イーノ・プラッツ
自分も皆のように戦いたい。その言葉は決して嘘や冗談で言ったものではないというのはイーノの瞳を見れば解る。
「戦いたいって言っても、イーノは戦わなくてもその分別のところで頑張ってるんだから無理しなくても……」
なぜ、どうして、という疑問は口には出せなかった。気にはなったが余計な詮索をして傷つけてしまうのが……古傷を抉ってしまうのが怖かった。セシリアのように。
尤も、こうして図書室までイーノを追いかけて来た事が、既に余計な詮索なのかもしれない。だが彼は、セシリアが負った深い傷、クオンが抱えていた不安を知ったからこそ、同じ仲間であるイーノの事も知りたい、理解したいと思っていた。
「もう、嫌なんです」
レイが尋ねる前にイーノの方から口を開いた。
「何も出来ずに見ているのも、出来なかったから諦めるのも、もう……」
「イーノ……」
レイは椅子に腰を降ろし、イーノが話し出すのを待った。思いつめた表情で俯く彼には只ならぬ事情があるのだろう。そんなイーノにかける言葉は見つからなかったが、せめて話を聞く事で何かしらの支えにはなりたいと、そう思った。
そんな彼の思いが伝わったのか、程なくしてイーノはレイに向き直って語り出した。
「……僕は生まれつき、魔術が使えないんです」
言われてみれば、レイはイーノが魔術を使う所を一度も見たことはなかったし、学年が違うので実技の授業を選択しているかどうかも知る術はなかった。レイは内心驚いたが、表情を変えないように努める。
「体内に魔力を蓄える事が出来ない体質らしくて、魔術を使おうとしてもそれはごく微弱な効果しかありません。治安維持部に入ったのも、レイ先輩を見て何か自分と似通ったものを感じたからなんです」
魔術を使えないイーノと魔術を使いすぎると意識を失うレイ、確かに似通ったものがある。
またイーノはレイにシンパシーを感じると共に、同じような境遇にありながら魔術の才に恵まれた彼が羨ましくもあった。
だからヒドゥンマスの幹部ガグロアの一件でクオンが戻らなかった際も、ヒドゥンマスに怯えるレイの背中を押したのだろう。
「正直なところ、僕には皆さんが自分の境遇と比べて眩しく見える事もあります。でも、こんな非力な僕を皆さんは仲間に入れてくれました。だからこそ、恩返しって程じゃなくても、少しでも力になりたいって思ったんです。それならヒドゥンマスみたいな敵が相手でも戦えるようになる事が一番かなと……もっといい手があるかもしれませんが」
「それでフェーゴの籠手みたいな道具を……」
レイにとってはイーノこそが眩しく思えてきた。彼は自らに課せられたハンディキャップを理解しながらも、その中で誰かの為にと己の役割を模索し続けているのだ。それに比べて自分は―――
―――そう思いかけたところで、レイはそれ以上考えるのを止めた。他人の眩しさに目を細め、自らを貶めたところで何も得るものはない。それならイーノのように、目の前にある自分に出来る事に精一杯向き合う方がよほど生産的だ。今レイに出来る事と言えば……
「俺、今からフェーゴに一声かけてくるよ。あまりプレッシャーはかけたくないけど、あいつには学食一週間無料券が懸かってるからね」
レイは決勝に向かうフェーゴに、最後のエールを送るべく椅子から立ち上がった。彼らの周囲には体育祭など目ではない程の問題が積み重なっているが、今この時、一番重要なのはこれだろうと判断したのだ。
「そうですね、僕はもう少し調べ物を続けてみます。フェーゴ先輩にも宜しく伝えておいてください」
再び机に向かったイーノに、“今後何か手伝える事があったら言って欲しい”と告げ、レイは決戦を控えた友の下へ足早に駆けて行った。




