2話、初めてのお蕎麦とお風呂
ーーカウンターの奥、小さな踏み台の上に乗った松千代。
お初「松千代様、本当に大丈夫ですか? と言うか火も包丁もないのに一体どうするのかしら……」
松千代「このおっきなお鍋にお水を入れて……あっ、お水が出た。それで、この食券の紙をここに置くと……」
ーー水道の蛇口を開いて鍋に水を入れて、食券を調理場の上に置くとコンロに勝手に火がつき、不思議な光と共にザルの上に白い粉が付いた打ち立てのお蕎麦と濃い琥珀色をした出汁が別のお鍋の中に現れた。
お初「え、えぇえーー!? なにもなかったところに灰色の紐が現れて、なにか鍋の方からいい匂いがして来ましたよ!」
松千代「おはちゅ、どんぶりだして! ぼくおててが届かないの」
お初「は、はい。どんぶりをココに用意しました」
松千代「……ふん!」
ぼくはおそばを鍋のお湯の中にいれて、ちっちゃな手で湯切り網をぎゅっと握りしめました。
お初「わっ、すごい、3歳児とは思えない真剣な目つきをされているわ……!」
松千代「ちゃっ! えっしょ、ちゃっ!」
ゆであかった麺を湯切りの網ですくい、ぼくはちっちゃな体をいっぱいに使って一生懸命ゆぎりをしました。
腕を上下に振るたびにお水が小気味よくきれていきます。
お初「! (あまりの可愛さに胸を打たれながら)……か、可愛い! それに凄いわ! 麺の水気が一瞬で飛んでいくわ!」
松千代「できた! かけそば、いっちょあがりー!」
どんぶりに麺を入れてもう一つのお鍋の出汁をオタマで注いで完成です。
お初「これが『かけ蕎麦』なのですか……なんていい匂いのする濃い琥珀色の汁なのでしょう。遠藤家のご飯はいつも薄くて白いのに……」
松千代「おはちゅ、半分こしよ! ずずず……んーー! おいちい!」
お初「それでは、失礼して……ずずっ。……!! お、美味しい! 体に染み渡るような、こんな美味しい物は生まれて初めて食べました!」
久しぶりに食べたおそばはとっても美味しいものでした。
松千代「でしょー! 汁までごっくんしちゃおう!」
お初「はぁ〜〜、美味しくて涙が出て来ました。あっ、券売機の上の画面に『300ポイント獲得』って、出ていますよ?」
松千代「ぽいんと! これで美味しいもの増やせるの! あっ、おそばを食べたら、お風呂に入りたくなっちゃった」
お腹がいっぱになったら体がかゆい事を思い出してしまいました。
お初「ええと、お風呂は左側の『ゆ』の暖簾の奥ですね。あっ、こちらは最初からお湯が沸いているのですね。では失礼して……」
ーーお風呂エリアへ、一畳半の脱衣所を通って、四畳半の風呂場へ。ザブーーン。
お初「うわぁああああ! ……極楽、極楽です。いつも冷たい川とか沼に浸かって体を洗っていたのに、ココは丁度いい熱さで、お肌がツルツルになります……はぁあああ」
松千代「うわぁあ、おはちゅの顔、おリンゴみたいに真っ赤になってりゅ、きもちいいね……(ぷかぷか浮かんで遊んでいます)」
泥んこでチクチクしていた体がみるみる綺麗になって、痒いのも全部とんでいっちゃった。
わぁーーい、お風呂さいこうだじょ!
お初「本当に気持ちいいですね。毎日これに入れたらどんなに幸せな事か……」
頼重「これはいかなる事かぁあーー!! 松千代、お初! どこにおる!!」
その時、そんな声が聞こえて来ました。
お初「ひゃっ! 今、外から聞こえたのはお殿様の声!?」
松千代「あっ、お父たんも、お腹をすかせて、ぼくたちを探しにきたのかな?」
お風呂に浸かりながら、ぼくたちは顔を見合わせそう話すのでした。




