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戦国ちびっこ店長  作者: 東のマ王


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40/66

40話、気絶の羽毛布団と、お口の中の白き嵐。

ーー夜八時、お蕎麦屋さんが完全閉店した直後、新築の木造旅館の寝室。


山県昌景「(お酒で良い気分になりながら、ツヤツヤの畳を踏みしめて)おお、馬場殿。ここが我らの泊まる部屋か。壁も床も新しく、木の香りが実に良い。……むっ? 部屋の真ん中にある、この白くて分厚い大きな塊は一体なんじゃ?」


馬場信春「なにやら、絹(きぬ)の袋の中に、鳥の産毛(羽毛)がこれでもかと詰め込まれているようですな。松千代様のちえの寝具だそうですが……どれ、失礼して腰掛けて……うおっ!?」


ーー馬場信春、高反発マットレスと羽毛布団の上に腰を下ろした瞬間、お尻が沈み込むあまりの柔らかさに仰天する。


山県昌景「い、いかがなされた馬場殿! 新手の罠かッ!」


馬場信春「ち、違う! 罠ではない! 柔らかい……柔らかすぎるのだ山県殿! まるで、天上の雲の上にそのまま腰掛けたような心地じゃ……! ーー(たまらずそのまま、ごろんと横になる)」


山県昌景「おい、馬場殿!? ーーむっ、寝息を立てておる……!? 触れただけで一瞬で眠りに落ちるなど、南蛮の催眠の術か!? 儂も確かめねば……(同じく布団へ倒れ込む)」


山県昌景「(目を限界まで見開きながら)おお……おおお……っ! 硬い床板が、背中を一切痛めつけぬ……。一日の山越えの疲れが、布団に吸い込まれて消えていくようじゃ……ふはぁ……(そのまま気絶するように爆睡)」


ーー翌朝、朝六時。


松千代「おじさんたち、おはよーさんなのぉ! よくねんねちたぁ?」


お初「山県様、馬場様、朝にございますよ! お目覚めのハブラシを持ってまいりました!」


山県昌景「(パチッと目を覚まし、驚くほど軽い体で跳び起きて)……なっ!? 身体が軽い! 毎日悩まされていた腰の痛みが完全に消え去っておる! まさに奇跡の寝床じゃ!」


馬場信春「(同じくスッキリ起きて)拙者もこれほど深く眠れたのは数年ぶりですぞ! ーーむ、松千代様。その小さな両手に抱えている、カラフルな細い棒と、白い練り物は一体……?」


松千代「これはねぇ、『ハブラシ』っていうのぉ! 先っぽに練り物をちょんって乗せて、お口の中をゴシゴシするんだよぉ!」


山県昌景「お館様(信玄公)が仰っていた、朝の儀式か! よし、試してみよう。……ゴシゴシ。……むむっ!? おおおっ!?」


馬場信春「うおっ!? 山県殿、口から蟹(かに)のように白い泡がドバドバと溢れ出ておりますぞ! 大丈夫ですか!?」


山県昌景「(猛烈にゴシゴシしながら)動転するな馬場殿! 苦しくはない! 辛くて冷たいハッカ(ミント)の嵐が、口の中で吹き荒れておる……! ペッ、と水で濯ぐと……おおお、なんじゃこの爽快感はーーーっ!!!」


馬場信春「拙者も! ……ゴシゴシ、ペッ。……うわぁあああ! 歯の裏側がツルツルです! 昨晩の焼き鳥の油が、一瞬で消え去りました!」


松千代「あはは、おじさんたち、お口から泡いっぱいだして、お顔きらきら〜なのぉ!」


山県昌景「(ツルツルになった歯を舌で触りながら大号泣し、お母様に宿泊費と代行代の銀貨をさらに手渡しながら)お艶殿、松千代様……! これほど身だしなみが整い、身体が軽くなる宿など他にはござらん! これで天下の織田信長の前でも堂々と大声を張り上げられますわ! 我ら先陣、これより無敵の体調にて、徳川の城(三方ヶ原)へ突撃いたしますぞ!」


お母様の未来投資(極楽旅館)の目論見は見事に的中。

現代のアメニティとふかふかの布団に脳を溶かされた武田軍の最高幹部たちは、遠藤家にガッシリ現金を落とし、全盛期以上の超健康体になって、いよいよ徳川・織田との決戦へと進軍を開始するのだった。

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