決勝戦 開幕
体育祭の為、グラウンドに用意された特設の闘技場。その熱気は今まさに、最高潮に達しようとしていた。闘技場にはまだ選手の姿はなく、観客席も静まり返っていた。だがそれも嵐の前の静けさに過ぎない。その均衡を破るかのように、沸騰寸前のグラウンドに実況を務める放送部員の声が響き渡った。
『皆さん、大変長らくお待たせいたしました! フェルヘイズ国立学校高等部が誇る体育祭の目玉競技、武闘大会も遂に決勝戦を迎えています。それでは、ここまで数々の猛者を打ち破ってきた二人の選手をご紹介致しましょう! まずは西側から……』
「フェーゴ! 間に合って良かった」
レイが東側の選手控室に入ると、そこにはまだフェーゴが呼び出しを待って座っていた。大人しく座っているというのは普段のフェーゴからは想像が付きにくいが、それだけ緊張で固まっているという証拠だろう。
「おう、レイか。みんなもう観客席に戻ったぞ」
「いや、最後にもう一度、フェーゴにプレッシャーをかけようと思ってね。何せ学食が一週間無料になるかならないかの瀬戸際だからさ」
冗談で言ったつもりのレイだったが、フェーゴには伝わっていないとすぐ分かった。フェーゴもまた空回りしたレイの不慣れな冗談に対しどう返したものかと一瞬戸惑ったが、レイも慣れないなりにこちらの緊張を和らげようとしてくれているのだと思い、目の前の友人にぎこちなく笑い返して見せた。
それに釣られてレイもまた噴き出して破顔する。一瞬の沈黙があり、立て続けにレイとフェーゴは人目も憚らずに笑い出した。二人はレイの冗談が面白くて笑ったのではない。見事なまでに空を切ったそれが生み出した、この何とも言えぬ雰囲気に笑ったのだ。
「はっはっはっは! ちょっとレイお前、何だよ今の間は!」
「俺が聞きたいよ!」
一しきり笑い終わると、不思議とフェーゴの不安も緊張も何処かへ吹き飛んでしまっていた。
この事を後で思い出しても、再び笑う事はないだろう。それだけレイの冗談は面白くなく、同時に瞬間的な爆発力を持っていたのだ。
「あー、ありがとよ、レイ。久々に思い切り笑わせて貰ったわ、あとお前、冗談言うの下手だぞ」
「わかってるって」
レイは少しでも緊張を和らげようと思っていただけなのだが、それは思わぬ形で予想以上の効果を発揮したようだ。彼が安堵したところで、フェーゴに入場の呼び出しがかかる。
「じゃ、行ってくる。俺の戦いぶりに腰抜かすなよ?」
「楽しみにしてるよ。応援席から見てる」
二人はほぼ同時に踵を返すと、それぞれ真逆の方向へと歩き出した。一人は戦う為。もう一人はその戦いを見届ける為に。
フェーゴが闘技場に入ると、万雷の拍手が彼の入場を迎え入れた。フェーゴは軽く手を振って応えると、既に呼び出されていた対戦相手を見た。
対戦相手、アーロンはフェーゴを一瞥すると、挑発するように僅かに口角を吊り上げる。
「随分と人気者じゃないか」
「まあな」
アーロンの皮肉をものともせず、フェーゴは毅然とした態度で短くそう答えた。
何故アーロンがここまでフェーゴを目の敵にするのかはわからない。疑問ではあるが、これから始まる試合にそれを持ち込む必要はない。
「今からこの歓声を、全て俺の物に変えてやる」
やってみろ、とフェーゴが返すのを見計らったように、試合開始の鐘がグラウンド全体に響き渡った。
動き出すのはほぼ同時。フェーゴは地面を踏みしめ、蹴り出すと同時に足から小爆発を起こし対戦相手との距離を一気に詰める。アーロンの方も素早く曲剣を引き抜いて、飛んできたフェーゴの裏拳を受け止める。
「前々から癇に障る奴だと思ってた……」
鍔迫り合いのさなか、アーロンがフェーゴだけに聞こえる声量で話しかけて来る。
「気に入らないんだよ、アンタみたいなのは……!」




