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長瀬結衣はポンコツお嬢様である。○か×か。  作者: 仙道エイジ


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第0話 後編

登場人物

長瀬結衣/家出お嬢様

蓮実凛/売れない作曲家

 東京、恐るべし。


 バスを降りるとそこは屋外ではなく、屋内でした。


 なんと建物の中に、バスターミナルがあったのです。


 さすがこの国の首都、想像の斜め上をお行きなさる……!


 しかも週末ということもあってか、とにかく人、人、人。


 人が多すぎます!


 動揺と寝不足で混乱した私は早速、大失態を犯しました。


 なんと、乗る電車を思い切り間違えてしまい、


 しかも寝過ごして、神奈川県まで行ってしまい……。


 慌てて新宿に帰ったあとも、


 駅の地下迷宮に迷い込み、


 満員電車でもみくちゃにされ、


 目的の路線に乗る頃には、既に正午を過ぎていました。


 完全に計画破綻です。


 これはもう、お昼ご飯を食べる時間もなさそうです……。


 うう、お腹が空きました……。


 涙目でリュックをあさると、手に掴んだのは――


 お母様からいただいた、きびだんご。


 まさに、天の恵みです……!


 パッケージに描かれた鬼さんに『いただきます』をお伝えし、


 パクッ――


 ああ、なんて美味しい……。


 おだんごを噛み締めるたび、


 香ばしさと優しい甘みが全身に染み渡り、少し元気が出ました。


 さすがきびだんご、鬼をも倒す家来を仲間にできるわけです。


 お母様、本当にありがとうござい……


 そうでした、お母様にご連絡しましょう!


 私は再びスマホを手にし、メッセージを送信しました。


『お母様、東京着きました!』


 するとすぐに既読がつき、サムアップのスタンプが送られてきました。


 もしかして、


 連絡が来るのを待っててくださったのでしょうか。


 ジーン……


 きびだんごも含め、お母様の温かさに勇気が湧いてきました。


 目的の駅を降りた後も、地図アプリを見ながら彷徨うこと一時間。


 命からがら、それでも、


 ライブハウスに辿り着けました……。


 もうとっくにイベント開始時間は過ぎています。


 それどころか……。


「あ……」


 地下にあるライブハウスから、 


 お客さんらしき人たちがぞろぞろと出てくるではありませんか。


 まさか、もうイベントは終わってしまった……? 



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 

 なんてことでしょう。


 電車を間違えたり道に迷ったりと、


 タイムロスばかりしていたせいで、ライブイベントに間に合わず。


 入り口で呆然と立ち尽くす私を、


 出ていくお客さん達が避けていきます。


 蓮実さんが来ていたとしても、


 もうお帰りになってしまったかも……。


 私はいったい何しに、ここまで……。


 ……。


 いや。


 まだわかりません。


 自分の目で、確かめるまでは。


 一縷いちるの望みに賭け、私はライブハウスに入りました。


 煙たげな空気。


 ドラムやギターが置かれたステージ。


 ライブハウスなんて初めてです。


 なんというか、ロックな雰囲気です。


 しかし、今日はその雰囲気を味わいに来たわけではありません。


 蓮実さんを探し出さないと。


 顔を見られないようパーカーのフードを被り、


 壁に背中をつけ、目立たないようにして。


 まだ残って談笑している方々を一人一人、


 確認していきました。


 蓮実さんは……。



 ……


 ……


 ……



 ……


 ……


 ……



 ……


 ……


 ……



 ……


 ……


 ……



 ……


 ……


 ……



 ……


 ……


 ……





 いません……。




 ……。





 ご縁がなかった、ということですね。


 仕方がありません、


 もともと、一か八かの賭けでしたから。

 

 ここまでの道のり、想像以上の大冒険でした。


 夜行バスで東京に来るのも、


 新宿からこのライブハウスまで来るのも。


 ええ、それだけでもいい経験ができたとしましょう。


 蓮実さんに会えなかったのは残念ですし、


 帰ったらお父様にお叱りを受けるでしょう。


 もう二度と、お屋敷から出られないかもしれませんね。


 そうなる前に、


 せめて東京観光でもして、それから――




「あれ、蓮実さんどうしたの?」




 ……え?




 残ったお客さんの声に、思わず立ち止まりました。




「すいません、傘忘れちゃって」





 少しだけ角度を変えて、声の方向をそっと盗み見ると……。


 一瞬、息が止まりました。


 ホームページで載っていた写真のとおり、黒髪、少し眠たげな目。


 すらっと立つそのお姿。


 蓮実、凛さん……。


 うわ、うわわわ……!


 どうしましょう、奇跡です。


 蓮実さんが忘れ物を取りに、ライブハウスに戻ってきたのです……!


 声をかけたお客さんと軽く談笑したのち、


 傘立てから黒い傘をひとつ取って、


 蓮実さんはライブハウスを後にしました。


 私も我に帰り、すぐさま外へ出ます。


 そして始まるのです、最大最後のミッションが。


 そう、蓮実さんの家まで、


 あとをつけるのです。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



 気配を悟られないよう、一定間隔の距離を保ちながら歩く。


 簡単なようで難しいです。


 曲がり角などで蓮実さんが顔の向きを変えるたびに、


 ささっと物陰に隠れました。


 内心、緊張で心臓バクバクです。


 そうこうしているうちに駅につき、改札をくぐると蓮実さんは、


 池袋ではなく反対方面の乗り場に向かいました。


 ここでもなるべく距離をとりつつ、


 しかしお姿は見失わないよう電車を待ちました。


 やってきた準急電車に乗り込んだ蓮実さん。


 ひとつ隣の車両に乗り、ドアの近くに立って、


 蓮実さんのいらっしゃる車両をガラス越しにロックオン。


 その姿勢のまま微動だにせず乗っていると、五駅目で電車を降りられました。


 都心の喧騒から離れた住宅街。


 ここが、蓮実さんが暮らす街なのでしょうか?


 改札を出ると、蓮実さんは東口へ向かいます。


 階段を降り、ロータリーの周りをぐるっと進み、


 まっすぐ伸びる道を歩き出す蓮実さん。


 ここで私は、リュックから「秘密のアイテム」を取り出しました。


 それは――目出し帽です。


 これを被れば顔を晒すことなく歩け、尾行にはぴったりです!


 あと……



『顔に気持ち悪い傷あるけど』



 成金さんの言葉を聞いて以来、


 傷へのコンプレックスが再燃してしまいました。


 家族以外の誰かと対面すると思うと、


 この傷を見られるのが怖いのです。


 気持ち悪いと思われたらどうしよう、と。


 傷だけじゃない、この髪の色も。


 だったら目出し帽で全て覆ってしまいたい。


 変かもしれないけど、でもこんなことしか思い浮かばないくらい、


 怖いのです……。


 ということで目出し帽を手に、


 よし、じゃあ被るぞ!と内心意気込んでいると、


 道の反対側にある交番のお巡りさんが、こちらを怪しげに見ています。


 あ、ここではまだやめておきましょう……。


 そのまま、蓮実さんを見失わないよう慎重にあとをつけ、


 20分くらい歩いたでしょうか。


 二階建てのアパートに到着し、


 蓮実さんは一階の、端から二つ目のお部屋に入りました。


 やりました、ミッション・コンプリートです……!


 ……。


 いや、ここからです。


 ここからが本当の本番です。


 私は、蓮実さんに婚約を申し込みに来たのです。


 リュックから婚姻届を取り出し、目出し帽をすっぽりと被りました。


 ふう……。


 高鳴る鼓動を抑えるよう、深く深呼吸をして。


 蓮実さんの部屋へ、一歩一歩近づきます。


 そしてドアの横にある、


 呼び出しのチャイムに、指を近づけ……。



 プルプルプル……!



 ハア、ハア、ハア……!



 ダメです、まだ、心の準備が……!


 あともう少しで押せそうなのに、チャイムが押せません……!


 やっぱり私、臆病者……。


 ……。


 違います、私はあの時、


 確かにエモスマイルだった。


 傷を負う前、何も怖がらず、みんなのために走り回っていた時。


 その心は確かに、主人公だったのです。


 そう、私の人生というドラマの主人公は、


 私自身です。


 だから、運命のページは自分の手で捲るのです。


 震える指先。


 もし断られたら?


 もし、気持ち悪いと思われたら?


 もし、迷惑だと言われたら?


 最後まで、弱気な心が攻めてきます。


 ——でも。


 あの歌に救われたことは、嘘じゃない。



 いけ!



 長瀬結衣!




 ピンポーン——




 扉の向こうから足音が近づいてきます。


 なんだか、怒っていらっしゃるような荒い足音が……。


 逃げるなら今です。


 でも。

 

 私はここまで来たのです。




 ガチャ……




 ゆっくりと開いたドア。


 蓮実さんと目が合うと同時に婚姻届を突き出し、


 用意していた言葉を言い放ちました。







「結婚してください」


お読みいただきありがとうございます!


次回もどうぞよろしくお願いします♪


(毎日20時更新・完結保証・ハッピーエンド保証)

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これは通報もんですな! やっちまいましたな!
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