7話、歯磨きイヤイヤ期。
ーー夕飯の「たぬき蕎麦」とお風呂上がりの「牛乳」を満喫した後の、遠藤家の廊下。
お初「松千代様、お休みの前の歯磨きをしましょうね」
お初ちゃんが小さな木の枝の先を叩いて房状にした物を差し出して来ました。
戦国時代の歯ブラシだ。
松千代「いやだじょーー! それ、にがくて痛いの、ぼく、大っ嫌いなんだじょーー!」
ぼくは全力で首を振って後ずさりしました、現代の記憶がなんとなくあるぼくとしては、あの苦い木の枝を口の中に入れてゴシゴシ擦るなんて痛いし、不衛生で耐えられないの。
ぼくは3歳児のイヤイヤ期パワーを全開にしてその歯木から逃げるとお初ちゃんの手を引いて湯そば庵のところにトコトコと走っていきました。
松千代「ええと、あった! ぎゅうにゅうの自販機を出すのでポイントを使っちゃったけど、みんながぎゅうにゅうを飲んでまたポイントが貯まってるじょ。コレなら、ぽちっとなーー!」
液晶画面:【1,000PT消費:現代の子供用・大人用歯ブラシセット(各色)&いちご・ミント歯磨き粉を取り寄せました】
ーーピピっと、音がして松千代の手元に、カラフルなプラスチックの歯ブラシとチューブに入った歯磨き粉がぽわんと現れた。
お初「わわわっ! なんですかソレは!? なんてカラフルな細い棒でしょう! 先っぽに獣の毛のような白い毛が綺麗に並んでいます!」
松千代「これが歯ブラシなの! おはちゅ、このイチゴの歯磨き粉を、ちょん、ってのせて、お口の中をごしごしするの!」
お初「ええっ? このイチゴの甘い匂いがする泥のようなモノを、口に……? では失礼して……ゴシゴシ……っ!?」
松千代「あーー、おはちゅの口から、白い泡がいっぱい出てるぅ!」
お初「ななな……なんですかこれはぁああ! 口の中がもこもこした泡でいっぱいになって、でも奥歯まで洗いやすいわ! それにイチゴの甘い香りがして、最後にお水でペッっとしたら……まぁ! 口の中のネバネバが消えて、凄くサッパリしました!」
松千代「でしょう。ぼくも、お口くちゅくちゅ、ペッ! ……ぷはぁ、すっきりなのぉ!」
こっちの方が断然いいよね!
これでもうあの苦い枝で歯を擦らなくてすむよー。
歯磨きを終え、ぼくとお初ちゃんは満足してお部屋に戻って行くのでした。
ーー翌朝、居間でくつろぐ遠藤家の面々。
松千代「お父たん、にぃに、これ使ってみてぇー! まつちよからのプレゼントだよぉー!」
ーー松千代、小さな両手にお父さん用の青い歯ブラシと爽快ミントの歯磨き粉を抱えて差し出す。
頼重「松千代、これは何だ? 持ち手がガラスのように透き通っているが……?」
お初「お殿様、若様、それは松千代様が天より授かった「ハブラシ」と言う天界の道具でございます。先っぽにこの白い練り物を乗せて、お口をゴシゴシするのです!」
頼重「ふむ、松千代の天の品か。ならば試さねばなるまい。……ゴシゴシ。……むっ、おおおっ!?」
頼武「うおっ! 父上! 父上の口から蟹のように白い泡が溢れて出ておりますぞ!?」
頼重「う、狼狽えるな頼武! 苦しくはない、むしろ口の中に爽やかな香りが広がって……ペッっと、水で口をすすぐと……おぉお、なんじゃ、この爽快感はーーーー!!」
頼武「なら拙者も……ゴシゴシ、ペッ。……うわぁあ! 歯の裏がツルツルです! 口の中のネバリが一瞬で消え去りました!」
鈴「鈴もピンクのハブラシで、いちごの泡あわしたよー。お口の中がきらきら〜〜」
お艶「まぁ、あなたたち、朝からお口の中がとても良い香りですね。私も早く試してみたいわ」
松千代のプレゼントした歯ブラシセットのおかげで、遠藤家の面々は戦国時代で最も口の中が清潔で吐く息が爽やかな、イケている家族になったのでした。




