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戦国ちびっこ店長  作者: 東のマ王


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42/64

42話、お館様の野望。

ーー夜七時半、大浴場でサッパリした武田信玄公の本陣の夜会。


テラス席は松千代の作った「焼き鳥」の香ばしい匂いと「冷え冷えのお酒」を楽しむ武将たちで、お祭りのような熱気に包まれていた。

しかし、その特大テーブルの真ん中でーー。


松千代「う〜……おめめが、くっついちゃうのぉ……。すー、すー……zzZ」


何万という本隊の「たぬき蕎麦」や「カレー南蛮」を、ちっちゃな体で一生懸命に『ちゃっ!』とワンオペで作り続けた松千代は、夜の八時を待たずに限界を迎え、信玄公の逞しい膝の上で完全に爆睡していた。


お初「(小さな声で)お館様、お殿様。松千代、今日はお一人で何千丁ものお蕎麦を湯切りされましたから、もうクタクタなのです。静かにしてあげてくださいね」


信玄「(松千代に愛おしそうに毛布をかけ、デレデレの笑顔で頭を撫でながら、声を潜めて)お、おう、分かっておる。神童を起こしては地蔵尊のお湯が止まるからな。よし、者ども……ここからは『しぃーっ」じゃ。声を殺して、信長と家康をハメ殺す軍議を始めるぞ」


頼重「(同じく小声で)ははっ。お館様、松千代が以前言っていた織田の『三段撃ち』、我が南信濃の最前線で迎え撃つか、それとも徳川の領地に攻め込むべきでしょうか」


信玄「(急に冷徹な名将の眼光に戻り、囁(ささや)くような低い声で)家康の籠る浜松城は無視して通り過ぎる。あ奴は血気が盛んゆえ、我が大軍が城を素通りすれば、必ずやプライドを傷つけてられて城から打って出て来る筈じゃ。その誘い出す戦場こそが……南信濃の山道にも似た、あの『三方ヶ原(みかたがはら)』よ」


頼次「(地図を広げて、小声で分析する)なるほど。三方ヶ原は平地ではなく、起伏のある険しい台地。松千代の予言にあった『織田の三段撃ちの馬防柵』をあらかじめ作らせる隙を与えませぬね」


信玄「その通りじゃ。家康が城から追撃してきたところを、夕暮れ時の視界の悪い時間帯を狙って、我が軍得意の『魚鱗(ぎょりん)の陣』で一気に包囲し、夜戦へと引きずり込む! 鉄砲など、暗闇と大雨の前にはただの鉄の筒に過ぎんわ!」


隠密「(テラスの梁(はり)から音もなく降りてきて、小声で)お館様、徳川の陣営には、すでに織田からの増援の兵が合流しつつあるとの報せが。ですが、彼らは冷たい山道で凍え、泥水をすすって飢えております」


信玄「がはは、勝負は戦う前に決まっておるな。我が武田の全軍は、松千代のお蕎麦で腹を満たし、ふかふかの雲の寝床(羽毛布団)で気絶するよに爆睡して、お肌もツヤツヤの無敵の体調じゃ! 飢えた織田・徳川の兵など、一ひねりよ!」


頼重「(深く頷き、小声で)まさに松千代のちえと、我が妻お艶の旅館ビジネスが、武田を最強の軍勢に仕立て上げましたな……」


信玄「うむ(膝の上の松千代を優しく抱き上げながら、静かに立ち上がり)。よし、作戦は決まった。家康を三方ヶ原でおびき寄せ、夜戦で完膚なきまでに粉砕する! ーー頼重、儂は松千代をこれよりお座敷風呂へ入れて寝かせるゆえ、今夜の軍議はここまでじゃ。者ども、明日の出陣に向けて、静かに、しかし全力で英気を養え!」


戦国最強の総大将・武田信玄は、膝の上でスースーと可愛い寝息を立てる松千代をそっと抱き抱え、明日の歴史的大勝利(歴史改変)の約束を胸に、静まり返る極楽旅館の寝所へと歩みを始めるのでした。

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