外伝6、魔王の乾きと、お口の中のパチパチ大合戦。
ーーある日の午後四時、夕方の開店前の静かなテラス席。
信玄公みずから耕す夏野菜の畑で、プライドをかなぐり捨てて泥まみれになって鍬を振るっていた織田信長が、ヘトヘトになって長椅子に腰掛けた。
織田信長「(浴衣の襟をはだけ、手ぬぐいで汗を拭いながら)はぁ、はぁ……! なんという過酷な労働じゃ。天下の魔王と呼ばれた儂が、南信濃の山奥でトマトのツルを縛る日が来ようとは。喉が、喉が乾いて死にそうじゃ……。お初、早くあの生ビールを……」
お初「信長様、大変申し訳ありません! まだ夜の部(18:30〜)の前ですので、ビールサーバーの魔法が動かないのです!」
織田信長「おのれ、生殺しではないか……! 儂の五臓六腑がカラカラの砂漠のようになっておるわ……」
松千代「(厨房の小窓からひょっこり顔を出して)のぶながおじさん、お疲れポンポンなのぉ! お喉がかわかわで、可哀想だから、まつちよが『ひみつのシュワシュワ』をあげるのぉ! ぽちっとなー!」
液晶パネル:【200PT消費:現代のキンキンに冷えた『コーラ(缶)を一本取り寄せました】
ーーピピッ♪ と可愛い電子音がして、カウンターの上に、赤くて丸い不思議な鉄の筒(缶コーラ)がホワンと出現する。その表面には凍るような冷たい水滴がキラキラと付いている。
織田信長「む……? なんじゃこの赤くて冷たい鉄の筒は。南蛮の飛び道具か?」
松千代「これはねぇ、『こーら』っていうのぉ! おじさん、このお耳を、ぐいっ、て引っ張るんだよぉ!」
織田信長「お、おう。……(恐る恐る指をかけ、ぐいっと引く)」
缶コーラ「プシュウウウウウウウッッ!!!!」
織田信長「ひゃあああっ!? (缶から黒い水飛沫が微かに吹き出し、あまりの音の鋭さに飛び退いて刀を構えそうになる)」
お初「あはは、信長様、動転しないでください! 毒じゃありませんよ!」
松千代「おじさん、冷たいうちに、ゴクゴクしてねぇ!」
織田信長「う、うむ……。では、恐る恐る……(真っ黒い炭酸の液体を口に含み、一気に喉に流し込む)……。……っ!!?! (一瞬で目を限界まで見開き、全身の毛穴がブワッと開く)」
徳川家康「(横を通りかかって)信長殿、お顔がもの凄く赤くなっているべ! 大丈夫だべぇ!?」
織田信長「(缶を両手でガタガタと震わせ、あまりの衝撃にひざまずきながら)な……ななな、なんじゃこの破壊力はーーーっ!!! 以前の生ビール美味かったが、これは別次元の衝撃じゃ! 漆黒の怪しき水が口に入った瞬間、何万という目に見えぬ小さな槍(炭酸)が、口の中でパチパチ、パチパチと大合戦を始めおったわ!」
羽柴秀吉「(影から覗き込んで)ひゃあ! 信長様が口から黒い泡を吹いて感動されておるべ!」
織田信長「(号泣しながら一気に缶を飲み干し)……ぷ、はぁぁぁぁーーーっ!!! なんという爽快感! 薬のような独特の香ばしさと、脳を突き刺すような猛烈な甘み……っ! 汗をかいた我が身体に、このシュワシュワが直撃して、一瞬で全盛期の覇気がみなぎってきたわ! 松千代……お主、この『こーら』なる黒い聖水を、なぜ今まで隠しておいたのじゃーーーっ!」
松千代「あはは、おじさん、お髭に黒いあわあわがいっぱいついて、お猿さんみたいなお顔になってるよぉ!」
羽柴秀吉「(ガーンとショックを受け)信長様、儂の悪口を言うのはやめてくだせぇ!」
織田信長「(真っ赤な顔でデレデレになり、松千代を拝みながら)お主のためなら、儂は明日からトマトだけでなく、きゅうりも、じゃがいもも、何万箱でも船で売り捌いてみせる! だから毎日、畑仕事の後にこのコーラを一本、儂の胃袋に授けてくだされーーーっ!」
現代の冷たい缶コーラの強烈な炭酸の刺激と、ジャンクの甘みの前に、戦国時代の魔王・織田信長は完全に魂をキャッチされ、ますますお蕎麦屋さんの忠実なお手伝い(常連客)として、初春のテラス席でヘラヘラと蕩けてしまうのでした。
(外伝・信長のコーラ衝撃回・了)




