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友人の推しアイドル握手会に強制連行された結果。そこにいたのはかつていじめから助けた同級生だった件  作者: 午前の緑茶


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頼み事

「瀬尾のことで」


 そう切り出したあと、尾崎さんは少し言葉を選んでいた。


「この前、四人で飯に行ったのは、聞いてます?」

「はい。昔よく行ってた喫茶店ですよね」

「そうです。それで……一緒に行った、真帆ちゃんっていう子が」

「元カノさんですよね」


 尾崎さんの顔が上がった。


「そこも?」

「聞いてます。水瀬さんには、まだ話していないことも」


 尾崎さんは、はっきり息を吐いた。


「よかった。どこから話せばいいのか、ちょっと迷ってて」

「私も、最初に聞いたときは驚きましたけどね」


 藤崎は小さく笑った。


 今なら、誰が何を知っているかも分かる。少なくとも、瀬尾先輩から少しずつ事情を聞いたときよりは、ちゃんと考えられるはずだった。


「また四人で行くんですよね。先輩も言ってました」

「はい。それで瀬尾に、真帆ちゃんと二人になりそうだったら、話に入ってほしいって頼まれてて」


 藤崎は一度、ゆっくり瞬きをした。


「……だから、あんなに安心してたんですね」

「何か言ってました?」

「尾崎さんがいるから大丈夫だって。何度も」


 尾崎さんの眉が下がった。


「あいつ、そんなに当てにしてるのか……」

「してましたね」


 藤崎はカップを少し端へ寄せた。


「でも、二人きりにしないでほしいって。先輩、真帆さんと話すのが嫌なんですか?」

「嫌というか、気まずくしたくないらしくて。真帆ちゃんも、元カレと二人じゃ困るだろうって」

「相手もそう思ってる、ってことにしてませんか、それ」

「俺も、二人で話したほうが楽なんじゃないかとは言ったんですけど」


 そこまで聞いて、藤崎は頷いた。


「分かりました。無理に二人にすることはないですけど、尾崎さんがずっと見張ってる必要もないと思います。四人で普通に話して、先輩が困ってたら少し手を貸すくらいで」

「……そう、できたらいいんですけど」


 返事が、思っていたものと違った。


 藤崎が続きを待つと、尾崎さんは裏向きに置いたスマホへ目を落とした。


「真帆ちゃんからも、頼まれてるんです」

「真帆さんも、先輩と二人にならないように?」

「逆です。二人で話す時間を作ってほしいって」


 藤崎の手が止まった。


 カップの縁に添えた指を離し、もう一度尾崎さんを見る。


「……逆?」

「はい」

「先輩は、二人にしないでほしい」

「はい」

「真帆さんは、二人にしてほしい」

「はい」


 全部、同じ声で返ってきた。


 聞き間違いではないらしい。


「何で、両方とも尾崎さんに頼むんですか!」


 近くを通りかけた客が、少し顔を向けた。藤崎はすぐに口を押さえ、尾崎さんとの間を詰める。


「……すみません。ちょっと、びっくりして」

「俺も、そう思いました」


 尾崎さんの頷きが深かった。


 藤崎は片手を上げた。今度は、すぐに助言を始めなかった。


「真帆さんには、何て返したんですか」

「ちょっと考えてもいいかって。それで、まだ」

「分かりました。そっちは、まだ引き受けてないんですね」

「でも、ちゃんと話したいって言ってたんで」


 尾崎さんはスマホを持ち上げかけ、手の中で止めた。そのまま画面を開かずに、藤崎へ顔を戻す。


「この前会って、ずっと昔のことを避けるのは嫌だと思ったって。俺が途中で話を変えたのにも、気づいてたんです」


 藤崎は、上げていた手を下ろした。


「……それは、話したほうがよさそうですね」

「そうなんですよ」

「先輩に、その気持ちだけでも伝えてみたら――」


 そこで言葉が止まった。


 真帆さんが話したいことを、自分たちが代わりに瀬尾先輩へ伝える。


 そのほうが早いかもしれない。けれど、何をどこまで伝えるのか。本人に確かめる前に、尾崎さんが勝手に話すのも違う気がした。


「……二人とも、お互いが尾崎さんに頼んだことは知らないんですか」

「知らないです」

「先輩は、真帆さんも二人きりだと困るはずだと思ってて」

「はい」

「真帆さんは、先輩が二人きりを避けてるとは聞いてなくて」

「そうです」


 藤崎は口元へ指を当てた。


 瀬尾先輩。どこが、大丈夫なんですか。


 尾崎さんが、こんなところで困っていますよ!


「それで、どうやって二人にしてほしいって?」

「俺が、こはるちゃんと話してる間にって」


 藤崎の目が、自然に尾崎さんの顔へ向いた。


 入口で上着を畳み直し、返事が急に丁寧になった姿が浮かぶ。


「水瀬さんと」

「はい」

「尾崎さんが、二人で」

「はい」


 さっきから、この人は頷いてばかりいる。


 それなのに、頷かれるたびに話が難しくなる。


「……それだけなら、嬉しいんでしょうけど」

「すごく嬉しいです」


 そこだけ、少し返事が速かった。


 尾崎さんはすぐに目を伏せた。


「でも、四人で同じテーブルにいるなら、俺がこはるちゃんと話してても、二人きりにはならないでしょう」

「すぐ隣に尾崎さんたちがいたら、昔のことは話しにくいでしょうね」

「はい。例えば食べ終わったあと、俺とこはるちゃんだけ先に外へ出て、二人には店に残ってもらうとか。ちゃんと話せる時間を作るなら、そのくらい離れないと」

「そうすると、先輩が避けてほしいって頼んだ状況を、尾崎さんが作ることになりますね」

「そうなんです。かといって四人で一緒にいたら、真帆ちゃんは二人で話せないし」


 尾崎さんはカップを取った。


 少し持ち上げたあと、そのまま置く。炭酸の泡が、内側を細く上っていた。


「普通に、楽しかったねって話せたらいいんですけど」


 藤崎は、すぐに答えられなかった。


 今日、自分がライブのあとにしていた話だった。


 あの曲がよかった。思っていたより近かった。また聴いてみたい。


 尾崎さんはそのどれにも、楽しそうに答えてくれた。それを大好きな相手と話せるなら、きっと嬉しい。


 けれど、真帆さんのために水瀬さんを連れて離れれば、瀬尾先輩には頼みと反対のことをすることになる。楽しみなはずの時間に、友人への後ろめたさまでついてきてしまう。


「……大変でしたね」


 口から出たのは、それだった。


 尾崎さんは少し目を丸くしてから、苦笑した。


「まだ、何もしてないんですけどね」

「考えてるだけで大変です。私、今聞いただけなのに、もう」


 藤崎は額へ手を当てた。


 さっきまでは、役に立てると思っていた。少なくとも、こんなに早く、一緒に困る側へ回るつもりはなかった。


 *


 壁の向こうで、誰かが名前を呼ばれて笑っていた。


 藤崎は烏龍茶を飲んだ。氷が少し解けて、来たときより薄くなっている。


 尾崎さんは返事を急かさず、隣で待っていた。


 その待ち方まで気を遣われている気がして、藤崎はカップを置いた。


「ひとつ、いいですか」

「はい」

「どっちのお願いも、尾崎さんが頑張れば絶対できる、ってことじゃないですよね」


 尾崎さんは少し考え、頷いた。


「水瀬さんを自然に誘えるかは、そのときにならないと分かりませんし。逆に、先輩たちが自分から二人で話そうとしたら、わざわざ止めるのも変でしょう」

「……そうですね」

「尾崎さんが全部、先に決めておくのは無理です。だから、うまくできるかは分からないって、それは伝えてもいいと思います」


 自分で言いながら、藤崎も少し落ち着いてきた。


「先輩も、尾崎さんがいるから安心って言いすぎです。尾崎さんだって、ごはんを楽しみに行くんですから」

「……そうですね。俺も、またあそこで食べたいと思ってたんです」


 尾崎さんは少し考えてから、困ったように笑った。


「カレー、うまかったんですよ。四人のグループでも、次は何を食べようかって話してて」

「そのときは、楽しみだったんですよね」

「はい。でも、頼まれたことを思い出すと、当日どう動けばいいかばっかり気になって」

「尾崎さんも、一緒に楽しんでいいんです。みんなで笑ってごはんを食べられたら、それだけでもいい時間でしょう。二人きりにできたかどうかだけで、尾崎さんの働きを採点されるわけじゃないんですから」


 尾崎さんの肩が、少し下がった。


「……そうですね。俺まで、普通に話せなくなりそうでした」

「今すぐ全部解決するのは難しいですけど、全部自分の責任だと思わなくていいです」


 そこまで言ってから、藤崎は人差し指を立てた。


「あと、これ以上、安請け合いしないこと」

「はい」

「頼まれたら、いったん考える。できるか分からないことは、その場で返事をしない」

「分かりました」


 尾崎さんが真剣に頷いた。


 藤崎も頷き返し、ようやく背を壁へ預けた。


 全部は無理でも、少しくらいは力になれたかもしれない。


「お待たせ」


 通路のほうから、水瀬さんが戻ってきた。


 尾崎さんの背中が壁から離れた。


「瀬尾くん、まだ莉央に感想聞かれてるの。歌のことを褒めたら、ほかにはって、なかなか終わらなくて」


 水瀬さんが笑い、二人のところまで来た。


「何の話してたの?」

「先輩の話を、少し」


 藤崎が答えると、水瀬さんは嬉しそうに頷いた。


「もう仲よくなってる。よかった」


 尾崎さんはカップを持ったまま、はい、と返した。


 丁寧な声に戻っていた。


「尾崎くん。今度のひばりなんだけど」


 藤崎はストローへ伸ばしかけた手を止めた。


 尾崎さんも止まった。けれど顔は、水瀬さんへきちんと向けている。


「はい」

「真帆も、楽しみにしてるって。次は何を食べるか、もう決めたんだって」

「ああ、はい。俺もこの前、そんな話を」


 藤崎は、よかった、と思いかけた。


 そういう話でいい。そのまま、食べ物の話をしていてほしい。


 水瀬さんはバッグの紐を片手で持ち直し、少し声を落とした。


「それでね。ちょっと、お願いしてもいい?」


 尾崎さんの顔が上がる。


 藤崎は、尾崎さんの手元を見た。カップは、まだ指に挟まれたままだった。


「何ですか?」

「瀬尾くんと真帆、もっと気楽に話せたらいいなって思ってて」


 カップの中で、氷が動いた。


「この前も、普通に笑ってたのに、途中でお互いに遠慮しちゃうことがあったでしょう。何か聞こうとして、やっぱりやめたり」

「……ああ」

「久しぶりだから、まだ少し緊張するのかなって。昔は、あのお店にもよく一緒に行ってたみたいだし」


 藤崎は、口を閉じたまま息を吸った。


 水瀬さんは本当に、懐かしい友達同士の話をしている顔だった。


「尾崎くんが話に入ると、二人とも喋りやすそうだったから。今度も、ちょっと手伝ってくれないかな」


 尾崎さんの目を見て、首を少し傾ける。


「二人がもっと仲よく話せるように、尾崎くんからも声をかけてくれたら嬉しいんだけど」


 藤崎は、尾崎さんへ顔を向けた。


 まず、考える。


 たった今、そう言った。


「もちろん。任せてください」


 返事が来た。


 藤崎が口を開くより、ずっと早かった。


「ほんと? ありがとう!」


 水瀬さんの頬が緩んだ。少し寄せていた眉がほどけ、尾崎さんへ向けた笑みが深くなる。


「尾崎くんなら、頼めるかなって思ってたんだ」

「はい。俺でよければ」


 もう一回、返事をした。


 藤崎は何も言えず、その横顔を見つめた。


 尾崎さんは、笑っていた。入口で話していたときより、ずっと嬉しそうに。


 その目が、ちらりと藤崎を向いた。


 笑顔が、途中で止まる。


 あ。


 口には出なかったが、はっきり分かった。


 今、気づいた。


 尾崎さんの視線が、水瀬さんへ戻る。口元だけが、もう一度笑おうとした。持っていたカップを置こうとして、置く場所を見つけられず、胸の前へ引き戻している。


「じゃあ、瀬尾くん呼んでくるね。そろそろ莉央も特典会の準備があるから」


 水瀬さんは二人へ笑いかけ、通路へ戻っていった。


 尾崎さんは最後まで、笑顔で見送った。


 藤崎は、その隣で一度も笑わなかった。


 *


 水瀬さんの姿が通路の角へ消えた。


 藤崎は一拍だけ待ってから、尾崎さんへ向き直った。


「尾崎さん?」

「……はい」

「さっき、私、何て言いました?」


 尾崎さんがカップを置いた。今度は、ちゃんと置けた。


「安請け合いしないように、と」

「覚えてるじゃないですか!」


 藤崎は声を落としきれず、慌てて尾崎さんのほうへ身を寄せた。


「ただでさえ二人に板挟みなのに、これ以上引き受けてどうするんですかー\!?」

「……すみません」

「考えるって言いましたよね。いったん、考えるって。何で一回も止まらずに返事するんですか!」

「それは、本当に」

「しかも、二回!」


 藤崎は指を二本立てた。


「任せてください。俺でよければ。二回も引き受けましたよ!」

「二回目は、一回目の続きというか」

「どっちも同じです!」


 尾崎さんの頭が下がった。


 藤崎は組み直しかけた腕をほどき、また尾崎さんを見る。


「せめて、何をしたらいいか聞くとか。うまくできるか分かりませんけど、って言うとか。あったでしょう、ほかにも!」

「あったと思います」

「何で、いちばん頼もしい返事を選ぶんですか」


 尾崎さんは口を開いた。


 少し迷い、諦めたように肩を落とす。


「……頼ってくれたのが、嬉しくて」


 藤崎の次の言葉が止まった。


 尾崎さんは目を上げないまま続けた。


「俺なら頼めるって、あんなふうに言われたら」

「それは、引き受けたあとのお礼です。最初の返事は、その前です」

「……そうでした」


 もう一段、肩が下がる。


 藤崎は額を押さえた。


「もう……」


 何を言っても、反論が返ってこない。


 本人も、返事をした直後には後悔していた。あの、笑いながらこちらへ助けを求めてきた目を思い出すと、もう一度責めたいような、少し笑いたいような気分になった。


「断りにくいのは、分かりますけど」


 水瀬さんの、ほっとした顔が浮かんだ。


 相手が喜んでいる最中に、今のは待ってほしいと言えるかどうか。自分だって、簡単には言えなかっただろう。


 だから、返事をする前に、と言ったのだ。


「……これで、先輩を助けようとして話をそらしたら、水瀬さんには、二人が仲よく話すところを邪魔してるように見えるかもしれませんね」


 尾崎さんが顔を上げた。


「そうなります?」

「それ以外なにかありますか?」


 少し考えてから、尾崎さんは両手で顔を覆った。


 藤崎は、今度こそ笑ってしまった。


「今からそんな顔してて、どうするんですか」

「すみません。分かってたつもりだったんですけど」

「分かってなかったから、引き受けたんですよ」


 尾崎さんも、手の向こうで少し笑った。


 藤崎はため息をつき、カウンターからスマホを取った。


「連絡先、交換しましょう」


 尾崎さんが手を下ろす。


「いいんですか」

「さっきの曲、送ってもらう約束もしてますし」


 画面を開きながら、藤崎は付け足した。


「それと、もしまた何か頼まれたら、返事をする前に教えてください」

「ありがとうございます」

「お礼もいいですけど、今度こそですからね」


 尾崎さんは頷き、自分のスマホを開いた。


 連絡先を交換すると、すぐに曲のリンクが届いた。さっき二人で、よかったと話した曲だった。


「これです。あと、この前のライブ映像も、公式のが出てるので」

「あ、見たいです」


 もう一つ、届く。


 藤崎が画面を覗くと、尾崎さんはその動画のどのあたりに曲が入っているか教えてくれた。


 説明は短くて、分かりやすかった。


「……こういうときは、ほんとに頼りになりますね」


 思わず言うと、尾崎さんは苦笑した。


「すみません。相談のほうは、頼るばっかりで」

「まだ私、何も解決してないですけど」

「でも、話せたので。ずっと、自分の頭の中だけで考えてたから」


 藤崎は画面から顔を上げた。


 尾崎さんは、さっきより少しだけ楽そうに笑っていた。


「聞いてもらえて、助かりました」


 藤崎は唇を結び、もう一度スマホを見た。


 その顔をされると、何もできていないとは言い続けにくかった。


「……少し整理してみます。私も、いったん落ち着いて考えたいので」

「はい。お願いします」

「先輩にも、もうちょっと自分で考えてもらわないと」


 そう言ったところで、通路から声がした。


「何を?」


 瀬尾先輩が、水瀬さんと一緒に戻ってきた。


 藤崎と尾崎さんが同時に振り向くと、瀬尾先輩は少し笑った。


「待たせてごめん。ずいぶん話が弾んでたな」

「……ええ。おかげさまで」


 藤崎が答えた。


 瀬尾先輩は二人の手元を見た。


「連絡先も交換したんだ」

「曲を教えてもらうので」

「そっか。尾崎、詳しいからな」


 藤崎は頷いた。


 そこは、本当にそのとおりだった。


 四人で空いたカップを片づけ、出口へ向かう。


 階段を上がると、外の空気が頬に触れた。耳の奥に残っていた音が少し遠くなる。看板の灯りの下で、水瀬さんがバッグからスマホを取り出した。


「明日も、駅で待ち合わせでいいよね。ひばりまで、一緒に行こう」

「うん。尾崎も、前と同じ出口でいい?」


 瀬尾先輩に聞かれ、尾崎さんが頷いた。


「ああ」


 藤崎は、バッグの留め具を閉める手を止めた。


「……明日?」


 三人がこちらを見た。


 藤崎は尾崎さんへ顔を向ける。


「ひばりって、明日なんですか?」

「……はい」


 小さな返事だった。


 藤崎は、さっき自分が「少し整理してみます」と言ったことを思い返した。


 落ち着いて考えてから、また尾崎さんに連絡すればいいと思っていた。けれど、食事が明日なら、今夜のうちに相談の続きをしなくてはならない。


 まだ、どうすればいいかも分かっていないのに。そんなにすぐだとは聞いていない。


「そういうことは、最初に言ってください!」


 尾崎さんの肩が、また縮んだ。


「すみません。話の順番が」

「順番の、かなり前のほうです、それ!」


 瀬尾先輩が二人を見比べた。


「何の話?」

「ちょっと、相談してて」


 尾崎さんが答えると、瀬尾先輩はすぐに納得した顔になった。


「ああ。藤崎、頼りになるだろ」


 藤崎は瀬尾先輩を見た。


 尾崎さんも見た。


 瀬尾先輩は、二人を紹介してよかったと言いたそうに笑っていた。


 藤崎は深く息を吐いた。


「今日だけで、ずいぶんいろいろ聞きました」

「またライブも一緒に来られたらいいね」


 水瀬さんが嬉しそうに言った。


 藤崎は頷いた。ライブは楽しかった。それは、間違いなかった。でも、それ以外の情報が多すぎる。


 駅へ向かって歩き出すと、前を行く水瀬さんが瀬尾先輩へ顔を向けた。


「明日、真帆にも今日の話しようね」

「うん」


 瀬尾先輩は気楽に答え、少しだけ後ろを振り返った。


「尾崎、明日もよろしくな」


 藤崎の隣で、返事が詰まった。


 尾崎さんがこちらを見る。


 つい数時間前まで、知らない人だった。


 なのに藤崎にはもう、その目が何を言いたいのか、よく分かってしまった。


 明日は一体どうなってしまうんですかー!

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