第五章 またですか
ポール・ミラーは十九歳。
公爵家の長男として育てられた青年だった。
だが、この婚姻に納得していなかった。
自分は公爵家を継ぐはずだった。
それなのに、第一王子が失敗した後始末として、離婚歴のある少女を妻にしろと言われた。
しかも、ダニエル王子が一度娶った女性である。
ポールにはそれが屈辱だった。
父デイヴィッドは何度も説明した。
ソフィアは単なる離婚歴のある娘ではない。
スチュアート伯爵家の長女。
本人もロール伯爵。
プリストンを持つ。
この婚姻はミラー家にとっても非常に大きな意味を持つ。
だが、十九歳のポールには父ほど広いものが見えていなかった。
そして婚礼の日。
ソフィアは二度目の夫となったポールと、クララ・マルタンを見つけた。
状況を理解するまで、少し時間がかかった。
理解できなかったからではない。
あまりにも前回と似ていたからである。
ソフィアは二人を見た。
部屋を見た。
もう一度二人を見た。
「……またですか」
心の底から出た言葉だった。
クララが何か言おうとした。
ソフィアは近づいた。
今回は壺を探さなかった。
蹴った。
鍛えられた足から放たれた一撃で、クララは床へ倒れた。
致命傷にはならない。
だが、何もなかったことにはできない。
その程度に加減した。
ポールが硬直していた。
「な……」
「大丈夫です」
ソフィアは言った。
「前にも経験がありますので」
「何が大丈夫なんだ!」
「処理の手順です」
侍女を呼ぶ。
部屋を保存する。
証人を確保する。
王家へ報告。
ミラー公爵へ報告。
マルタン侯爵へ報告。
実家のスチュアート伯爵にも連絡。
ソフィアの指示には迷いがなかった。
前回と違うのは、ソフィア自身が伯爵であることだった。
もはや父親に守ってもらうだけの娘ではない。
ロール伯爵として、自分の婚姻に関する問題を自分で処理できる。
知らせを受けたデイヴィッド・ミラーは、しばらく無言だったという。
そして息子を庇わなかった。
むしろ激怒した。
王家の失態を収めるために自分の家が引き受けた婚姻である。
それを息子が、まったく同じ種類の愚行で破壊した。
言い訳の余地などなかった。
ポールは廃嫡。
男爵位だけを与えられ、マルタン侯爵家へ養子に出された。
クララも実家へ戻された。
そして賠償問題となった。
デイヴィッドが差し出したのは、ミラー公爵領の約四分の一。
ルール穀倉地域だった。
偶然ではない。
ロール領に隣接している。
国内でも有数の穀物生産地だった。
こうしてソフィアは二度目の結婚も、ほとんど結婚生活を送らないまま終えた。
名前はソフィア・ロール・ミラーから、ソフィア・ロールへ。
そして領地だけが増えた。




