第四章 十四歳の領主
プリストンへ移ったソフィアは、意外なほど早く立ち直った。
もちろん、最初の結婚があのような形で終わったことについて思うところがないわけではない。
ただ、いつまでも落ち込んでいる暇がなかった。
港町を一つもらうというのは、想像していたより忙しい。
プリストンはモリア王国有数の良港だった。
船が入りやすい。
大型船を停泊させられる。
倉庫街がある。
国内へ延びる街道も整備されている。
だから王家直轄領だったのである。
ソフィアは毎日のように新しい言葉を覚えた。
入港税。
倉庫使用料。
荷役。
水先案内。
船員同士の揉め事。
密輸。
街道の治安。
海賊。
陸の領地とは勝手が違う。
父ウィリアムは経験のある文官を何人か貸してくれた。
だが、娘の代わりに統治しようとはしなかった。
「お前の領地だからな」
それだけだった。
ソフィアは覚えた。
分からないことは聞いた。
現場も見た。
港へ行けば、領主が直接歩いていることに商人たちが驚いた。
陸上警備団の訓練を見れば、そのまま自分も剣を握った。
海上警備団の船にも乗った。
最初は十四歳の少女領主を不安そうに見ていた者たちも、次第に態度を変えた。
若い。
だが話を聞く。
決断も早い。
分からないことを分かったふりもしない。
そして、必要なら自分で現場へ来る。
何より、王都から派遣されてくる代官とは違った。
ソフィアはここからいなくならない。
ここが自分の領地だからである。
ソフィア自身も、プリストンでの生活を気に入っていった。
王子妃になるより、こちらの方が自分には向いていたのかもしれない。
そんなことまで考えるようになった。
だが、王家から見ると笑ってばかりはいられない。
プリストンの価値は大きすぎた。
しかも、その所有者は独身の少女である。
外国の大貴族と結婚されたらどうなる。
夫が領地へ強い影響力を持てば、モリア王国の重要港に外国勢力が食い込むことになる。
ソフィア本人も、その危険性は理解していた。
だから十五歳になった頃、王家から再婚話が持ち込まれた時、無下には断らなかった。
相手はミラー公爵家。
当主デイヴィッド・ミラーは三十九歳。
母が前王の妹という、王家に非常に近い公爵だった。
そして、王家に対する忠誠心が高い。
デイヴィッドは第一王子の失態を見ていた。
王家とスチュアート家の関係を安定させなければならないことも理解していた。
だから自分の長男ポールを差し出した。
ソフィアは考えた。
好き嫌いだけで決められる話ではない。
自分はもう、ただの伯爵令嬢ではない。
プリストンを持っている。
自分の結婚は、そのまま外交と国政に影響する。
「お受けします」
そう答えた。
十五歳。
ソフィアは二度目の結婚をすることになった。




