外伝2、闇の守護者の秘密と、大パニックの脱衣所。
ーーお昼下がり、お昼寝タイム(13:00〜15:00)で完全閉店中の『湯そば庵』の内風呂。
松千代がお座敷風呂でアヒルちゃんをぷかぷか浮かべて遊んでいた、その時。
ーーガラガラッ。と、男湯の共同風呂の方から、なにやら慌てた足音が響いてきた。
隠密「(男湯の脱衣所へ飛び込んできて、ゼェゼェと息を切らしながら)はぁ、はぁ……! し、仕損じた! 武田の本国(甲府)からの緊急の密書を懐に入れておったが、山道で泥まみれになり、文字が滲んで読めなくなってしまった……! 乾かせねば……!」
いつもはテラスの影や天井の梁に潜んでいる隠密が、誰もいないと思って男湯の脱衣所で、大急ぎで漆黒の頭巾と覆面をバサっと外した。
その瞬間ーーサラリと、夜露のように美しい、長い黒髪が肩へと流れ落ちた。
覆面の下から現れたのは、むさ苦しいおじさんの顔ではなく、きりっとした涼しげな目元を持つ、驚くほど美しい「若き女性」の素顔だったのだ。
隠密「(髪をかき上げながら)ふぅ、頭巾の中は蒸れていかぬ。よし、早く密書を火に……」
ーーその時。
「お館様(信玄公)! 殿! さっき隠密が男湯の方へ走っていきましたぞ!」と、権三と信玄公、お父さんの3人が、偶然お風呂に入りに脱衣所へ入ってきた。
信玄「おお、隠密よ! 密書が届いたのなら儂が直接読む……。って、ぬ、ぬおおおおっ!?!? (一瞬で全身の動きがピタリと止まる)」
頼重「な、なんじゃあぁぁ!? 男湯の脱衣所に、なぜ髪の長い見知らぬ美女が、装束をはだけて立っておるのだ!?」
権三「(目を限界まで丸くして)お、おいお前……その着物、隠密の装束ではないか! 隠密のおじさんはどこへ行った!?」
隠密「(顔を一瞬で真っ赤にし、慌てて覆面で顔を隠そうとしながら)あ、いや! お館様、これは、その……無調法をいたしました!」
信玄「(指をさしてガタガタ震えながら)お、お主……声が妙に高くて綺麗ではないか……。まさか、いつも儂の影として働き、焼き鳥を貪り食うて『一生ついていきますぅ!』と大号泣しておったあの隠密は……おなご(女性)であったのか!?」
隠密「ハ、ハッ! 申し遅れました! 真名は『千代女』! 正真正銘、武田家に仕える歩き巫女の頭領にございまする! 任務ゆえ、ずっと男の声を偽っておりました!」
頼重・権三「「く、くのいちだったのかあぁぁーーーーっ!!!」」
大人3人が脱衣所で大パニックになり、「おなごを男湯に入れてしまった!」「いや、自分から入ってきたのだべ!」と大騒ぎしていると、脱衣所のドアがパカっと開き、お座敷風呂に浸かっていて松千代がひょっこり顔を出した。
松千代「おじさんたち、お外でバタバタにぎやかだねぇ? ーーあ、ちよめねえちゃん! やっとお顔、ペリペリ(覆面を外す)してくれたのぉ?」
信玄「(ひっくり返りそうになりながら)ま、松千代!? お主、隠密がおなごだと知っておったのか!?」
松千代「うん! だってねぇ、おろなみんCとシュークリーム(33話)あげたとき、おててがすっごくちっちゃくて、首からいい匂いがしたもん! まつちよ、最初から『かっこいいおねえちゃんだなぁ』って、知ってたよぉ!」
千代女(隠密)「(松千代のあまりの優しさと、子供ならではの鋭い観察眼に再び涙腺が崩壊し、その場に平伏して大号泣しながら)う、ううう……松千代様ぁ! 知っていて、お団子やシュークリームを私に……っ! なんという慈悲深さ、やはり松千代様は天の御方に違いありませぬーーーっ!」
徳川家康「(大騒ぎを聞きつけてビール片手に覗きにきて)がはは! 信長殿、見ろべ! 隠密の奴、実はおなごだったべ!」
織田信長「(同じく覗き込んで冷や汗を流し)なんと……。儂の放った秀吉や勝家()を山道でボコボコに叩き潰したあの怪力は、くのいちの業であったのか。武田の忍び、恐ろしや……」
千代女「お館様! 頼重殿! おなごだからと、これからの警護(松千代のお昼寝のお守り)を外すなどとは仰いますな! この千代女、命に代えてもこの庵をお守りいたします!」
松千代「あはは、ちよめおねえちゃんかっこいいから、これからは女湯でおかあたんや鈴ねぇねと一緒に『アヒルちゃん(きゅ〜♪)』して遊ぼうねぇ!」
千代女「(顔を真っ赤にして感動し)ははっー! 喜んでご一緒いたしまするーーーっ!」
いつも冷徹に闇に潜んでいた隠密の正体が「美女くのいち」だと判明し、遠藤領の大人たちは大パニック!
しかし松千代の可愛い提案により、千代女はこれからは女子組のサウナ仲間としても迎え入れられ、ますます遠藤領の絆(と千代女の忠誠心)は固く結ばれるのでした。
(外伝・隠密の正体回・了)




