セシリアの過去 2
セシリアがヒドゥンマスに拐われた。その情報はすぐに研究員達の耳に入る事となり、彼らは必死でセシリアを探した。どうか何かの間違いであって欲しい、と。
しかし、そんな願いも叶う事は能わず、研究所にヒドゥンマスがやって来た。彼らは瞬く間に研究所を占拠し、抵抗する者は見せしめに殺害された。
そして彼らは決まってこう言う。『娘の命が惜しくないのか』と。責任者であるセリアの娘、セシリアを盾にされた研究員達に、選択の余地はなかった。
「奴らがセリア先生の研究を必要としたのは、ある目的があったからだ」
「それがネフィリム計画?」
ベルリッツの問いにウィブロンは頷くが、それだけではない。と続ける。
「ヒドゥンマスには、人造人間……ホムンクルスを作る技術があった」
「ホムンクルス!?」
その場にいる全員が驚きのあまり目を見開いた。ネフィリム博士の研究にも信じがたいものがあったが、ましてやホムンクルスなど、話が飛躍しすぎて最早お伽噺の世界だ。
「もしヒドゥンマスと関わった事があるなら、黒いローブを着た不気味な連中を見た事はないか?」
ベルリッツとジオス、そしてイーノは首を傾げたが、レイとクオンは知っていた。
しかも見た事があるどころか、それと交戦すらしている。
「知っているみたいだな。奴らはヒドゥンマスによって大量に生産されたホムンクルス……人口の生命体だ。痛みはなく、その命が尽きるまで戦い続けるいわば使い捨ての兵隊たちだ。それが今のヒドゥンマスの主戦力となり得たのは、一重にセリア先生の研究があったればこそだ」
ウィブロンは目を閉じ、再び十年の時を遡った。
当時、ヒドゥンマスのホムンクルス技術は、時間をかけて優秀な固体を生み出す事には長けていたが、それで軍隊に匹敵する人数を揃えるのは時間的に見て実現不可能に近かった。
そこで彼らが目を付けたのは、魔力によって人体を形作るというセリア・ネフィリム博士の研究。それを利用すれば、個々の性能よりもその物量に重点を置いたホムンクルス生産が可能になると考えたのだ。
その為に必要な情報は全て開示する事……逆らえばセシリア共々皆殺しにする……
研究員はセシリアを救う事以前にまず自分の命を守る為、ヒドゥンマスから下される命令には従わざるを得なかった。
そして、ウィブロン達がヒドゥンマスに研究データを提供し続けて数年の月日が流れた。ヒドゥンマス団員の一人が"もうすぐ娘に会わせてやる"と言ったのだ。
研究員達は、奴隷にも等しかった長い生活にようやく終止符が打たれると安堵し、おそらく最後であろう研究に本腰を入れていた。
だがまたしても、彼らの希望は無残にも打ち砕かれる事になる。
ある時、研究室に突如として血塗れのヒドゥンマス団員が駆け込んで来た。その身体は深く袈裟斬りにされており、出血の量から助かる見込みがないのは誰の目から見ても明らかだ。
「一体何事だ」
隊長格の男が尋ねると、血塗れの団員は口から血の塊を吐き出しながらも答える。
「ホムン、クルスが、暴走……ああっ……!」
その刹那、彼は後ろから忍び寄る"何か"によって刺し貫かれ、そのまま絶命した。
団員の亡骸からは氷の刃がその切っ先を覗かせていた。それが引き抜かれ亡骸が床に崩れ落ちると、その後ろには……
「セシリア?」
セリアがその名を呼ぶ。しかし、それはセシリアではないとウィブロンには直観で判った。
セシリアの顔をした何か。それは二人になり、三人になり……
同じ顔の“何か”は、気が付くと十数人にも上っていた。




