寂滅の揺り籠
シミアが消えた方角を見つめ、リリアは小さく息を吐いた。
「世界の真実を知った時、君はどんな選択をするんだろうね」
リリアが手を振る。
まるで舞台の帳を上げるように。
洞窟の中も外も、あれほど舞っていた灰が、最初から存在しなかったかのように世界から消失した。
彼女の目の前に現れたのは、この世界の本来の姿。
それは、炭になるまで焼き尽くされた廃墟だった。
視界の範囲に点在する十数軒の家々は、黒く焼け焦げた残骸と化している。
最も近い廃墟の前。
少年と少女が向かい合って立っていた。楽しげに談笑しているようにも、互いを慰め合っているようにも見える。
視線を少し遠くへ向ければ、村全体が災厄が降りかかる一秒前の姿のまま、奇妙な生気と、底知れぬ哀怨を漂わせていた。
けれど、その全てがあの一瞬で停止している。
少年の開いた口は閉じられることなく、少女の振り上げた手は振り下ろされることがない。
過去から見ても、現在から見ても、そして未来から見ても、目の前の光景は何一つ変わらないだろう。
この村も、この大地のいかなる片隅も、ある力によって時間を強引に剥奪されている。
『生命を失った』という表現ではあまりに薄っぺらい。
より適切な言葉を探すなら――それは『寂滅』だ。
リリアは背を向けた。
凄涼たる風景を背に、洞窟の奥へと向き直る。
闇へと向かって足を踏み出す。
石窟の地面を踏む足取りは、積もった雪の上を歩くように音もなく軽やかだ。
蜿蜒と続く入り口を抜け、干上がった地下河川の川床を踏み越え、彼女はより深く、より昏い地下空間へと辿り着いた。
闇に慣れた瞳には、洞窟内の全てが鮮明に映る。
この巨大な地下空洞に、一際巨大な『何か』が眠っていた。
鱗が散乱し、鮮血はとうに乾いて泥に染み込んでいる。
その死体は損壊が激しく、太古の貪欲な捕食者に食い荒らされた神の遺骸のように、無惨な姿を晒していた。
「千年前であれ、今であれ。ここは何も変わらない。死は始まりではなく、全ての終わりだ」
リリアは歩み寄る。散らばる骨片を慎重に避けて。
巨獣の傍らへ行き、腰を屈め、ひび割れ、怒りに目を見開いたままの頭部に、小さな掌を乗せる。
巨獣はあまりに巨大で、リリアの華奢な体では、爪先立ってようやくその鼻先に触れるのが精一杯だった。
永遠の怒りが凝固したその顔を撫でながら、彼女は静かに問いかけた。
「あの子――シミアをどう思う? 見届け人としての資格、ありそうかな?」
問いかけへの答えはない。
虚ろな反響音だけが、死に絶えた洞窟の中で霧散していった。




