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デイブレイクス〜Daybreaks〜  作者: 煙の物干し竿
第七章 熱い闘志を燃やせ
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勝つのは俺だ

 前々から気に入らないと思っていた。そう言い放つと、アーロンは隙を見てフェーゴを蹴り飛ばした。体制を崩したフェーゴにアーロンの刃が迫る。籠手を着けた右腕で防ぐ間もなく、やむなくフェーゴは左手から火球を発射して右に逃れる。しかしそれだけでは距離が足りず、アーロンの刃はフェーゴの左肩を掠めた。すれ違いざま、彼はアーロンの口角がにやり、と吊り上がるのを見た。


「やるな、次はコイツでどうだ!」


フェーゴは右手を地面に当て、炸薬に着火するとその勢いで宙へと身を躍らせた。釣られて上を向いたアーロンは日光の眩しさでフェーゴの正確な位置を把握し損ねる。

次の瞬間、アーロンの右肩を高温の物体が通過したかと思うと、彼は背中から地面を擦る音を聞いた。咄嗟に曲剣を背に回したアーロンは背後に着地していたフェーゴの拳を受け止め、後ろを振り向いた。


「どうやら……家柄だけのボンボンではないらしいな」


「それが、俺を気に入らない理由か?」


アーロンは鼻で笑うとフェーゴを突き飛ばし、正面に向き直る。


「聞きたいか?」


「別に」


フェーゴは地面を蹴り、再び相手の懐に潜り込むべく籠手を盾にして突進する。アーロンは曲剣を振るって迎え撃とうとするが、試合用に刃を殺したそれでは大した足止めにはならず、フェーゴの接近を許す事になる。

逆に一定の間合いを維持したいアーロンは剣を横に薙いで後退しようとするが、フェーゴがその剣を右手で掴んで引き寄せる。そのまま左の拳が命中するかに思えたが、突如右手で掴んでいたアーロンの剣が発光し、雷鳴と共にフェーゴを吹き飛ばした。






 受け身を取り、場外に弾き出されるのを防いだフェーゴは反撃に出ようと足を踏み込むが、急に体から力が抜けるのを感じ失速する。


「効いたらしいな」


アーロンが膝を突いたフェーゴに歩み寄る。マスクの上からでもわかるくらい、その顔には歪んだ笑みが張り付いている。


「てめぇ、何しやがった……」


「簡単さ、麻痺させたんだよ。言い忘れていたが俺は光属性の使い手でな。あの程度の稲妻を出すなんて訳もない。さて……」


アーロンは動けないフェーゴの襟首を掴むと、そのまま場外に投げ飛ばすのではなく闘技場の内側に引き摺り戻した。観客達が騒然とする。


「これからアンタには少しばかり痛い目を見てもらうが、なぜこんな目に遭わされるのか、知らないままでは後味が良くないだろうから教えてやるよ」


「別に聞きたかねぇっての……」


フェーゴの態度を生意気に思ったのか、彼の顔面にアーロンの蹴りが飛ぶ。必要以上に相手をいたぶる振る舞いに観客からは少なからず不平不満の声が上がる。


「ほらこれだ、アンタが王族じゃなければこうはならない」


すかさずアーロンがフェーゴの顔面に目がけて素早く二発の斬撃を見舞った。彼の頬が鞭で打たれた様に赤く腫れ、当然、抗議する声も更に強くなる。


「気に入らないな……こんな、もしこれが真剣ならばとっくに首を刎ねられてるような奴を、みんな王族だからって庇うんだ。これは戦いの場で、実力は俺の方が勝っているのに……!」


現在のフェルヘイズに不敬罪はない。もしあればフェーゴがこのような試合に出ることもなかったし、首を刎ねられていたのはアーロンの方だ。彼もそれを知っている。知っているからこそこうして大衆の面前でフェーゴを痛めつけるような事をするのだ。


「もう解ったろう。俺が兄を、アンタを嫌う理由が」


「だから、そんなん興味ねぇよ」


構わずアーロンは話を続ける。


「俺の家は生まれた順番ではなく、いかに優秀かによって跡取りを決めてきた。俺はそれを誇りに思っていたし、家を継ぐ為に磨き上げた剣の腕前は兄をはるかに上回っている。だというのに親は俺ではなく兄に家督を継がせると決めた。長男という理由だけでだ!」


その剣をアーロンは鞘に収め、鬱憤晴らしと言わんばかりにフェーゴを蹴り倒す。


「それに比べてアンタは、三男なのに王族だからって担ぎ上げられて、いい気になりやがって!」






 何度も踏みつけられたフェーゴの体は至るところに血が滲み、本日の参加者で最も痛ましい傷を負っていた。

ふと観客席に目をやると、応援に来たレイとクオン、そして他の部員たちが見える。視界が霞んでいて表情までははっきりと見えないが、きっとフェーゴがこうして横たわったまま敗北する事は望まないだろう。それだけは間違いない。

彼が一方的に嬲られるのを見かねて審判が鐘を打ち鳴らそうとしたその時、先程まで立つ事すら出来なかったフェーゴが突然何事もなかったかのように立ち上がった。


「おしゃべりが過ぎたな」


「なっ……一体どうやって!?」


慌ててアーロンが腰の曲剣に手を伸ばすが、その手が柄に触れる前に彼の頬に拳が叩き込まれる。アーロンは爆音と共に宙を舞い、落下した。

フェーゴは今日までに積んできたレイとの鍛錬であの程度の雷撃はいくらでも受けてきた。多少痺れたが、喉元を過ぎればどうという事はない。


「別に。ただお前より速い雷の使い手と、お前より強い剣士を知ってるってだけさ」


フェーゴはアーロンの反撃を待ったが、彼が起き上がる事はなかった。今の一撃が決まり手になったらしい。

鳴り響く試合終了の鐘と共に、勝利者であるフェーゴに惜しみない喝采が降り注いだ。






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