作業員戦士
翌日。
俺達はゴツゴツと舗装されていない草原を走っている。
勿論、俺の愛車だ。
出掛ける際にリュウが自分の車を出すのを拒否したから、俺の車なのだ。
草や石によって車が傷だらけになったり、時たまにグチョッと鳴る音と共に青い液体で汚されたりもあり、俺の気持ちは落ち込み気味。
なのに、それなのに、こいつは…。
「ああぁ〜、風が気持ちええのぉ〜、最高やのぉ〜、異世界…異世界…ぐへへへ…」
ニンマリと口元を歪めて気持ちの悪い笑みを浮かべてやがる。
ちょっと、浮かれすぎとちゃうか?
っと思ってしまう俺は間違っているのだろうか?
時速50km/hで走行し続ける俺。いや、車か。
正直、何もなさすぎて居眠り運転を何度かした。けれど、何もないから事故る心配もなく、進み続けていた。
ちなみに、地形が荒い為ガタガタと揺れている。正直、ケツが痛ぇ。
トランクに積んだ工具がグチャグチャになってそうだ…。
それから数時間ほど経った頃、唐突に変化が訪れた。その変化を伝えてきたのは、初めの頃だけテンション高めで、今は萎れた老人のような悪友のリュウである。
「ぁぁぁ〜、暇じゃぁぁ〜」
などとブツブツ言っていたが、唐突に立ち上がったかと思えば頭を天井に勢いよくぶつけて、それでも尚、止まらぬ勢いで叫び始めた。
「ちょっ!アレ!アレみろって!おいっ!!」
そう言いながら、ハンドルを握って揺らしてくる。
鬱陶しい事この上ない。
「なんやねんホンマに…」
そう言いながらも、リュウが指差す方向へと視線を向けると、そこには…。
「人?」
人とは断言できない。だけど、それらしき輪郭を持つ生物が木造の小屋みたいな物体の側に立っているように見える。
だけど不思議だ。
なんでこんな何もないところに人?
いや、今そんな事はどうでもええよな…。
俺は兎に角、確認の為にその人らしき方向へと車を走らせる。
徐々に見えてくる人影の正体。
子供のような背丈に布だけを身につけた蛮族みたいな格好をした緑人間。そして、手にはヒノキの棒のような物が握られ、猿のような動きでダンスのような踊りを披露している。
その側には小屋だと思っていた物ーー壊れた馬車があった。
うん。小鬼だ。
ゲームやアニメでお馴染みの小鬼にしか見えない。
まだ300㍍程の距離があり、向こうは俺達に気が付いていない。
俺は取り敢えず、この奇怪な状況をどうするか相談する為に車を停止させてリュウの方へと視線を向ける。
「ん?轢けば?」
「………」
アッサリしてるねぇ!!おい!
なんよその返答!
もっと、何か、こう、えーっと!…考えるとかせぇーへんのかよ!!
と、心の中で叫んでみたものの、リュウの答えは正しい……はず。
「ほら、あのキモい踊りしてんのって、どう見ても敵やろ?それに、その近くにあんのって馬車と馬の死骸やろ?ならさ、殺すべきやろ?」
「………」
リュウの言う事はもっともだ。
だけどね、速攻で殺すって言う考えに辿り着くのはどうかと思うんだ、俺。
もっと穏便に…。
「早よ行けや。んでから、轢き殺せ」
コイツの脳内がどうなってるのか本当に気になる。もう、殺す事前提だし…。
ここは止むなし。
「……よ、よしっ、車はここに置いて、トランクに積んでる工具でなんとかしよか」
俺が提案を出したら、『は?お前何言うてんの?』的な目で睨まれた。
百歩譲って、お前がグロッキーになるのは構わん。例え、お前が吐こうが、愚痴ばっか垂れ流そうが、テンションが下がろうが、俺にとっちゃ些細な事。
だけどね、車内に血生臭い臭いが付くのは嫌なんだよ!
服が汚れる?服に臭いがついた?
それならば、まだ許容範囲だ。だけど、この車はダメ!絶対に嫌だ!
買って一年だよ!?
中古だけど、新古車だよ!?
臭いが付着したら、部品の取り替えや臭いの原因の除去に多大な浪費と時間と金がかかんだよ!
「ほなさ、見いひんかった事にせぇーへん?」
「は?」
『何言うてんねん!』的な厳しい視線を向けられた。
正直、コイツの目は強い威圧感があって怖い…。
取り敢えず、エンジンを切る。
「それじゃあ、護身用に工具持って歩いて行こ。この車で行きたくないからさ…」
「ええやんけ。このままコイツで突っ込めや」
「いや、だって、臭いつくやん…」
「整備士やねんやったら何とかできるやろ」
「部品なかったら無理やから…」
「ちっ」
そりゃもう不満たっぷりな舌打ちを貰いました。はい。
まぁ、大体予測はしてたけど…。
なんやかんやあったけど、最終的にはトランクに積んでる物でなんとかする事になった。
俺達は、車から降りてトランクを開けると、そこには色々な物が山積みされていた。
そりゃ、燃費も悪なるわな…。
山をほじくれば車載道具の他に使い勝手の悪い特殊工具やらバッテリー式のチェンソーが出てきたが、大抵は俺が載せた覚えのない変な物ばかり。
久々にトランクを開けたけど、載ってる物にビックリした。
ちなみに、チェンソーが載ってる理由は特にない。貰ったけど家に置いてたら邪魔だから車に載せただけだ。
その他に、可愛らしい猫の着ぐるみや木刀や模擬刀もある。理由は同じだ。
けど、それ以外は知らん!全く身に覚えがないのよ!!
「……なぁ、なんでこんな物積んでんよ?」
リュウが指差して尋ねてきたのは、看板……はい。なんででしょうか?
「なんでやろ?」
看板にはデカデカと『ご迷惑をおかけします』と書かれた作業員が頭を下げている絵が描かれた物だ。
「んじゃ、これはなんよ?」
次に指差したのは、白いポール。
あの地面に突き刺さってて車止めに使われる鉄製のポールだ。
それが載ってる理由は…分からん…なんで?
「知らんねんけど…なんでやろ?」
ホンマに分からん。
まさかやと思うけど、職場の同僚が載せた?
有り得る…。
「なんで自分の車やのに知らんねん。アホか」
「はい。返す言葉もございません…」
俺が載せた訳じゃないけど…けど、俺の車だし、最近はトランクの中身を確認してなかったし、非がない訳じゃない。
返す言葉が一切見当たらない…。
「まぁ、ええわ」
そう言ってリュウは看板を手に取った。
……は?なんで看板?
「一つ聴いていい?」
「なんや?」
「なんでそれ選んだん?」
「そんなん決まってるやん……」
少し考えた後、一拍。
「なんでやろな?」
「自分でも把握してないんかーい!」
リュウは看板をトランクに置き直し、他の物を手に取る。
それは、俺がサバゲーで愛用しているP90。
「よし、それを選んだ理由を聞こうか」
もし壊れたら泣くぞ。
「ん?遠距離から俺が攻撃するから、お前がーー」
「攻撃力皆無!?アホか!!」
「ちっ」
俺の|相棒(P90)が乱雑にトランクへと放り投げられた。
壊れてたら泣くぞ!
「なら、これで行くわ」
次に手に取ったのは、鉄パイプ。
戦う事を前提にしたら、一番無難な物だ。その先に人形が突き刺さってなかったら…。
ユニコーンの人形の尻に鉄パイプをぶち込んだアホな代物だ。
そして、作成者は俺…ではなく、会社の同僚。
誕生日プレゼントに貰った良く分からない代物だ。
「まぁ、ええんちゃう?俺はこれで行くけど」
整備士らしく、無難に大きなトラック用のトルクレンチでーー。
「は?お前、そんなんで良いと思ってるん?」
「ん?なにが?」
「面白味がないねん!もっとええもんあるやろ!」
「ええぇ…」
なんと言う無茶振り。
もしかして、さっきまでのアレは面白味を求めてやってた事なのか?
ならば、コイツはバカだ。
それも相当な…。
「あのさ、俺らは今から何しに行くか分かってるん?」
「は?そんなん、あのゴブ野郎を殺す事やろ」
当然やろ。とでも言いたそうな表情で語ってくれたけど、断じて違う。
「ちゃうやろ。あの馬車を見に行くんやろ。俺ら、この場所がどこかも分からへんねんから、詳しく知る事やろ」
「は?」
もしかして、何も考えてなかった?
てっきり俺は何かを得る為に馬車へと向かうんだと思ってたんだけど。
「御託はええから早よ選べや」
「ほな、ドライバーで…」
「は?おもんないやんけ。お前はこれ使えや」
そう言って渡されたのは……まさかのカラーコーン。
「どうやって使えと?」
「腕に突っ込んだらええやんけ」
「さいですか…」
もう、なんも言えねぇ。
なるようになれ、だ。
雰囲気的に武器も決まり、さぁ行こうか。とトランクを閉めようとした時、唐突にリュウが「あ、やっぱ、これも使お」と言って、閉まりかけのトランクに腕を突っ込んだ。
危うくリュウの腕を挟みかけた。もし挟んだものならば、俺は鼻フックの刑に処されただろう。
本当に危なかった…。
トランクからリュウが引きずり出したのは、一度選ばれた事のある看板と作業用ヘルメット。
「これを、こうやって…」
何をするのかと思えば、看板の裏に手を突っ込んで、看板を盾にした。
左手に『ご迷惑をおかけします』の看板盾、右手にユニコーン付きの鉄パイプ、頭に安全第一のヘルメット。
作業員戦士が誕生した瞬間を目の当たりにした日であった。
俺は冴えないカラーコーン男だ。頭に被れば、ほらこの通り。背の高いカラーコーン人間である。
悲しきかなカラーコーン。
コーンバーも持っておこう…。
ちなみにですけど、ユウの服装は仕事着らしき普段着です。
吸水性抜群の長袖に、上からパーカー。
下はカーゴ。靴は安全靴に間違われやすいゴツゴツとした物。
リュウの服装は、寝間着と言っても過言ではないような服装です。
上下共に白のジャージで金の装飾がしてある、ヤングな服装です。




