3話、遠藤家、湯そば庵に雪崩れ込む。
ーーガラガラガラッ! っと湯そば庵の引き戸が勢いよく開く。
頼重「松千代! お初! こんな怪しげな小屋に隠れてなにをしておるのだ!」
父の怒声と共に、遠藤家の面々が湯そば庵に雪崩れ込んできた。
しかし、中に入った瞬間、父や母、兄姉たちは全員、まるで時が止まったかのように固まってしまった。
頼重「……むっ!? なんだこの不思議な部屋は。おかなしな長机(カウンター席)に椅子が3つ……」
鈴「あっ! 松千代! お初ちゃん! 二人ともお肌がピカピカになっているわ! いったいなにをしたの!?」
お艶「これはいったいどう言う事でしょう。裏庭にこんな立派な建物など無かった筈ですが……」
松千代「お父たん、お母たん、みんな! お腹すいたでしょ? いま、おいしいの作るね!」
渋い濃紺の色の着物を着けたお父たん、水色にピンクの花柄が映える着物を着けたお姉ちゃん、上品な藤色の着物を着けたお母たん、急いでお風呂から出て来たぼくは家族のみんなの姿が見えてそう話しました。
頼武「作る、と言っても松千代、どこに食材があるのだ? 厨房らしき場所に空っぽの鍋があるだけじゃないか」
脳筋だけどしっかり者の紺の着物を着けた長男(14歳)のお兄ちゃんがそう尋ねて来ました。
松千代「あのね。このおっきな箱にお金をぽいっとして、ボタンをポチッとするの。そうしないとちゅるちゅる(お蕎麦)の材料が出ないの」
頼次「食材が出ない……? あの鉄の箱が食材を管理していると?」
知性派の青い着物を着けた次男(12歳)のお兄ちゃんがそう話したよ。
お初「そうです。お殿様! 触るとピピッと鳴るボタンに『かけ蕎麦 六文』と文字が書いてあります。右上の投入口に銭を入れるのです」
頼重「ふむ……怪しいが、松千代が言うのなら試してみるか。頼武、六文はあるか?」
頼武「はっ、手持ちの銅銭があります。……よし、この隙間に銭を入れれば良いのだな?」
長男の頼武が銭を投入口に入れる。
券売機「ガチャガラ……ゴト、チャリン」
頼武「ひぇええ! 箱が銭を食った!?」
頼次「兄上、落ち着いてください。ただ箱の中に銭が落ちただけじゃないですか……あっ、緑色のランプが点きましたよ」
次男の頼次が冷静にそう話しました。
松千代「おにぃちゃん、そこをポチっておしてー」
頼武「お、押すぞ……えい!」
券売機「ウィーーン……カシャ!」
券売機から食券が吐き出された。
ーーその瞬間、空っぽだった調理場に不思議な光と共に、打ち立てのお蕎麦と濃い琥珀色の出汁がポワンと出現した。
お艶「まあ! なにもない所から汁と奇妙な麺が湧き出てきましたわ!」
頼重「札(食券)を吐き出すと同時に、食材が現れる仕組みか……南蛮の仕掛け、恐るべし」
みんな驚いています。
松千代「お湯が沸いたよー。えい!」
調理場の踏み台の上にぴょんと乗って、出現した麺をお鍋の湯の中に投げ入れました。
頼次「すごい、湯気と一緒になんとも言えない良い香りが漂って来ました。我が家の白い汁とはまるで違います」
松千代「おはちゅ、どんぶりをだして! ふん!」
ちっちゃな手で湯切り網を握りしめる。
遠藤家一同「……(一斉に固まって見守る)」
松千代「ちゃっ! えっしょっ、ちゃっ!」
鈴「……っ! (姉9歳、あまりの可愛さに悶絶する)」
お艶「あらまあ、なんて可愛らしい……一生懸命お尻をフリフリして……」
頼武「ち、違うぞ母上! 可愛いだけではない! あの短い腕で、見事なスナップをきかせて麺の湯を切っている! 凄いぞ松千代!」
頼重「うむ、武芸に通じる無駄のない動き、3歳児の技とは思えん!」
松千代「できた! おつゆをトトトって入れて……はい、どうじょ!」
頼重「(カウンター席に座り、恐る恐るすする)……ずずっ。……なっ!? 旨い、旨すぎる!! なんだこの口の中に広がるこの深い味わいは、なんなのだ!?」
頼武「父上、ずるいです。拙者も! ……よし、もう六文入れてボタンをポチだ!」
券売機「ウィーーン……カシャ」
頼次「兄上、私もです! ガチャガラ……ポチッと!」
お艶「あら? よく見るとボタンの横にまだ光ってない『かき揚げ』と言う物がありますね」
松千代「お母たん、それはね。みんながいっぱいおそばを食べて、いっぱいポイントが貯まると、新しく出せるようになるメニューなの!」
頼重「なに? 金を払えば払うほど、さらに新しい馳走が現れると言うのか……よし! 明日から遠藤家の食費はすべてこの箱に注ぎ込むぞ!」
こうして、遠藤家の生活は松千代の『お蕎麦』を中心に激変する事になったのでした。




