↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友人の推しアイドル握手会に強制連行された結果。そこにいたのはかつていじめから助けた同級生だった件  作者: 午前の緑茶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

初参加

「先輩。結局、どうだったんですか」


 休憩室で弁当の蓋を閉めたところへ、藤崎がやってきた。


 向かいの椅子にバッグを置き、紙コップを持って座る。昼休みの半ばで、窓際の席には俺たちしかいなかった。電子レンジの前で、別の部署の人が温め終わった容器を取り出している。


「午前中の確認なら、返事来たよ。あの内容で大丈夫だって」

「そっちは私にも届いてます。四人でごはんに行くって言ってたでしょう」

「ああ。ひばりか」

「どうなったか教えてくださいって、お願いしましたよね」


 忘れていた。


 俺が箸をしまって向き直ると、藤崎はコップを両手で包んだ。


「その顔なら、そんなに悪いことにはならなかったんですね」

「うん。楽しかったよ。店も昔のままだったし」

「真帆さんとも、普通に話せました?」

「話せた。昔のこと、向こうにばっかり答えさせないようにしたし」


 藤崎の口元が緩んだ。


「ちゃんと覚えてたんですね」

「助かったよ。何も聞いてなかったら、もっと黙ってたと思う」

「そうでしょう」


 少しだけ顎が上がった。


「相手だって、先輩がどう思ってるか気になるんですから。先輩が普通に話してくれれば、それだけで安心できるんです」

「うん。尾崎もいてくれたしな」

「ああ、お友達。事情は話したんですか?」

「帰りに。俺と真帆が付き合ってたって」

「帰り……まあ、話したならよかったです」


 藤崎は頷いてから、コーヒーをひと口飲んだ。


「また四人で行くことになってるんだ」

「いいじゃないですか。前より気楽に行けそうですね」

「そうだな。そのあとも、水瀬とは撮影で会ったし」

「撮影?」


 コップが、テーブルへ着く手前で止まった。


「生誕イベントで流す動画を撮ったんだよ。別のグループの子と、どっちの動画がいいかって対決することになって」

「先輩、そういうお手伝いもしてるんですか」

「そのときだけ。相手がいたほうが、水瀬も話しやすいって」

「インタビューみたいな?」

「いや。デートしてるところを撮る動画で、俺は彼氏役」


 紙コップの底が、こつんと鳴った。


 藤崎は手を離さなかった。


「……何役ですか?」

「彼氏。画面には映らないんだけど」

「そこ、今は大丈夫です。えっと、先輩が、水瀬さんの彼氏になって?」

「役な。カメラの横に立って、話しかけるだけ」

「どんなことを」

「待ち合わせして、服を褒めたり。喫茶店で一緒に食べたり」

「一緒に食べるんですか」

「そこは座るから」

「立つか座るかの確認はしてないです」


 藤崎が椅子を寄せた。さっきまでコップを包んでいた両手が、テーブルの上で組み合わされる。


「待ってください。先輩が彼氏役をするのは、水瀬さんから頼まれたんですか」

「うん。知ってる相手のほうが自然に喋れるからって。撮る人からも説明を聞いて、俺でよければって」

「……そうですか」

「初めは難しかったけど、途中からは普通に話せたよ」

「普通に、って。彼氏としてですよね?」

「まあ、そういう設定だから」


 藤崎は一度、目を閉じた。


 俺も初めは、役に立つか心配だった。けれど、撮影が進むにつれて、水瀬もよく笑ってくれるようになった。


「水瀬の動画、勝ったし」

「それは、よかったですね」

「だろ」

「はい。動画は」


 最後の二文字だけ、少し強かった。


「先輩、服を褒めるとき、何て言ったんですか」

「似合うな、とか。見つけたとき、かわいいなって思ったから、そのまま言った」

「そのまま」

「そのほうが言いやすかったんだよ。水瀬も喜んでくれたし」


 藤崎の口が開いた。


 しばらく待ったが、続きは来なかった。


「……藤崎?」

「聞いてます。今の、水瀬さんも喜んでくれたってところまで、ちゃんと聞いてます」

「そうか」

「そこで安心しないでください」


 なぜだ。


 藤崎は額へ指を当て、ゆっくり息を吐いた。


「水瀬さん、それを先輩から言ってもらって嬉しかったんじゃないですか」

「うん。衣装、自分で選んだって言ってたから」

「……衣装も、あるでしょうけど」


 小さな声だった。


 それから藤崎は、何かを立て直すように背筋を伸ばした。


「分かりました。撮影は、ちゃんとできたんですね。イベントでも好評だったと」

「うん。上映したあとに、撮影の話をする時間もあってさ」

「そういうの、ありますよね」

「進行もうまくやってくれて、助かったよ」

「慣れてる人がやってくれたんですね」

「真帆が」


 藤崎が動かなくなった。


 入り口のほうで、電子レンジが鳴った。


「……真帆さん?」

「うん」

「今の、別の真帆さんではないですよね」

「ほかにいたっけ」

「いないから聞いてるんです!」


 藤崎は声を出した直後、肩をすぼめた。入り口を確かめてから、テーブルへ身を寄せてくる。


「先輩の元カノが、先輩が彼氏役をした動画について、水瀬さんに話を聞いたんですか?」

「そうなるな」

「先輩は、そのときどこに」

「客席」

「いたんですか!」

「見に行ったからな」


 藤崎が、両手で口元を覆った。


 俺も、始まる前は似たようなことを考えていた。


「気まずいのは気まずかったよ。でも、真帆はちゃんと進めてくれたし、客席も笑ってたから」

「先輩が座ってるところで、撮影の話を……」

「相手役の名前は出さなかったよ。動画も、男の返事は字幕になってて。俺の声も入ってなかった」

「字幕になったら、先輩が言ったことまでなくなるわけじゃないでしょう」


 それは、そうだった。


 俺が頷くと、藤崎は組んだ指をほどき、もう一度組み直した。


「水瀬さんは、真帆さんとのこと、まだ知らないんですよね」

「うん」

「ああ……」


 さっきとは違う意味で、目を閉じられた。


「食事のあと、何もなかったのかと思ってました」

「何もないとは言ってないだろ」

「そうですけど。そんな、彼氏役から元カノの進行まで、まとめて出てくるとは思わないじゃないですか」


 藤崎はコップを持ち上げたが、飲まずに戻した。何か聞こうとして俺を見て、そのまま口を結ぶ。


「次のごはんも、本当に大丈夫なんですか」

「四人だし。尾崎も来てくれるから」

「先輩、そのお友達がいると、ずいぶん安心するんですね」

「真帆とも普通に話せるし、気も利くんだよ。俺が最初にライブへ行ったときも、いろいろ教えてくれて」


 藤崎は、ようやく少し肩を下げた。


「そういう方なら、助かりますね」

「今度のライブにも来るよ」

「次は、いつなんですか」

「今週末。今話した、動画で水瀬と対決した子のグループ」


 スマホを出し、莉央から届いていた告知を開いた。


 藤崎が画面を覗く。


「この子ですか?」

「朝倉莉央さん。水瀬の生誕にも出てくれたんだけど、客席まで楽しそうになるんだ。水瀬も、一緒に見に行く」

「……先輩、いつの間にか、いろんなところへ行くようになりましたね」

「自分でもそう思う」


 初めて尾崎に誘われたときには、次のライブへ行くことさえ考えていなかった。


 藤崎は、告知の下に書かれた出演時間を見ていた。


「こういうライブって、曲を知らなくても楽しめますか」

「俺は楽しかったよ。藤崎も来る?」

「私も?」

「興味があるなら。尾崎もいるし、分からないことは聞ける」


 藤崎はスマホから顔を上げた。


「また尾崎さん」

「頼りになるから」

「……そうですか」


 少し考えてから、彼女は自分のスマホを取り出した。


「その日、空いてます。せっかくだし、行ってみようかな」

「じゃあ、案内送る」

「お願いします。あ、見る場所とか、何か決まりがあるなら先に教えてくださいね」

「うん。尾崎にも――」

「先輩も教えてください」


 言われて、笑ってしまった。


 確かに、そろそろ俺も誰かを案内できていい頃だった。


 *


 ライブ当日、会場の階段を下りかけたところで、瀬尾先輩が片手を上げた。


「尾崎」


 入口脇に立っていた男が、スマホから顔を上げる。肩に小さなバッグを掛け、もう片方の手には畳んだ上着を持っていた。


 藤崎は瀬尾先輩の半歩後ろで足を止めた。


「会社の後輩の藤崎。こっちが、話してた尾崎」

「初めまして。藤崎です。今日はよろしくお願いします」

「尾崎です。こちらこそ。初めてなんですよね」

「はい。先輩から、尾崎さんに聞けば大丈夫だって」


 尾崎さんが瀬尾先輩を見た。


「お前、何て説明したんだよ」

「分からないことがあったら聞けるって」

「お前も別に教えられるだろ」


 藤崎は、こらえきれずに笑った。


「私も言いました、それ」

「ですよね」


 二人の間で、初めて目が合った。


 瀬尾先輩は少し困ったように笑い、スマホを確認してから階段の上を見た。


「水瀬、着いたって。迎えに行ってくる」

「分かった」


 尾崎さんが頷き、入口を避けるように壁際へ寄った。藤崎もその隣へ移る。


 開いた扉の向こうから低い音楽が流れていた。階段を下りてきた客が、受付で画面を見せて中へ入っていく。


「中、立って見るんですけど、大丈夫ですか」

「はい。靴は歩きやすいのにしてきました」

「よかった。今日は後ろのほうでも見やすいと思います。前に行ったほうが楽しいってわけでもないので」


 藤崎が受付の先へ目を向けると、尾崎さんはそちらを指した。


「荷物を減らしたかったら、入って右にロッカーがあります」

「ありがとうございます。どこに何があるか分からないの、ちょっと不安だったので」

「俺も最初はそうでした。分からなかったら、そのとき聞いてください」


 一度に何もかも覚えなくてよいらしい。


 藤崎が頷いたところで、階段から足音がした。


「お待たせ。もう集まってたんだね」


 瀬尾先輩と並んで、小柄な女性が下りてきた。薄い色のブラウスに、肩から小さなバッグを掛けている。瀬尾先輩に教えてもらって見た写真より、ずっと近くで目が合った。


 この人が、水瀬さん。


 あの相談の相手が目の前にいると思うと、藤崎まで背筋が伸びた。


「会社の後輩の藤崎さん」


 瀬尾先輩に紹介され、藤崎が頭を下げると、水瀬さんは一歩近づいた。


「初めまして。水瀬です。今日は一緒に見られて嬉しいです」

「藤崎です。こちらこそ、よろしくお願いします」

「瀬尾くんから、来てくれるって聞いてたんだ。こういうライブは初めて?」

「はい。さっき尾崎さんに、いろいろ教えてもらってました」


 藤崎が隣を見ると、尾崎さんはいつの間にか上着を畳み直していた。バッグの紐まで、肩の真ん中に収まっている。


「尾崎くん、案内してくれてたんだね」

「はい。あ、でも、場所とか、そのくらいで」

「ありがとう。私もこの会場、客席に入るのは初めてなんだ」

「そうなんですか」


 返事が速い。


 さっき自分には、俺も最初は、と気軽に話していた人だった。


 水瀬さんが瀬尾先輩へ顔を向ける。


「送った曲、聴けた?」

「聴いた。二曲目に送ってくれたやつ、よかった」

「あれ、私も好き。今日やってくれるといいな」


 笑い合う二人を見て、藤崎は視線を戻した。


 尾崎さんは今度、チケットの画面を開いていた。入口はすぐそこなのに、少し離れた場所からでも見せられそうな持ち方になっている。


「……緊張するんですね」


 藤崎が小さく言うと、尾崎さんは顔を向けた。


「分かります?」

「さっき、私にはもっと普通に話してくれたので」

「すみません。話しにくかったですか」

「逆です。そっちのほうが話しやすかったです」


 尾崎さんは少し笑った。その顔は、さっきのものに戻っていた。


「じゃあ、藤崎さんには普通にします」

「はい。ぜひ」


 入口へ進みながら、藤崎は前を歩く瀬尾先輩を見た。


 水瀬さんが話しかけるたび、瀬尾先輩はごく普通に返事をしている。


 これをいつも隣で見ているのかと思うと、尾崎さんには、すでに少し親しみが湧いた。


 *


 フロアの後方には、床が一段高くなった場所があった。


 藤崎たちは、その端に並んだ。左隣に尾崎さん、その向こうに瀬尾先輩と水瀬さんがいる。前の人の肩越しに、まだ誰もいないステージと、奥に並ぶ照明が見えた。


 客席の明かりが落ちた。


 思ったより深い暗さだった。藤崎が一度足元を見た瞬間、音楽と一緒に正面の照明が点いた。


 明るい場所へ、女の子たちが駆け出してくる。


 告知で見た莉央さんを見つけるより先に、その声が聞こえた。


「後ろまで、準備できてる?」


 前から声が返った。隣で尾崎さんも手を上げる。


 莉央さんは客席の奥を見たまま、口元へ手を添えた。


「んー? 後ろ、まだ余裕ありそうだなあ」


 照明の中で、目が細くなる。返事を待っている顔だった。


 藤崎も、つられて手を上げた。


「よし! そのままいくよ!」


 莉央さんの腕が高く伸びた。音が一つ強く鳴り、並んだ足が同時に動き出す。


 最初は、誰を見ればいいのか迷った。


 中央で歌っていた子が横へ移り、その後ろから莉央さんが出てくる。声が重なるところで、隣のメンバーと顔を合わせて笑う。振り付けの途中なのに、その笑顔だけは、今ここで楽しくなって出たものに見えた。


 サビに入ると、客席で腕が揃った。


 藤崎は半拍遅れて手を動かし、すぐに下ろしかけた。


「合ってなくても、大丈夫です」


 耳元ではなく、隣から届く程度の声だった。


 尾崎さんは正面を向いたまま、拍子に合わせて手を叩いている。


「俺も、この曲はまだ覚えてないので」


 そう言った直後、尾崎さんが上げた手と、前の人の手が逆に動いた。


 藤崎が笑うと、尾崎さんも少し笑った。


 それからは、間違えても気にならなくなった。


 二曲目の終わりで、莉央さんが片手を腰に当て、肩で息を整えた。


「今日は初めて来てくれた人もいるよね」


 何本か手が上がる。藤崎も胸の高さで、そっと手を出した。


「ありがとう。今日来てよかったって、思ってもらえるように頑張るから」


 莉央さんが笑った。


「いつも来てくれる人には?」


 隣のメンバーに聞かれ、莉央さんはすぐに振り向く。


「もちろん! みんなにも!」

「初めての人ばっかり見てない?」

「見てるよ、みんなも! 今も見てたじゃん!」


 客席から笑いと声が返った。


 莉央さんはそちらを指し、今のは聞こえた、と言って頬を膨らませる。けれど、名前を呼ばれると、すぐに口元が緩んだ。


「……うん。今日も来てくれて、ありがとう」


 その一言は、さっきより少し素直な声だった。


 藤崎の隣で、尾崎さんが楽しそうに笑っている。


 ステージの彼女も、近くにいる客も、同じやり取りを楽しみに来ているのだと分かった。


 次の曲は、出だしの手拍子がなく、歌声から始まった。


 莉央さんが中央へ立つ。ひとつ前までの笑みを残したまま、マイクを口元へ寄せる。伸ばした音の終わりで目を上げると、隣のメンバーが続きを歌い出した。


 さっきの冗談の声とは違った。


 藤崎は手を止め、その声を追った。


 重なるところでは二人を見比べ、莉央さんだけになると、またそちらを見た。誰を見たらよいかは、もう考えていなかった。


 曲が終わってから、尾崎さんへ顔を寄せた。


「今の曲、何ていうんですか」

「あとで曲名、送りますね。俺もあれ、好きです」


 押しつけるような説明はなく、それだけだった。


 最後の曲では、莉央さんがステージの端まで来た。


 こちらの一段高い場所へ目を向け、胸の前で手を振る。藤崎が小さく振り返すと、その目元が笑った気がした。


 隣の尾崎さんも手を振っている。


 自分に向けられたのか、そのあたり全体だったのかは分からない。


 それでも、藤崎は曲が終わるまで手を下ろさなかった。


 *


「思ってたより、ずっと近いんですね」


 ロビーへ戻ると、藤崎はまだ耳に残っている音を聞きながら言った。


 尾崎さんは上着を腕へ掛け直し、頷いた。


「表情まで見えるでしょう」

「はい。最初は大きい音にびっくりしましたけど、途中から全然気にならなくなりました」

「俺も初めてのとき、そんな感じでした」


 少し離れたところで、スタッフと話していた水瀬さんが振り向いた。


「莉央に挨拶してきてもいい? 瀬尾くんにも、感想聞きたいって」

「うん」


 瀬尾先輩が頷き、藤崎たちのほうを見る。


「ちょっと待っててもらっていい?」

「どうぞ。私、飲み物をもらってきます」


 水瀬さんが、待っててね、と手を振った。


 二人がスタッフに案内されて通路へ入っていくのを見送り、藤崎はドリンクカウンターへ向かった。


 烏龍茶を受け取ると、尾崎さんもちょうど炭酸水のカップを手にしていた。


 ロビーの片側では、物販の準備が始まっている。二人は列のでき始めた場所を避け、反対側の壁に沿った細いカウンターへ移った。フロアへ戻る扉からは、まだ客の話し声が流れていた。


「さっきの曲、これです」


 尾崎さんがスマホを差し出した。藤崎は曲名を自分の画面に打ち込み、あとで聴けるように保存する。


「ありがとうございます。今日は、いろいろ教えてもらって」

「楽しめたならよかったです」

「先輩が、頼りになるって言ってたの、分かりました」


 尾崎さんは少し照れたように、カップを置いた。


「あいつ、そんなことまで言ってたんですか」

「はい。何を聞いても、尾崎がいるからって」

「……ああ」


 返事が、少しだけ沈んだ。


 藤崎が顔を見ると、尾崎さんはスマホを消し、裏向きに置いた。


「そういえば、俺も聞いてました。藤崎さんのこと」

「私の?」

「会社に、相談するとちゃんと考えてくれる後輩がいるって。自分が気づかなかったところを、はっきり言ってくれるから助かったって」


 藤崎は、ストローから口を離した。


「……そんなこと、言ってたんですか」

「はい。今、話してて思い出しました」


 仕事の話ではないだろう。あの休憩室で、何度も声を上げてしまったときのことだ。


 もう少しうまく話せたはずだと、あとから思っていた。


 けれど、瀬尾先輩には、そういうふうに伝わっていたらしい。


 藤崎はカップを置き、乱れてもいない袖口を直した。


「いつも仕事では教えてもらってますから。そのくらいは、私も」

「……少し、相談してもいいですか」


 尾崎さんが聞いた。


 さっきまでライブのことを教えてくれた人が、今度は返事を待っている。


「はい。もちろんです」


 藤崎は尾崎さんへ体を向けた。


「私に分かることでしたら」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あらあら…うふふ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。