第15.5話「失格」
登場人物
九条/長瀬征一の秘書
ルームミラー越しに見える、肩を寄せ合って眠るお二人。
学校へ送迎をさせていただいていた頃の、 後部座席の結衣様をふと思い出す。
『お車を出してください、九条さん』
そう言って、いつも寂しそうに窓の外を眺めていらした。
あの頃に比べれば今は本当に、お幸せそうだ。
願わくば、私が……。
いや。
私にその資格はない。
成金拓也のような愚物から、結衣様をお守りすることができなかった。
完全にミスだ。
征一様のお知り合いというだけで、綿密な素性調査を怠った。
そのような自分に、結衣様のお側にいる資格などない。
ましてや、お幸せにするなど。
今だって、結衣様がお疲れなのに無駄に遠回りをして。
喜ばせたい。そう思う一方で、この時間を少しでも長く……。
そんな気持ちが微かにでも、この胸にあったかと問われれば――
秘書、失格だ。
……。
征一様のジャケットを凛様がお召しになった時、一瞬、言葉を失った。
若かりし頃の征一様に、佇まいがよく似ていらしたからだ。
その凛様なら、征一様を破った方なら、
結衣様をお任せできる。
輝くような結衣様の笑顔を引き出してくださる方なら。
もとより私は征一様に拾われ、
ただひたすら、征一様の命を遂行してきただけの身。
それ以上でも、以下でもないのだ。
さあ、お二人とも。着きましたよ。
私はただ、立ち去るのみ――
「綺麗な景色を見せてくださって、ありがとうございました」
え……?
「九条さんがいてくれたから、私はここまで来られました」
ああ……。
もう、十分だ。
ほんのわずか、結衣様のお姿が滲む。
「九条さんありがとう、ありがとう……!」
もう十分です。
もう私は、十分報われました。
身に余る幸せです。
だってそうでしょう、その美しいお顔をくしゃくしゃにして、
結衣様が私のために、泣いてくださっているのですから。
それならばもう、迷うことはない。
「お二人とも、今日は長々とお疲れ様でした。ゆっくりおやすみください」
私は長瀬征一様の忠実な秘書。
この先もずっと、それで構いません。
結衣様のお言葉と涙だけで、もう一生分の宝物をいただきましたから。
凛様、あとはよろしくお願いします。
……ただ。
もし、結衣様を泣かせるようなことがあれば――
その時は、
私がお迎えに上がります。
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