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第十章 勝ち過ぎる男

 別室で話がまとまり、関係者は会場へ戻った。


 すでに多くの者が成り行きを気にしている。


 何があったのか。


 どちらが謝ったのか。


 王女はどうなった。


 噂が勝手に広がる前に、ある程度の説明が必要だった。


 マイケルが前に出た。


 両国の間に問題はない。


 ちょっとした行き違いだった。


 ジュリア嬢もシャーロット殿下も互いに理解した。


 ここまではよかった。


 そして、ジュリアとケント王子の婚約について話が及んだ。


 マイケルは笑顔で言った。


 シャーロット殿下はデュポア王国で多くを学び、ケント王子とも親しく交流された。


 しかし両国の事情から婚姻には至らなかった。


 その後、ジュリア嬢との婚約がまとまった。


 つまり――


 シャーロット殿下が選ばなかった縁を、ジュリア嬢が大切に受け取った。


 そういうことである。


 会場が静かになった。


 意味を理解した者から顔を伏せた。


 笑ってはいけない。


 絶対に笑ってはいけない。


 だが、言っていることは明白だった。


 ジュリアがシャーロットに勝ったのではない。


 シャーロットが手放した男を、ジュリアがもらった。


 マイケルは、そういう形にしてしまった。


 ジュリアの顔が赤くなった。


 フラン大使は目を閉じた。


 シャーロットは驚いた後、何とも言えない顔をした。


 外務大臣アランは息子を見た。


 止めるには遅かった。


 モリア王国の面目は完全に守られた。


 むしろ守り過ぎた。


 問題は、そこにいない人物だった。


 デュポア王国第二王子ケント。


 本人には何の責任もない。


 その王子が今、モリア王国の社交界で、


 ――シャーロット王女のお下がり。


 という扱いを受けた。


 外交官としては、明らかに余計だった。


 ソフィアはマイケルを見た。


 不思議な男だった。


 最初に立ち上がった理由も分かる。


 自分の国を守りたかったのだ。


 現在、モリア王国はフラン王国より少しずつ優位に立ちつつある。


 それでも友好を選んでいる。


 王女を留学させるほど、相手を尊重している。


 だからこそ、その好意を軽く扱われることを許さなかった。


 王女自身に失態があっても。


 父である外務大臣さえ動けなくても。


 自分が動く。


 国王が来るまで待って、その場を収めてもらうという選択をしなかった。


 負けた形を残すこと自体を嫌った。


 ソフィアには、その感覚がよく分かった。


 自分の大切なものを守る。


 そのためなら、多少無理をしてでも前へ出る。


 マイケルにとって大切なのは、モリア王国なのだろう。


 そして能力もある。


 ソフィアが場所を変えろと示唆した瞬間、すぐに意図を理解した。


 プリストンを渡した瞬間、その価値を正確に把握した。


 それを脅迫ではなく交渉材料として使い、相手の逃げ道まで用意した。


 外交官として非常に優秀だった。


 ただし。


 最後に余計な一撃を入れる。


 勝った後で、もう一発殴る。


 しかも本人は、おそらくそれを必要な一撃だと思っている。


 ソフィアは少し考えた。


 そして思った。


 ――面白い。


 二度の結婚で、ソフィアは相手を選べなかった。


 第一王子ダニエル。


 王家との関係を安定させるための婚姻だった。


 ポール・ミラー。


 プリストンを持つ自分を国内へつなぎ止めるための婚姻だった。


 どちらも政治が選んだ。


 三度目まで同じことをする必要があるのだろうか。


 ソフィアは十六歳になっている。


 成人した。


 自分の領地がある。


 爵位もある。


 経済力もある。


 兵もいる。


 父の許可がなければ何もできなかった十四歳の少女ではない。


 ならば。


 今度くらい、自分で選んでもいいのではないか。


 ソフィアは、まだ何も知らずに父親から叱責を受けているマイケルを眺めた。


「なぜ最後の一言を言った」


「必要だったと思います」


「どこがだ!」


「殿下の名誉を完全に回復するためです」


「デュポア王国第二王子の名誉はどうする!」


「あ」


 そこで気づいたらしい。


 ソフィアは笑った。


 優秀である。


 間違いなく優秀である。


 そして危険である。


 そこも含めて気に入った。

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