28話、お館様、南蛮のお地蔵さまを拝む。
ーー午後一時、松千代の『お昼寝タイム(絶対閉店)』が始まり、テイクアウト用の小窓が閉まった『湯そば庵』の外。
信玄「(お腹がいっぱいになり満ち足りた顔をして、小窓の脇の外の券売機の前に立ち)ふむ、頼重よ。先ほどから気になっておったのだが、この四角くて大きなピカピカ光る鉄の箱は、一体なんと言う神仏じゃ?」
頼重「お館様、それは『けんばいき』と言う箱にございます。神の言葉で『かけ蕎麦』などと書かれており、銭を吸い込む不思議な仕掛けになっております」
信玄「ほう……銭を吸い込み、代わりに美味い馳走の切符を吐き出すとな。作左衛門、これはまさに現世に現れた『南蛮の地蔵尊(お地蔵さま)』ではないか?」
作左衛門「地蔵尊でございますか!? いや確かに、我らも入店する時に必ず一礼しておりますが……」
信玄「うむ、間違いない。現世の地蔵尊もお賽銭を喜ぶが、このピカピカのお地蔵さまは、お賽銭を入れると直ぐに願い(蕎麦)を叶えてくださる。実に話の分かるありがたいお方じゃ。どれ儂も旅の安全と病気の治癒を祈願して、お賽銭を供えてみよう」
ーー信玄公、懐からピカピカの銭(七文)を取り出し、大真面目な顔で投入口へ銭を滑り込ませた。
券売機「ガチャガラッ! ……ゴト、チャリン」
信玄「おぉお! 地蔵尊が儂の供物を喰らい、腹の中でガチャガラと喜びの声を上げているぞ!」
隠密「お館様、恐れながら……ボタンを押さねば切符は出てまいりませぬ。あの緑に光っている所をポチッと押すのです」
信玄「なに? 地蔵尊のお体に直接触れると言うのか!? 恐れ多い事ではあるが……えいっ! (恐る恐るボタンを押し込む)」
券売機「ウィーン……カシャ。ピピッ♪」
信玄「ひゃあああ!? 箱の隙間から白い札(食券)が吐き出されたぞ! 更に『ピピッ♪』っと、なんとも優しく美しい神の鈴の音が響いたぞ!」
頼重「(横から覗き込んで)おお、お館様、それは『たぬき蕎麦』の切符にございます。今夜の夕食の分を見事に地蔵尊から授かりましたな!」
信玄「おぉお……ありがたや、ありがたや……(吐き出された食券を両手で恭しく受け取り、額にかざして拝む)」
お初「(調理場の奥でお昼寝中の松千代に毛布をかけながら、小声で窓から顔を出して)お館様、皆さま……松千代様がすうすうとお昼寝なさっていますから、あまり大きな声を上げないでくださいね」
信玄「(ハッと口を押さえて、ヒソヒソ声で)お、おう、すまぬお初。神童の眠りを妨げては地蔵尊のお湯も止まってしまうからな。みなの者、しぃー、じゃ」
ーーその後の午後二時。
松千代がお昼寝している間、信玄公はテラス席の長椅子に正座して小窓の脇に見える券売機に向かい「……南無……南蛮地蔵尊……南無……」と静かに手を合わせ続けていた。
それを見た村のおじさん達も「お館様があんなに拝んでいるべ、オラたちも拝むべ!」と後に続き、庵の前にはお昼寝中の3歳児と券売機を静かに拝み倒す、戦国時代最強の武将と農民たちのなんともシュールでありがたい光景が、穏やかな午後の日差しの中で広がっていくのでした。




