルルト家は、王国内で並ぶ者のない、第一の家族となるだろう! その時こそ、ミレイユ、あの子のために、我が家の地位にふさわしい大領主を探して、嫁がせてやろう! 彼女も、きっと、それを喜んでくれるに違いない。
貪欲に満たされた、満足げなニールの顔つきを眺めながら、ソファの上のミゲル・フラッドの口元もまた、静かに、そして、音もなく、吊り上がっていった。
それは、狩人が、肥え太った獲物が、仕掛けた幾重もの罠に、ゆっくりと近づき、一歩、また一歩と、自らの食卓へと踏み上がってくるのを見る時にのみ、見せるであろう、あの、残忍で、愉悦に満ちた笑みだった。
十五歳未満の読者の皆様へ。
この場をお借りして、鄭重にお詫び申し上げます。
ただいま創作いたしました章には、戦場の場面に関する描写が含まれております。つきましては、プラットフォームの創作倫理規範に基づき、十五歳未満の皆様には、本作『軍神少女』のご鑑賞を、一旦お控えいただくよう、お願い申し上げなければなりません。
本来であれば、本作の題材を鑑み、もっと早期に気づくべき問題でした。にもかかわらず、今になってからの勧告となりましたこと、誠に申し訳ございませんでした。