カラーコーン男
作業員勇者リュウとお付きの仲間であるカラーコーン戦士の俺はコソコソと小鬼達がたむろする俗に帆馬車と呼ばれる物の元へと向かーー。
「ちょっ!リュウ!なんで立ってんの?つか、なんでそんなに堂々としてんの!?」
小声で怒鳴ると言う妙技を憶えた瞬間だ。
「は?なんで俺がコソコソせなアカンねん」
コイツはダメだ。
俺は背を屈めて極力見つからないように動いてるにも関わらず、リュウは堂々としている。
バカにも程がある。
……離れて行動しよう。
それから、リュウは堂々と正面から小鬼の方へと向かい、俺は迂回するように行動する。
小鬼達がリュウに気が付き、「ギャッギャッ」と奇声を発しながら駆け寄って行く。
その間に俺は壊れた馬車を漁る…漁…る?
「あっ、どうも…」
咄嗟の事で謎の挨拶を交わしてしまった。
「ど、どうも?」
挨拶が返ってきたのには予想外だったが、取り敢えず、俺はそそくさと馬車から少し距離を取ってリュウの方へと視線を向ける。
リュウは、小鬼の攻撃を看板で受け、ユニコーン付き鉄パイプで反撃すると言った、激しそうで激しくなさそうな、どうでも良い攻防を繰り広げている。
俺は、俺は……。
チラッと壊れた馬車へと視線を向ける。
馬車は後輪の片方が壊れ、帆を支える棒が壊れたのか崩れ落ちている中に、人影が見え隠れしている。
空を見上げれば、青い空の下で日本の鳥なんかよりもずっと大きい鳥が飛んでいる。
吹き抜ける風は気持ちよく、そよそよと俺の肌を撫でて髪を揺らす。
もう一度視線を馬車へと向ける。
馬車の中の人がモゾモゾと動いて、そして動きを止めた。
うん。これはアレだ。
さっき見た人は荷物が襲ってきて動けなくなってしまったパターンのやつだ。
だとしたら、俺らってーー。
「怪しい人になるんじゃね?」
左手にカラーコーン突っ込んで、右手にコーンバーを持ってる変人と、看板と鉄パイプで戦うバカ。
「どうしろって言うんよ…」
取り敢えず、もう一度壊れた馬車の元へと向かい、先程出会った人とのコンタクトを試みる。
「……僕達、怪しい者じゃありませんよ?」
そう言いながら帆を捲ると一人の少年が姿が…のしかかる木箱によって動けなくなっていた。
「あ、あの…助けてくれませんか?」
引き攣った笑みを浮かべられた。
そらそうだ。この姿は日本人が見ても変だと言うだろう。
「あ、はい。木箱を退かせますね」
「ありがとうございます……ところで、緑小僧達はどうなりましたか?」
「えっ…」
緑小僧と言われ一瞬誰か分からず、助けを求めるような視線をリュウに向けてしまう。
癖になってるのかな?
だけど、リュウの方を見て分かった。
緑小僧とは明らかにリュウと絶賛戦闘中の小鬼を指している。
よく見ると、鉄パイプの先端に付いてた筈のユニコーンちゃんが消えてる。
可愛らしい鉄パイプが今やただの凶器と化してしまっている。
俺は木箱を一つづつ退けながら緑小僧の現在を話す。
「えーっと、緑小僧?は、僕の友人が注意を引いてますよ」
一匹も倒せてないけど、いいよね。
なぜか鉄パイプの出番はなく、無駄に振り回してるだけ。そして、盾の筈である看板で体当たりして戦ってる。
俺は少年の上に乗っかっている木箱を退けながら、もしもの事があったら大変だしチラチラとリュウと緑小僧の方に注意を置いておく。
ちなみに、もしもって言うのは、緑小僧がコッチに来る事だ。
少年の上に載っている木箱の最後の一個を退け、立ち上がるを手伝ってあげる。
「あ、ありがとうございます…」
礼は言われたけど、やっぱり変な人を見るような目だ。
自分でも良く分かってるよ。変な格好してるなぁ〜って…。
「と、取り敢えず、逃げよ。あっちに俺らが乗ってきた乗り物あるからさ」
車のある方へと指を指す。
ここからでも普通に見えてるけど、あんなにもボロボロだっけ?
なんか、青い液体がベットリと着いてるんだけど…。
「は、はい。でも…」
少年は俺の提案に頷き、そして名残惜しそうに馬車を…いや、荷物を見てるのか。
「良かったら、俺らが乗って来た乗り物に荷物積む?」
「良いのですか?」
「ええよ。ちょっとゴチャゴチャしてるけど」
「お、お願いします!」
「っ!?シッ、シーーッ」
突然大声を上げたからビックリしたよ。
一応、緑小僧の方へと視線を向けたけど、俺らには気付いていないようだ。
強いて言うなら、ずっとリュウと戦ってる。いや、この場合は戯れてると言った方が良いか。
緑小僧達は唯一の武器である木の棒をどこかに落としたのか、ひたすらリュウの看板を素手で殴ってる。
リュウは、なぜか鉄パイプを捨てており、ユニコーンの人形をいつの間にか拾って振り回している。バカだ…。
「と、取り敢えずコッソリ行こ」
「あっ、はい」
少年を連れて、緑小僧に見つからないように迂回しながら車の元へとーー。
「グギャッ!ギャッギャ!!」
なんだか嫌な視線を感じたので、チラッと横目で見てみる。
緑小僧と目が合った気がした。が、
「……俺は何も見てない。何も見てないで」
うん。俺は何も見なかった。
少し歩く速度が速くなったのは、ただ無性にションベンに行きたくなっただけだ。
そそくさと移動してると、背後から緑小僧の声が聴こえてくる。
無視しよう。リュウがなんとかしてくれると信じて、無視する。
「ユウ!そっちに一匹行きよったで!」
「………」
無視だ。気の所為だ。幻聴だ。
「あの…呼ばれてますよ?」
「聴こえてない。俺は何も聴こえてない」
少年よ。命が欲しくばそれ以上口を開くんじゃない。
さっさとションベンしに車の近くまで戻ろう。
その為には走らなきゃね。うん。走らなきゃ、我慢は身体に悪いもん。
走りながら、少年が付いて来てるかの確認の為に何度も振り返る。
少年はシッカリと付いて来ているようで心配ないようだ。
べ、別に、少年の後ろから追い掛けてくる緑小僧を気にしてる訳じゃないよ。
ただ、本当に、少年が付いて来ているか気になっただけだよ。本当だよ?
にしても、車までの距離が遠い。誰だよ、あんな遠くに置いたやつ……俺か…。
取り敢えず、車に着いたら即座に乗り込んで、緑小僧をやり過ごそう。
俺は暴力とか野蛮な事は嫌いだから、それが一番だ。
それから、車で馬車の近くまで行って……緑小僧が居るから積み込みは出来なさそう。
うーん、どうしたものか…。
……そうやな。リュウに全て押し付けよう。アイツ、バカだから気にしないだろう。むしろ、喜ぶんじゃないかな?
それが良い。名案だ。
「グギャッ!!」
「あだっ!?」
えっ!?何!?
背中に強烈な痛みが走った事に俺は動揺を隠せない。だけど、走る足は止めない。
走りながらチラリと後方を振り返ると、すぐ近くに緑小僧が…。
見なかった事にして走る、走るーー。
「グギャッ!」
「あだっ!」
案外痛いわコレ。いや、無視や。無視。
「グギャッ!」
「あだっ!」
我慢…我慢…痛いけど、我慢…。
「グギャッ!」
「あだっ」
痛い…地味に同じ場所ばかり攻撃してくるから、痛みが倍にーー。
「グギャッ!」
「痛いやろがボケェ!!」
流石の俺でも我慢の限界でした。後悔はありません。
怒鳴りながら振り返って急停止。走ってくる緑小僧の頭を掴み、そのまま地面へと叩き付けてやった。
走っていた勢いもあってか、綺麗に決まったぜ。
俺の突然の行動に少年が驚いている。……あれ?今頃思ったんだけど、少年は俺の斜め後ろを走っていたよね?
だったら、どうして俺が狙われるの?
やっぱ、俺が少年よりも弱そうやから?
俺が少年よりも狙いやすいから?
アカン。考えてたらキレそう。
戻ってトドメ刺したろか!クソ野郎!!
と、思ったけど我慢する。
俺は優しいのだ。俺の心は海よりも広く、空よりも美しいからな!
少し苛立ったけど、マイカーの元まで辿り着いた。俺達は車に乗り込み、少年が乗り込んだのを確認してから車を走りらせる。
後部座席に座ってる少年が窓に顔を貼り付けて興奮しているようだ。
車って言う概念を知らない人が初めて車に乗った人みたいな反応で例えるのが難しいけど、なんか、興奮を抑えきれずに足が地団駄踏んでるみたいになってる。
取り敢えず、ごめんな。足を置く所がなくて。
ごめんな。アンタの足元にあるのって食べ物と飲み物やから。
せやからさ、頼むわ。お菓子の袋を踏まんでくれ。今にも中身が飛び出しそうや…。
そんな困った事が車内で起きているが、この車は馬車の方まで走って行く。ーーつもりだったけど、俺は途中で車を停める。
少年は不思議そうにしてるけど、俺にはやる事があんねんよ。
何をするかって?
勿論、決まってるじゃないか!
トランクから例のトラック用の巨大トルクレンチを持ち出して、立ち上がろうとしている緑小僧の前に立ち、
「痛かったやろが、クソ野郎!!死に晒せ!」
地面に叩き付けられた衝撃が残っているのか緑小僧はフラフラとしているが、俺は気にせずに下を向いている顔面にトルクレンチをフルスイング!
華麗な背面跳びで吹き飛ぶ緑小僧。
素晴らしい!競技に出たら間違いなく満点だね!
そう言う訳で、復讐ーーゴホンッ。用事も済んだ事だから、スッキリとした気持ちで馬車へと向かう。
俺が車内に戻ると少年が引き攣った笑みを浮かべているのがルームミラーで確認できた。
……見なかった事にしよう。




