29話、お館様ともちもち誘惑。
ーー午後三時十五分、お昼寝から復活した松千代が小窓を開けた直後のテラス席。
鈴「もぐもぐ……ふにゃぁあ、やっぱり松千代のみたらし団子は最高だね、お母様」
お艶「ええ、このつやつやの琥珀色のタレ、何度食べても飽きませんわ。お初、お口の横にタレが付いていますよ?」
お初「あむっ! あっ、失礼しましたお方様。でもこの甘じょっぱいお団子をいただくのは、本当にやめられません」
信玄「(長椅子にどっしり座り、女子組がキャッキャと笑顔で頬張る様子をじぃーっと凝視しながら)……ぬぬぬ、お艶、鈴、お初よ。お主たちが美味そうに突っついておる、その表面がツヤツヤと輝く奇妙な串物は一体なんじゃ? 黒砂糖の甘き匂いと醤油の香ばしい匂いが、この儂の鼻腔を激しくくすぐるのだが……」
鈴「これね、お館様、松千代が出してくれた『みたらしだんご」っていうの! 一皿たったの三文だよ!」
信玄「だ、団子とな? 儂の知る団子など、米の粉を丸めて蒸しただけの固くてボソボソとした味気ないものぞ。そんなに美味いわけが……」
松千代「おじさん、まつちよからの、ひとくち、どうぞなのぉ! ……(小さな手で一串お団子の串を差し出す)」
信玄「おお、松千代。儂にこれを分けてくれるか。ふむ、三文とはあの『南蛮地蔵尊(券売機)』もお手頃な値を付けたものじゃな。どれ味見を……(大きな口をガバッと開けてお団子を一玉パクリ)」
遠藤家一同「……(ごくりと唾を呑み込んで見守る)」
信玄「…………っ!!?!? (一瞬で巨体がガタガタと震え出す)」
頼重「お、お館様! またしてもお腹に障りましたか!?」
信玄「(両目から大粒の涙をハラハラと流し、テラス席のテーブルにドンと突っ伏しながら)う、うぅう……美味い……美味すぎるぞぉおおお!! なんだこの柔らかさは! つきたての餅より滑らかでもちもちしておる! そしてこの、とろとろとした甘じょっぱいタレが口の中で団子と絡み合って……!!」
お初「ふふ、お館様、とても幸せそうなお顔をされていますよ」
信玄「(涙を拭いながら)お初よ、笑うな。儂は今、猛烈に感動しておるのだ! 戦国大名たるもの贅沢な菓子など今までいくらでも食べてきたが。これほど優しく、脳を揺さぶられる甘味など知らん! 織田信長や京の公家どもとて、絶対にこんな美味い物など食うておらんわ!」
松千代「おじさん、お口のよこちょに、茶色いタレがいっぱいついているよぉー」
信玄「おお、これは無調法をいたした! ……ぺろり、うむ、タレの一滴すら残すのが惜しいわ。頼重! 儂の財布から急ぎ三文をあの地蔵尊へぶち込め! 儂は今宵、この団子をもう三串、いや五串は胃袋に収めるぞ!」
頼重「は、ははっ! ただちに『ガチャガラ』してまいります!」
松千代「あはは、おじさん、お団子だーいすきになったね。いっぱい食べてねぇ!」
お蕎麦に続き、現代のみたらし団子のもちもちの食感と究極のタレの前に、戦国最強の巨頭・武田信玄公は再び大号泣。
遠藤領のテラス席で女子組と一緒にすっかり甘味の虜になってしまったのでした。




