41話、総大将、極楽の里へ帰還する!
ーー九月上旬のある日の午前十一時。お蕎麦屋さんのお昼の開店直後。
地響きのような大軍勢の足音とともに、遠藤領の山道が武田の象徴である「武田菱」の旗指物で真っ赤に染まった。
頼重「(物見櫓から腰を抜かさんばかりに叫んで)来た、来たぞ! 先陣の山県昌景殿に続き、ついにお館様(信玄公)直属の本隊、本陣のご到着じゃあーーーっ!」
信玄「(全盛期のムキムキの肉体で、見事な巨馬にまたがり、テラス席の前に颯爽と乗り付けながら)がははは! 頼重、松千代! 儂がまた戻ってきたぞ! 甲府での軍議を秒で終わらせ、大軍を率いて進軍してきたわ!」
松千代「おじさん! おかえりなさーいなのぉ! お馬さんパカパカ、かっこいいねぇ!」
信玄「(馬から飛び降りるなり、周囲の目を一切気にせず満面のデレデレ笑顔で松千代を抱き上げ)おお、松千代! 会いたかったぞ! 見よ! お主のハブラシのおかげで、我が武田の全軍、朝から口が爽快で士気も日ノ本一じゃ!」
お艶「(テラス席の前で、完璧に優雅な一礼をしながら)お館様、本隊の皆様、ようこそおいでくださいました。先陣の山県様たちから『山奥の旅館、最高じゃった!』と甲府へ早馬が飛んだそうで、すでに皆様のお部屋の準備は万端にございます」
信玄「うむ、お艶! 昌景の奴め、『あのふかふかの雲の寝床(羽毛布団)を儂の後に他の武将に貸し出すな、百文払うから買い占めさせろ』と大騒ぎしておったわ! 儂の泊まる部屋も、もちろんその雲の寝床とやらが入っておるのであろうな!?」
お艶「もちろんでございます、お館様。お館様用の特大のお部屋と、お使い係(領民)による地蔵尊(券売機)の手配、すべて含めまして、本日は現金で『百五十文』を頂戴いたしますわ」
信玄「がはは、安いものじゃ! 松千代のちえと遠藤家の極楽に払う銭なら、いくらでも出すわ! ほら、作左衛門、この千両箱から当面の我らの宿泊費とお使い代を直に受け取るが良い! (ずっしりとした現ナマの金箱をドンと手渡す)」
作左衛門「(大喜びで金箱を抱え、涙を流しながら)ははーっ! お館様の軍資金、我が遠藤家の金蔵へ確かに直接回収いたしましたぞーっ!」
松千代「おじさん、お腹ペコペコだねぇ! いま、みんなの分の、おいしい『たぬきそば』と『かれーなんばん』いっぱい作るよぉ!」
信玄「おう! 儂はあのスパイスの黒船(カレー南蛮)を食わねば、これから徳川の城へ進軍する気力が湧かんわ! 頼武、頼次、作兵衛! すぐに全員分の食券を地蔵尊から『ガチャガラ』と買い占めて、松千代に札を渡すのじゃ!」
お初「はいっ! お館様の本隊の皆様、これよりお昼の部、大オープンです! 小窓の前のテラス席へどうぞーーーっ!」
夕暮れ前、南信濃の深い山の中に響き渡る、何万という武田兵たちの「ガチャガラ!」という食券購入の音と、お風呂上がりの笑い声。
お母様の仕掛けた極楽旅館ビジネスは、総大将・武田信玄公本人の合流によって過去最大の現金を叩き出し、最強の武田軍は、決戦の地である遠江(徳川領)へ向けて、心も体も極楽の頂点へと満たされていくのでした。




