外伝1、物置の裏のちっちゃな夜空と、みんなの花火。
ーー初夏の夜七時半、男女別の大浴場(15話)から上がってサッパリした遠藤家の人々。
夜風が心地よく吹き抜ける、完成したばかりの手作りの青空テラス席(18話)のテーブル。
頼重「(焼き鳥を齧り、冷え冷えのお酒をグイッと煽りながら)ぷはぁーっ! 今夜も良い湯じゃった。村の者たちも、みんな蕎麦を外で食べられてニコニコしておるな」
松千代「おとうたん、おかあたん、みんな! 今日ね、みんながお蕎麦をいっぱい『ガチャガラ』してくれたから、ポイントで、お空に負けないすっごいきらきら(おやつ)を、ぽちっとしたのぉ!」
お艶「あら、松千代。今度はなんの馳走を出してくれたの?」
松千代「うんとねぇ、これは食べられないのぉ! 夜(夜空)のなかで、パチパチってきらきら光る『はなび』っていう、まほうの棒だよぉ! はい、どうぞぉなのぉ!」
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ーーピピッ♪ と可愛い音がして、テーブルの上に、カラフルな紙に包まれた『細長い花火の束』と、ポワンと光る現代の『着火具(チャッカ◯ン)』が出現する。
鈴「わぁぁい! なんてカラフルな細い棒! 松千代、これどうやって遊ぶの?」
松千代「あのね、この火の出る棒で、先っぽにチチッ、て火をつけるんだよぉ! おとうたん、ぽんってしてぇ!」
ーー松千代に教えられた通り、頼重がチャッカ◯ンの引き金を引くと、先っぽから「カチッ、ボッ」と小さな炎が灯る。
頼武「うおっ!? 火打ち石も使わずに、指一本で火が点いたぞ! 南蛮のちえ、恐るべし……!」
松千代「にぃい、動転しないでぇ! ほら、このお花の形をしたねんど(線香花火)の先っぽに、火をちょん、ってするのぉ」
ーー頼重が恐る恐る、松千代が持った線香花火の先へ火を近づける。
次の瞬間ーーパチパチパチッ♪ と、夜闇の中に、オレンジ色の小さくて繊細な「光の花火」が、松葉のように美しく弾け出した。
遠藤家一同「(口をポカンと開けて、一斉に固まる)」
鈴「(目を限界まで丸くして、息を呑みながら)……綺麗……! 棒の先っぽで、ちっちゃなお星様がパチパチ踊っているみたい……!」
お初「(感動で胸を押さえて)ひゃあぁ……! なんて優しくて、なんて神々しい光でしょう。戦場の篝火や松明の火とは、まるで違います……!」
お艶「まぁまぁ……本当に美しいわねぇ。ずっと見ていられますわ。……あっ、お湯の底の泡のように、きらきらと形を変えていきますのね」
松千代「でしょぉー! 鈴ねぇね、おはちゅ、これもやってみてぇ! ーー(カラフルなすすき花火に火をつける)」
ーーシュワアアアアーーーーッッ!!!
今度は赤、青、緑と、鮮やかな光の尾を引く激しい花火が、夜のテラス席を昼間のようにはっきりと照らし出す。
頼武「うおおおおおっ!? 火の色が、緑や紫に変わっていくぞ! なんという奇跡じゃ!」
頼次「(光に照らされながら、知性派ぶって分析する)驚ました……。煙が少なくて、火の粉が手元に落ちてきません。松千代、これなら小さな子供が持っても、絶対に火傷をしませわね」
松千代「うん! 現代のはなびはね、安全なのぉ! おててを優しくフリフリすると、光の丸ができるよぉ!」
鈴「こう!? キャハハ! 光の輪っかができた! 楽しい、すっごく楽しい!」
お初「松千代様、見てください! 私の花火、最後はぽちゃんって、静かに消えていきました……なんだか少し、寂しいけれど、とっても綺麗です……(涙ぐむ)」
頼重「(お猪口を傾け、夜空に消えていく花火の余韻に浸りながら、しみじみと呟く)……お艶よ。儂は今まで、火といえば戦場を焼き払う恐ろしいもの、あるいは煮炊きをする煙たいものとしか知らなんだ。火を見て、これほど心が洗われ、涙が出そうになるなど……初めての経験じゃな……」
お艶「ええ、殿。戦のない、こんなに静かな山奥の夜に、みんなで笑いながら光を眺める。これほどの贅沢、日ノ本中どこを探してもありませんわねぇ。松千代、本当に素敵なプレゼントをありがとうね」
松千代「(お母様の浴衣の裾をぎゅっと握り、にこにこ笑顔で)えへへ、おかあたん、みんなで、きらきら、たのしいねぇ! まつちよ、みんなの笑顔が、いちばんだーいすきなのぉ!」
外の草むらからは初夏の虫の声が優しく響き、テラス席の足元には、バケツの水に浸かった消えかけの花火の煙がかすかに揺ている。
のちの武田信玄公たちがやって来る前の静かな夜、南信濃の深い山奥の物置の裏で、遠藤家の人々はちっちゃな光の奇跡に包まれながら、いつまでもいつまでも、温かい家族の時間を紡いでいくのでした。
(外伝・はなび回・了)




