17話、ちっちゃなお芋と、みんなの2ヶ月。
ーー三月のある昼下がり、お蕎麦屋さんのカウンター席。
頼重「うぬぬ……。松千代、最近、蕎麦も共同風呂も大繁盛だが、作兵衛(村人)たちの懐がそろそろ心配じゃ。元が貧乏な村ゆえ、そう何度も銭を払って蕎麦を食う余裕はないはず……」
作左衛門「左様でござる。このままでは皆、銭が尽きて、また元のひもじい暮らしに戻ってしまいます。なにかこの村を豊かにする『知恵』はございませんか?」
松千代「うんとねぇ……ええと……あっ、それなら、この光るパネルで『たねいも』を、ぽちっとするのぉお!」
頼次「種芋……? 里芋や自然薯の類の物ですか?」
松千代「うぅん、ちがうよぉ! 春に植えるとね、五月とか六月ごろに、すごくたくさんとれる。『じゃがいも』って言うお芋だよぉー!」
液晶パネル:【15,000PT消費:現代の寒さ・病気に強い『ジガイモの種芋(大量)』を取り寄せました】
ピピっ♪ と音がして、厨房の横にゴロゴロとした見た事もない形をしたジャガイモの種芋が詰まった麻袋が何個もほわんと出現する。
頼武「おお! コレが神の芋か! よし、さっそく今夜茹でて……」
松千代「ダメぇーー! よりたけにぃい、これはね、すぐには食べられないの。畑にうめて、お水をあげて、ふた月かみ月くらい、まいにち優しくお世話をするのー」
頼重「なに? 直ぐに実る妖術の類の物ではないのか……なるほど、普通の作物と同じようにお天道様の下で育てるのだな。よし、作兵衛たちを呼べ! 春の間にこの芋を村の畑に植えるぞ!」
ーーそれから数日、遠藤領の畑、まだ肌寒い春風が吹く中。
頼重「ふんっ! おのれ、この『じゃがいも』とやらを植えるためじゃ、鍬を握る手にも力が入るわ!」
作兵衛「殿みずから泥にまみれて耕してくださるとは、オラたちも負けていられねぇべ!」
松千代「お父たーん! さくべえじいじ! がんばれー! がんばれーなのぉ!」
お初「松千代様、あまり前に出ると危ないですよ。あっ、そこのカゴから種芋を運ぶのですか?」
松千代「うん! まつちよもお手伝いするのぉ! えっしょ、えっしょ……(ちっちゃな両手で種芋をひとつ大事そうに抱え、よちよち歩きで畑へ運ぶ)」
頼武「ははは、見ろ、松千代が泥だらけになりながら芋を運んでいるぞ! 3歳のお子があんなに頑張っているのだ、俺たちがへばってどうする!」
茂吉「応だべ! 松千代様、ツルツルのお蕎麦のためだべ、オラたちか立派なお芋に育ててみせますだ!」
松千代「おいもさん、おっきくなぁれ、なのぉお。お水も、じょじょー(じょうろ)でばしゃばしゃ、するねーー」
ーー松千代の可愛い応援に励まされながら、村人たちは毎日タダのお風呂で一日の疲れを癒し、自分たちの手で一生懸命お芋を育て続けた。
そして、ちょうど周囲の領地が「去年の米が尽きて一番ひもじい」と言われる、初夏の六月。
作兵衛「(大興奮で庵に駆け込んで来て)と、殿ーーーー! 松千代様ーーーー! 大変だべ! 土を掘り返したら、とんでもねぇことになっているべぇーー!!」
頼重「落ち着け! もしかして芋が腐ったのか!?」
茂吉「(巨大なカゴに、ゴロゴロと大きなジャガイモを山盛りにして担ぎ込み)逆だべ! オラの手のひらよりおっきな芋が、数えきれないほどドバドバ出て来たべぇーー!!」
遠藤家一同「「な、なんじゃこの量はーーーー!?」」
頼次「計算が合いません! この五月六月の時期に、同じに広さの畑から、麦の何倍……いや十倍近くの量の食べ物が収穫できるなんて……!?」
松千代「えへへ、すごいでしょぉ。じゃがいもはねぇ、お塩をつけて茹でると、ほくほくでおいしいのぉ。まつちよがおおきくなぁれって応援したから、おっきくなったんだよぉお」
お艶「まぁ、本当に松千代のおかげね。鈴、お初、さっそく蒸してお塩の準備をしましょう」
その日の夕方、村人たちは自分で収穫した「新じゃが」を抱えて、笑顔でお蕎麦屋さんの小窓に並んだ。
一番お腹が空く初夏の季節に大量の芋が獲れた事で、村の食糧危機は完全に消え去り、あまった芋を隣の領地に売る事で、村人たちの懐には初めて「自分たちの銭」がしっかり残るようになった。
作兵衛「(ホクホクのジャガイモを頬張りながら、六文を券売機に入れる)松千代様! 自分で稼いだ銭で食べるお蕎麦は、日ノ本一、うめぇべ!」
松千代「あはは、いっぱいたべて、おっきくなってね!」
チートに頼りきるのではなく、みんなで汗を流して豊かな土壌を作り上げた遠藤領は、初夏の飢えを知らない「最強の豊かな村」へと生まれ変わったのでした。




