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贈り物か、あるいは罠か

午後の日差しが巨大な掃き出し窓(フランス窓)から降り注いでいる。

だが、その暖かな光も、シミアの心臓に巣食う冷気を払拭することはできなかった。


ずしりと重い通学鞄を抱きしめ、シミアはヴァンナの屋敷、二階応接室の前に立っていた。

深く、息を吸い込む。


「どうぞ」


メイドの案内で、彼女はその豪奢な領分へと足を踏み入れた。


目が眩むような絢爛さだった。

調度品の一つ一つが、庶民なら息が止まるほどの「金」の匂いを放っている。その無形の圧力が、シミアの張り詰めた神経をさらに締め上げる。


「ようこそ、シミア」


気怠げで、かつ優雅な声。

あるじであるヴァンナ・クロウェルが、ベルベットのソファからゆっくりと身を起こした。


今日のヴァンナは、流れるような金糸のローブを纏っていた。身体のラインを完璧に際立たせるその衣装は、彼女の豊満な肢体を惜しげもなく、しかし下品にならずに強調している。

威圧的な態度は一切ない。だが、その身から溢れ出る色香と、権力者特有の絶対的な自信は、シミアが出会ったどの貴婦人とも格が違っていた。


ヴァンナは完璧な笑みを浮かべていた。目尻の笑い皺さえもが、凪いだ湖面に広がる波紋のように優しく、シミアの警戒心を解きほぐそうとしてくる。


「は……はい。お邪魔しております。今日は少し……特別なご相談がありまして」


シミアの声が乾く。

来る前に何度も脳内でリハーサルをしたはずだった。だが、いざ銀潮連邦の巨頭を目の前にすると、身体が本能的に萎縮してしまう。


「まあ、立ち話もなんだから」


ヴァンナは本題には触れず、親しげにシミアの手を引き、ソファに座らせた。

驚くべき手際で、メイドが極上の紅茶とケーキを配膳する。


「いつもリアンドラと仲良くしてくれてありがとう。あの子、家でもよくあなたの話をしているのよ」


ヴァンナはティーカップを持ち上げ、立ち上る湯気越しにシミアを観察した。


「本当に嬉しいの。あなたがリアンドラを本当の友達として見てくれていて。……他の子たちみたいに、私に近づくための道具としてではなくてね」


シミアは虚を突かれた。

国の命運を左右するかもしれない「商談」に来たはずなのに、相手は母親としての世間話を始めたのだ。

このリズムのズレが、シミアの不安を煽る。


「リアンドラは……最近、元気ですか?」シミアは反射的に尋ねてしまった。「なんだか最近、学校で見かける時間が減った気がして」


「心配しないで。私が早めに帰るよう言っているの」


ヴァンナは事もなげに答えた。その瞳には、計算された母性愛が滲んでいる。


「私も母親としての責任を果たしたくてね。勉強を見てあげているのよ。なにせ、あの子は私の一人娘だから」


部屋の空気が、奇妙なほどアットホームに和んでいく。

まずい。

シミアは膝の上の鞄をギュッと握りしめた。今日は使命を帯びてここに来たのだ。このままペースに巻き込まれていては、何も進まない。


「あの……」


口を開くが、声が裏返る。

ヴァンナの「優しさという名の支配」が、首を真綿で締めるように効いている。

これ以上、主導権を握らせてはならない。


「一つ、どうしてもヴァンナ会長にお願いしたいことがあります」


シミアは迷いを断ち切り、鞄を開けた。

コーナが作成した分厚い物資リストを取り出し、両手でヴァンナの前へと差し出す。


ヴァンナは片眉を少し上げ、書類を受け取った。

ページをめくる。


部屋が静寂に包まれる。

聞こえるのは、紙が擦れる乾いた音だけ。


ヴァンナの視線が走る。速い。だが、その目は一行たりとも見逃していない。表情は能面のようだ。


シミアにとって、その数分間は数世紀にも感じられた。

唾を飲み込む音がうるさいほど響く。心臓が胸郭を叩き、今にも口から飛び出しそうだ。


やがて、パタンと書類が閉じられた。


「凄まじい量ね」


ヴァンナが顔を上げる。その菫色バイオレットの瞳は、人の心を見透かす水晶玉のようだ。


「これらは……『シャルズ・キッチン』に必要なものかしら?」


最初の一撃ジャブが、重いハンマーのようにシミアの急所を突いた。

罠だ。

「はい」と言えば嘘になる。「いいえ」と言えば……。


「……違います」


シミアは奥歯を噛み締め、正直に答えることを選んだ。ただし、カードは伏せたまま。


「もし可能であれば、ヴァンナ会長にはこの物資の具体的な用途を不問にしていただきたいのです。私の唯一の願いは、これらの物資を王都の市場を通さず、銀潮連邦のルートから直接調達していただくこと。王都の物価に影響を与えないために」


空気が凍りつく。

シミアはスカートの裾を握りしめ、審判を待った。

拒絶か? 詰問か? それとも、足元を見た法外な要求か?


「もちろん、手付金は全額こちらでお支払いします……ですから……」


「いいわよ」


ヴァンナは書類をテーブルに置き、艶然と微笑んだ。

それは満開の芥子ケシの花のように美しく、そして毒々しい笑みだった。


「一週間。――それで足りるかしら?」


「え?」


シミアは呆気にとられた。

質問攻めも、意地悪も、駆け引きすらなかった。用意していた説得の言葉は、一つも使う必要がなかった。


「い、一週間……? もちろん、助かります。それが最善の結果です」


シミアはしどろもどろに答えた。脳の処理が追いつかない。

「早ければ早いほどいい」とは思っていたが、これほどの規模の国境を越えた物資輸送を、たった一週間で? それは神業だ。


「決まりね」


ヴァンナは軽やかに紅茶を口に運んだ。

まるで巨額の軍需取引を成立させたのではなく、ただのハイティーの予約を入れたかのような気軽さで。


「……ありがとうございます」


シミアは頭を下げた。

だが、胸の奥の黒いモヤは晴れない。


スムーズすぎる。

あまりにも順調だ。まるで、相手が最初からすべてを準備して、自分が飛び込んでくるのを待っていたかのように。


だが、「ヴァンナが気が変わるかもしれない」という恐怖が、シミアにそれ以上の思考を禁じた。

違和感を無理やり飲み込む。


とにかく、これで物資は手に入る。

南方前線の焦眉の急は、これで救われるのだから。

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