24話、お館様、お座敷風呂とぷるぷるの奇跡。
ーー午後二時五十分、時計の針がまもなく三時を指す。
信玄「ぐぅ〜……(お腹の虫の音)。おのれ頼重、あとどれほど待てば良いのだ。儂の五臓六腑はとうに限界、もうお腹と背中がくっつきそうだ……」
頼重「お、お館様、あと十分の辛抱にございます……あっ!」
ーーガラガラガラッ。湯そば庵の引き戸が開き、目をゴシゴシ擦りながら松千代が顔を出す。
松千代「ふわぁ……よくねたぁ。おはちゅ、お外におっきくて強そうなおじさんがいるよぉ?」
隠密「松千代様! コチラの方こそ甲斐の国守・武田信玄公にございます!」
信玄「うむ、儂が信玄だ。小童、待たせおって。さあ儂の病を癒す神の蕎麦を早く食わせい!」
松千代「(信玄の顔をじぃーっと見詰めて)……おじさん、お顔がまっしろでお腹痛痛なの? おめめも、すごーく疲れてるよぉ?」
信玄「ぬっ……? わかるか。そうなのだ、病のせいで胸が焼けて飯が一切喉を通らんのだ」
松千代「う〜ん、それならね、いまはちゅるちゅる(蕎麦)はダメだよぉ! 消化にわるくて、お腹がもっとビックリしちゃうの。おじさんはまずお風呂に入って、そのあと甘いおやつをあむ、するの!」
信玄「な、なに? 儂に蕎麦を食わせぬと……」
頼重「お館様! 松千代の『知恵』に従うべきでございます! さあ、まずは奥の湯殿へ!」
ーーお風呂エリア、四畳半のお座敷風呂。
信玄「な、なんじゃこれはぁああああ! 風呂なのに床一面に青々とした畳が敷き詰められておる! 踏んでも足の裏が冷たくない! 煙たくもないのに、なみなみと極上の湯が湧いておるぞ!」
お初「お館様、これは水に濡れても平気な魔法の畳でございます。どうぞお浸かりください!」
ーーザブーーーーーン!! っと、信玄の巨体が湯船に沈む。
信玄「……はふぅ〜〜〜〜〜!! おお、おおおっ! 凝り固まった体の節々が、お湯の温かさで柔らかく解けていうようじゃ……。冷え切った内臓がじんわり温まっていく……!」
松千代「おじさん、コレあげるねぇ。ぷかぷか〜〜(黄色いアヒルちゃんを信玄の前に3個浮かべる)」
信玄「むっ? なんじゃこの黄色い小鳥は。……きゅ、きゅ〜〜♪(うっかりお腹を握って鳴かせてしまう)」
隠密「(心の声:お、お館様が黄色いアヒルを鳴かせて微笑んでおられる……! なという至高の癒し空間!!)」
ーー1時間後、お風呂から上がってサッパリした信玄がテラス席へ。
信玄「ふぅ、生き返るようじゃ、しかし風呂の力だけでは一回では治らんな。しばらくこの遠藤領に滞在して、毎日このお座敷風呂で湯治をせねば……。あっ、やはり少し腹が空いた。だが固い物は食えんぞ」
松千代「おじさん、おまたせぇ! メニューにはのってない、特別なごほうびだよぉ! ぽちっとなー!」
液晶パネル【300PT消費:現代の栄養満点・贅沢カスタードプリンを取り寄せました】
ーーほわんと光が走り、信玄の目の前のテーブルに、ぷるぷる震える黄色い『プリン』が出現する。
信玄「なんだこの黄金に輝く、ぷるぷるとした塊は……上の茶色い汁はなんだ?」
松千代「これはねぇ、プリンだよぉ! このちっちゃいスプーンで、あむってしてねぇ」
信玄「お、おう……(恐る恐るひとすくいして、パクリ)…………っ!!?!(一瞬で目を見開く)」
頼重「お館様!? いかがなされました!」
信玄「(スプーンをガタガタ震わせ、涙をハラハラと流しながら)う、美味い! 噛まなくても口の中でとろぉーりと溶けて消えていく……! 卵と乳の濃厚な甘み、そしてこのほろ苦い茶色い汁が、弱った儂の胃袋に一切負担かけず優しく染み渡っていく……! 儂は今、生まれて初めて本当の『馳走』を口にしたぞ!」
松千代「うふふ、おじさん、涙ポロポロして可愛いね! 毎日お風呂に入って、このぷるぷる(プリン)を食べたら、お腹の痛痛もちょっとずつ治るからねー!」
信玄「うむ……うむ……っ! 松千代、お主はまさに天が儂に遣わせてくれた救い主じゃ! よし、儂はこの遠藤領でじっくり湯治に励む! そして体を全盛期以上に治し、必ずや天下を統一してみせるぞ!」
お座敷風呂の癒しと、3歳児の松千代が差し出した一個の甘いプリンの前に、戦国最強の巨頭・武田信玄は完全にメロメロになってしまったみたい。
遠藤領での湯治生活はどうなってしまうのでしょうか。




