8話、お母さま覚醒。
ーーある日の朝、遠藤家の居間。
頼重「うぬぬ……松千代の蕎麦と風呂上がりの牛乳は最高なのだが、我が遠藤家の財布がいよいよ空っぽじゃ。これでは今夜のたぬき蕎麦が食えんぞ……」
作左衛門「左様でござる。毎日ポイポイと鉄の箱にお金を注ぎ込み、ついに当家の蓄えが底をつきました。殿、コレでは本末転倒、飢え死にしてしますぞ!」
松千代「ふぇええ、おとうたん、じいじ、お金ないないなの? お腹ペコペコになっちゃう?」
お初「はい、松千代様、遠藤家は元々とても貧乏ですから、家族みんなでお蕎麦を食べるお小遣いが無くなってしまったのです」
松千代「えぇーー! せっかくたさん食べれるようになったのに……」
お艶「たくさん……? (ぽんと手を叩いて)殿、作左衛門、松千代のあの白い箱から出る牛乳を外の領地の方に分て差し上げるのはいかがですか?」
頼重「なに? 外の者に分けるだと? お艶、あれは一本二文もするのだぞ。我が家にそんな余裕は……」
お艶「ですから二文で買った牛乳を外の村で四文で売るのです。あの美味しさですから五文でも安いくらいですし、そうすれば我が家でお蕎麦を食べる銭が戻ってくるのではないですか?」
作左衛門「な、なんと! 仕入れ値の倍の値段で売る……! お方様、それは素晴らしい商いでござる。二文で買って四文で売れば一本ごとに二文の儲けに!」
頼重「おぉお……お艶、お主はなんと恐ろしい……いや、賢い妻じゃ! よし、権三、頼武! 残った最後の銭をかき集めて、牛乳を買い上げるのじゃ!」
ーー遠藤家の男たち、脱衣所の牛乳の自販機に手持ちの銭を全てぶち込む。
牛乳の自販機「ガチャガラ……ゴト! ガチャガラ……ゴト!」
次々と牛乳の瓶を落とし続けた。
ーーその日の昼下がり、隣の領地に続く街道の茶屋。
権三「(声を張り上げて)さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 遠藤領より湧き出た、神の霊薬だ! 飲むだけで1日の疲れがあっと言う間に吹き飛ぶぞ!」
隣村の商人「なんだか熊のような大男が妙な物を売っているな……」
頼武「(瓶を差し出し)能書は良いから飲んでみよ! 上のキャップをパカっと剥がして、グイッといってみろ!」
隣村の商人「怪しいな……まぁ、四文なら騙されたと思って……ゴク、ゴク、ゴク……。ぷはぁああああ!!」
頼武・権三「……(ニヤリと顔を見合わせる)」
隣村の商人「な、なんじゃ! この美味しさはぁあああ!? 濃厚で、甘味もあって、疲れが一瞬で消え去ったぞ! おい、そこに並んでいる白い瓶を全部くれ! 4文と言わず5文出すから全部、儂に譲れー!」
権三「がははは、まいどあり!」
ーー夕方、遠藤家の居間。その畳の上に、じゃらじゃらと大量の銭が積み上げられる。
作左衛門「(ソロバンをパチパチと叩きながら)と、殿ーー! 儲かりました! わずか数時間で、当家の元手が3倍以上の大金に化けましたぞ! これも全てお方様の素晴らしいお知恵のおかげでございます!」
お艶「ふふふ、これで今夜もみんなで松千代のお蕎麦が食べられますわね」
頼重「うむ! まさかコレほどとは……おっと、そうだ作左衛門、チャント瓶は回収したか?」
作左衛門「はっ! 空き瓶を10本あの自動販売機の隣りのゴミ箱のような物の中に入れると2文が出てくる。儲けとしては微々たるモノではありますが、キチンと回収しておきましたぞ!」
頼武「10本買えばオマケでもう1本飲める……なかなかにくい仕掛けが付けてありますな」
頼重「うむ、じゃが二文は二文じゃ。コレだけ売れれば瓶のオマケだけで数杯分のかけ蕎麦が食えるのではないか?」
頼次「確かに……」
お艶「松千代、お外の人も喜んでくれたみたいよ」
松千代「わーい! おかあたん、すごいーー! ぎゅうにゅう、みんなおいしいしてくれた?」
お艶「ええ、みんな美味しいって、夢中でゴクゴク飲んでいましたよ。松千代、今夜も美味しいお蕎麦をお願いね?」
松千代「はーい! まつちよ、がんばって、みんなの分を作るのーー」
こうして、母親の主婦の知恵によって始まった牛乳ビジネスは、貧乏な遠藤家を一気に小金持ちへと成り上がらせ、松千代のお蕎麦ライフを支える資金源となったのでした。




