15話、秘密の蛇口。
ーー『湯そば庵』の脱衣所の前。
作左衛門「殿、これはいよいよ由々しき事態でござる。蕎麦はテイクアウトの小窓で解決いたしましたが、風呂は四畳半しかありませぬ!」
権三「夕飯時になると、1日の農作業を終えた村人たちが『オラも湯に入りたいべ!』と脱衣所にすし詰め上達になって芋洗もいいところでござる!」
頼重「うぬぬ……松千代が授けてくれた極楽の湯、領民全員に入らせてやりたいが、流石にこれ以上は中に入りきれんな……」
作兵衛「(外からおずおずと顔を出して)あの、殿……もしよろしければ、オラたち村の若い衆と大工を集めて、この庵の斜め後ろに、もっと大きな風呂を作ってもよろしいべか?」
頼武「なに? 自分たちで風呂を作ると言うのか!?」
茂吉「はいだべ! 小屋の木材や石なら、山からいくらでも切り出してきますだ!」
松千代「わぁー、すごーーい! そのお風呂には男湯と女湯、それに脱衣室も男女別であるのぉーー?」
作兵衛・茂吉「「えっ、男女別々ですか……?」」
頼重「おお……! それは良い! 領民全員が男も女も安心して湯につかり疲れを癒す。そのためだ、儂も頼武も泥にまみれて手伝おうではないか!」
村人一同「「おぉおおおおおお!!」」
ーーそれから3日後、庵の斜め後ろ。
頼重や兄たち、家臣の権三、それに村の男たちが全員で汗を流し、大工の指図のもとで見事な木造の特大湯小屋が完成した。
お艶「まぁ、本当に立派な建物が出来ましたわね。私たち女子も脱衣室に綺麗な手ぬぐいや筵を敷いておきましたよ」
鈴「鈴とお初ちゃんで、こっちが男湯、こっちが女湯って、のれんもかけたの!」
頼武「やったぞ! コレで男も女も気兼ねなく大きな浴槽で汗を流せるぞ!」
頼次「ですが兄上、最大の問題があります。建物はできましたが……肝心のお湯はどこで沸かすのですか? これだけの広さの男湯と女湯となると、薪で沸かすには毎日膨大な人手が要ります」
松千代「にぃに、だいじょうぶだよぉ!
まつちよがね、ぽちっとな、するのぉー!」
ーー松千代、お蕎麦屋さんの液晶パネルをトントンと操作する。
液晶パネル:【8,000PT消費:庵の外壁に『男女別自動給湯用・特大蛇口(2口)』を増設しました】
ーーピピッ♪ と音がして、庵の外側の木の壁に、ピカピカに光る金属製の大きな蛇口が2つ、ポコポコっと出現する。
お初「わぁあああ! 松千代様! 庵の外壁に見た事もない、銀色のキセル(蛇口)が2つも生えました!」
松千代「これをね。ぐいっ、ぐいっ、てまわすとね……えい!」
ーー松千代がちっちゃな手で2つの蛇口をひねると、ゴボゴボゴボッ!! っと、もの凄い勢いで湯気を立てた熱々のお湯が左右の蛇口から噴き出した。
権三「な、なんじゃこれはぁあああ! 薪も火もないの、壁のキセルからなみなみとお湯が溢れ出ていてくるぞ!?」
頼次「なるほど、右の蛇口を男湯へ、左の蛇口を女湯へ、僕たちが作った竹の筒で繋げば……!」
ーー頼次たちが急いで割った竹を繋ぎ、蛇口から出る湯を共同風呂の男湯・女湯へと誘導する。
数分後、村の人たちが力を合わせて作った大きなお風呂の双方に、適温のお湯がなみなみと溜まった。
頼重「よし! これぞ遠藤領の全員で作り上げた『共同風呂』じゃ! 者共、1日の疲れを癒すが良い。入れぇええええ!」
ーーザブーーーーン!! っと、男湯に数十人の村の男衆と父親、家臣たちが一斉に飛び込む。
茂吉「うはぁ〜〜〜〜、極楽だべ、自分たちで作った風呂に松千代様が神のお湯をひいてくださるなんて、夢のようだべ」
作左衛門「(お湯に浸かりながら大号泣して)殿……領主と領民がこうして一つの湯に浸かり笑い合っている……遠藤領は日ノ本一、幸せな領地でごさいまするな!」
ーー壁を隔てた女湯からも、賑やかな声が聞こえくる。
鈴「きゃはは、お風呂がおっきくて池みたい! 泳げちゃうよお母様!」
お艶「これこれ鈴、お湯をパチャパチャしてはいけません。でも本当に広いお風呂で手足を伸ばせるなんて、贅沢の極みですわね。ねぇお初」
お初「はい、お方様。脱衣室も別々ですから服の脱ぎ着もとっても気楽で、本当に最高です!」
松千代「(男湯で頼重の膝の上にだっこされながら)わぁああ! お父たんも、みんなも、お肌ピカピカだねー!」
テイクアウトの小窓で蕎麦を食い、みんなで作った男女別の大きな風呂で汗を流す。
松千代のひみつの蛇口のおかげで、遠藤領の絆は誰にも引き裂かれないほど固く結ばれるのでした。




