47話、徳川主従、極楽の檻へと引きずり込まれる。
ーー初秋の昼下がり、遠藤領の『湯そば庵』の前。
徳川家康「(縄で縛られ、ガタガタと震えながら)うう、おのれ武田……! 三方ヶ原に続き長篠でも拙者たちだけをボコボコにして、このような南信濃の深い山奥に連行するとは! コレから一体、どんな凄惨な拷問が待っているのだへぇ……!」
本多忠勝「殿、お気を確かに! 鹿角の兜を奪われようとも、この本多平八郎、命に代えても殿をお守りいたす! ……むっ、しかしなんだあの怪しげな建物(旅館)は?」
榊原康政「侮るな平八郎、あれこそは敵の拷問部屋に違い……むっ!? 鼻腔を突くこの、醤油と砂糖の焦げるような、えも言われぬ芳しき匂いは一体なんだ!?」
権三「がはは! 徳川主従、大げさに騒ぐな! ほら、松千代様がお待ちかねのテラス席へ入れ!」
松千代「あっ、おとうたん、よいたけにぃに! おかえりなさーいなのぉ! ーーおやおや、お外に、すごーくお顔が青くて泣きそうなおじさんたちが、いっぱいいるよぉ?」
お初「松千代様! こちらが降伏した徳川家康様と、家臣の本多忠勝様、榊原康政様たちにございます!」
松千代「おじさんたち、お馬さんから落っこちて痛い痛いしたのぉ? お腹もペコペコで可哀想だから、おはちゅ、お縄をちょきちょき(開放)してあげてぇ!」
お初「はい、松千代様! ーー(全員の縄を解く)」
本多忠勝「えっ、縄を解くだと!? 3歳の小童が……いや、それより調理場が気になる……(よだれをごくり)」
松千代「おじさんたち、お顔がドロドロだから、まずはあっちの『おざしきぶろ』に入って、きれいキレイちてねぇ! そのあと、あまーいおやつをあむ、するのぉ!」
ーーお風呂エリア・四畳半のお座敷風呂。
徳川家康「(松千代に案内されて湯船に浸かる)ーー……はふうぅぅぅぅぅぅん…………っ!!!」
榊原康政「とのぉーっ!? ああっ、殿が敵の湯の中で蕩けてしまわれ……って、うわっ! なんだこの床の畳は! 濡れておるのに冷たくない! 滑らん!」
本多忠勝「(我慢できずに湯船にドボンと浸かり)……うはあぁぁぁぁぁ……。なんじゃこれは、なんじゃこれはぁ……っ! 蜻蛉切(自慢の槍)を振り回して凝り固まった我が肩の凝りが、お湯に溶けて消えていくようじゃ……。あっ、この黄色い小鳥は……きゅ、きゅ〜っ♪ (うっかり握って鳴かせてしまい、顔をフニャケさせる)」
榊原康政「平八郎、お主、鬼神と恐れられた猛将のくせに、湯船で黄色い鳥を鳴かせてデレデレするな! ーー(自分もアヒルを掴んで)きゅ〜っ♪ ーーうおっ、可愛いではないか……!」
ーー一時間後、お風呂から上がってツヤツヤになった徳川主従がテラス席へ。
お艶「ふふ、徳川の皆様。お風呂上がりでお肌がとってもピカピカになりましたわねぇ。さあ、松千代が特別な甘味を用意いたしましたわよ」
松千代「おじさんたち、お待たせぇ! ぷるぷるの『ぷりん』だよぉ! このちっちゃいスプーンで、あむってしてねぇ!」
徳川家康「黄金に輝く塊……。では、パクリ。……っ!!!? (一瞬で目を見開く)」
本多忠勝・榊原康政「(同じくパクリ)……っ!!!!!?????」
頼重「家康殿、皆様、お味はいかがかな?」
徳川家康「(両目から大粒の涙をハラハラと流し、テラス席の杉のテーブルに突っ伏して号泣しながら)う、美味い……美味すぎるぞおぉぉぉ!!! 噛まなくても口の中でとろけて消えていく! 織田信長め、儂らを戦場に置き去りにして逃げおったが、あ奴は一生こんな美味いものは食えんのだべ! 拙者、もう三河には帰りたくありませぬ! ずっとここに居たいだべぇーーーっ!」
本多忠勝「(スプーンをガタガタ震わせ、男泣きしながら)殿……! 私も、私も同じ気持ちにございまする! 毎日泥水をすすって干し飯を齧っていた我らの人生はなんだったのか! 織田の同盟などクソ喰らえにござる!」
榊原康政「(悶絶しながら)美味い、美味すぎる……脳が、脳が蕩ける……っ!」
松千代「あはは、おじさんたち、みんなでお顔が真っ赤っかで、おめめがハートになっているよぉ!」
徳川家康「松千代大明神様! 拙者、これからは武田の、いや松千代様の忠実な常連客として、三河の美味しい『八丁味噌を毎月ここに大量に運ばせまする! ですから、毎日このプリンとお風呂を許してくだされーーーっ!」
本多忠勝「我が蜻蛉切の槍、これからは松千代様のお昼寝の時間を狙う泥棒を突くために使いまする!」
最初は拷問を覚悟していた徳川家康と四天王の猛将たちだったが、お座敷風呂と一個のプリンの凄まじい現代チートの前に、わずか数時間で全員揃って脳を溶かされて完全陥落。
のちの江戸幕府を創るはずだった最強の主従は、遠藤領のテラス席で「松千代様、お味噌を持って来たべ!」と、お蕎麦屋さんの最高に頼もしい常連客一同への道を、満面の笑顔で踏み出すのだった。




