四話 空洞
五話目が納得いかなかったので後日投稿します。
ラスティくんは山爺の背に、す巻きのようにくくられて村へとやって来た。一緒に来たのはメイドのターニャさん。今日から山爺の家で二人はしばらく暮らすことになる。
山爺の家に向かう前に、まず神社だね。青に新人さん二人に参拝の仕方を教えてもらっている。ラスティくんは無理のない範囲でオーケー。その間に、神主代行の僕は名札書き。
神社の本殿には蛍村に住んでいる人、その近親者の名札の木札がずらりと飾られている。他の神社では見たことがない、変わった風習。
この村の神社はこの村に特化した奉りかたをしている。村人一人一人、神様にしっかりと名を覚えていただく。そのための名札。
ラスティくんとターニャさんは正式なこの村の住人ではないけど、しばらくは一緒に暮らすしね。きちんと名札を作らないとだね。
墨をするまでやる気はないので、筆ペンで名前を書く。なんかカタカタで書く名札は新鮮だな。あ、ちょっと曲がってしまったけど、これもこれで味がある。はず?
神様、ラスティくんとターニャさんをよろしくお願いします。
名札を飾り、簡単に参拝してもらうと山爺の家に向かう。
山爺の家には離れがあってそこがラスティくんのお部屋になる。電話でばあちゃんに掃除を頼んでおいたので、みんなでキレイにしてくれているはずだ。
「あれまぁ、細っこい子だねえ」
キレイになった部屋の布団にラスティくんを寝かせると、まだ残っていたばあちゃんが心配そうにその顔を覗き込んだ。
「夕飯は精がつくもんがええな。太一、山で行者ニンニクとってきとくれ」
「はーい」
「ついでに魔物の肉もね」
「……はーい」
明日はハンターギルドに行くんだ。その納品だと思えば、解体がつらくないはず。
青も巻き添えにして、僕らは隣山に向かう。あ、空島がある山とは別の隣山。こっちも青が地主。
行者ニンニクはこっちに生えてる。魔物は、こっちまできてるかな?来てた!しかもちょっと大型の鹿。角が薄紫のクリスタルのように、キラキラと輝いている。
鹿をさっくりと倒して、まずは血抜き。運ぶのが大変だから、すぐに応援を呼んだよ。僕らより解体が得意な爺婆に任せて、僕らはニンニク取り。
でもこっちの山まで魔物がいるのはまずくない?一回山狩りしたほうがいいかも。面倒だけどね。
その後、えっちらおっちらとみんなで手分けして、鹿の素材と肉を運んだ。骨はさすがにあきらめて埋めてきたよ。
ばあちゃん特製雑炊を食べたラスティくんの青白かった頬が、ピンクになったよ。ばあちゃんすごっ!
その晩のオンライン通話では、男爵一家がばあちゃんを讃えた。
「特になんもしとらんけどね」
「空島の食材と栄養価が違うのかな?明日サンプルをもらって調べてみるかな」
吉爺はまた自分で忙しくしてる。凄いバイタリティだね。ちなみに山狩りは今度みんなでやるって。
僕は鹿運びで疲れたよ。今日は修行はパスします。おやすみなさい。
今日はあいにくの雨。 ザーザーぶりじゃないだけ、ましか。僕は神社の掃除を終え、いつものご挨拶の神様への参拝。
今日も楽しい日でありますように。
雨のせいなのか、みかんが朝から顔を何度もくしくしと手でぬぐっている。うん。かわいい。お手入れ中のみかんにてを伸ばしたら、パシッと叩かれた。どうやら御機嫌斜めだ。
逆にばあちゃんは朝から御機嫌で、にこにこしながら大量のおにぎりを握ってた。
「そんなに僕たべられないよ?」
「これは空島でみんなで食べるやつ。今日は朝から空島やからな」
「雨の中で、お弁当?」
「牧場で食べるしな。魔法楽しみやわ」
いいな、僕これから学校なのに……。
爺婆全員が空島の門の内側に入れる権利。山爺が交渉した権利だけど、さすがに昨日今日でラスティくん残して、山爺が行くわけにはいかない。山爺はもうちょっと様子見してから行くことになった。
ラスティくんの状態が落ち着いたら、何かあったらスマホ呼びだしすればいいし。空島から走ればすぐに帰って来れるしね。ラスティくん家族と山爺分のスマホは吉爺がすぐに用意してくれた。
誤動作しないように、通信用アプリ以外は使えなくしたみたい。変なサイトにアクセスしてウイルス入れちゃうの、年寄りあるあるだからね。
権利貰ったのに、すぐに魔法を使えない山爺。せめてラスティくんのご飯は交代で作るって、ばあちゃんが言ってた。でも山爺は空島情報をターニャさんから聞き出せるので、まんざらでもないみたい。
「太一、時間だよ」
ぼーっと考え事してたら…時間ギリギリ。行ってきます!
「なにこれ?!」
学校から戻ってきた頃には雨は止んでいた。青と早速、空島に向かったんだけど、門を通ったら怪しい動きをしている集団が。雨ガッパ姿で穴掘りに勤しむ爺婆たち。
「ん?よぉ、いらっしゃい」
銀色の毛玉も穴掘りに参加していたのか、綺麗な毛にところどころ泥はねが。
「イーズ、こんにちは。みんなで何してるの?」
「話すと長いんだが」
「頑張って、イーズ」
イーズの話をまとめると……。
イーズは僕らのために、いくつか差し障りのない魔道具を持ってきてくれた。爺婆たちはいろんな魔道具を使えて、キャッキャッと楽しんだ。
その中に地中探査の魔道具があって、どうやらこの近辺の地下に、大きな空洞があるとわかった。
なんの空洞だろう。気になるね。水脈かな?お宝があったりして?それならイイネ!空洞までそんなに深くないみたいだ。なら掘って確かめよう。
あ、男爵ちわーっす。これからお見舞い?穴掘っていい?後で埋めるならいいの?わかった。男爵さん送るついでに道具調達や!では頑張って掘るぞ!←イマココ
埋蔵金探しじゃないんだから。なにやってるのさ。確かに気になるけど。
「こらっ、太一。まざろうとするな!」
「止めないで、青。もしお宝だったら、手伝わないと報酬の山分けに参加できない!」
僕の叫びに、一瞬ピタリ作業を止めた爺婆たち。そしてこっちを見てニヤリと笑う。あ、本気で参加しないと駄目なやつだ。
「ただの空洞に夢みすぎだろ」
「山師のまさ爺が嬉々として掘ってるんだよ、なにかあるよ!だって空島だもん」
「ハンターギルドに行かなくていいのか?」
「ハンターギルドは逃げないよ。それにイーズも穴掘りしたくてウズウズしてるから、どっちにしろ行けないよ。僕、家からシャベル持ってくる!」
「ついでに猫車も二台追加で持ってこい」
「はーい」
まさ爺に頼まれ、僕らはそれぞれ猫車にシャベルをのせて、エッホエッホと運ぶ。
村と空島の間の雑木林が、猫車が通れる幅で、なぎ倒されていることに今気がついた。
この道整備したほうがいいんじゃない?お見舞いで男爵さん達が通るし。山狩りもあるし、初夏の種まきもそろそろ。いろいろやることあるなぁ。
そして狼の本性なのか?御機嫌にシャカシャカ穴掘りしているイーズの横で、ちょっと疲れたのでノロノロシャベルを使う僕。
あれから二時間は経ってる。薄暗くなってきたよ。今日中に開通するの?晩ごはんも作らなきゃいけないし。明日学校休みだし、朝からやればいいんじゃないかな。
誰もが諦めかけていた。なので代表してまさ爺が再度、地中探査の魔道具で調べる。
「おっ。頑張れ、あと一メートルくらいだ。ラストスパート!」
まさ爺の号令で爺婆が一斉に動き出す。
「えっ?明日でよくない?開通しても、どうせ調査は明日でしょ?」
「あとちょっとだし、やり残しはスッキリせんからな」
爺婆の気合いのラストスパートでついに開通!
穴の中は本当に広い空洞があった。穴から全体は見えないから、よくわからないけど。
「調査は明日、日がのぼってから。そうだな六時に神社に集合。お参りしてから探索だ!」
「「「「おう!」」」」
夜間の門番さんが、穴を小さな城壁魔法で囲ってくれることに。落ちたら大変だからね。
今日も体動かしまくったので、修行は……昨日やってないから、やらないと駄目?
疲れたときにも修行は大切?持久力上げるいい機会?二時間休みなしで穴掘りできれば、あるほうだと思うけど?爺婆は四時間ぶっ続け?わかった。ご飯食べたらやるよ。今日も修行頑張ります。
最近ちょっと疲れることが多いので、ぐっすりよく眠れる。疲れは次の日に残らないのが救いだね。
おはようございます。休みだけど、早起きな僕です。今日は六時に集合なので、五時に起きてさっさと掃除して朝ご飯をかきこむ。
「ニャー」
「えっ。みかんもいくの?んー、入れてくれるかな。駄目だったら諦めてね。ちょっと知らんぷりして毛繕いしないで」
「太一、時間。茶碗洗いたいから、はよすませな」
「はーい」
今日のメンタイ卵焼き美味しかったです。
境内にはすでに人が集まっていた。村長と吉爺、探索に行けない山爺までいる。村長と吉爺も男爵との話し合いが一段落したから、穴探索に参加するんだ。
「太一、みんなで参拝だ」
「はーい」
僕はみんなの先頭に立って、いつもの拝礼をする。祓詞とか唱えたいんだけど無理。
だけど心を込めて。
神様今日もよろしくお願いします。
「よぉし、出発だ!」
村長の号令で、みんなでぞろぞろと空島に向かう。寂しそうな山爺またね。僕はバイバイと手を振った。
今日も来ました、空島に。
さりげなくみんなにまざって、みかんも入場。なんか言われるまで黙っとこう。
朝早いのにイーズもスタンバってる。ちょっと、昨日の泥はねのまんまじゃない?お風呂入ってないの?今日も汚れるから、いいんだって?よくないと思うけどね。
それよりさっさっと行こうって?待ってね。今縄はしごかけているから。イーズはその格好だとはしごを登れない?帰りは人に戻るから大丈夫?それで背中に服が入った、風呂敷背負ってるんだ。
獣人って人と獣で入れ替われるタイプなんだね。
人の姿のイーズがどんな感じなのか、かなり気になるね。
「よし、降りていいぞ」
村長の許可が出た瞬間に、穴に飛び込むイーズ。
高低差十メートルくらいだから、僕らも飛び降りられる。
縄ばしごは何って?イーズと同様に帰り用です。次々飛び込む爺婆に続いて僕ら年少組も飛び込む。
降りた先は薄暗い洞窟。僕らは持ってきた懐中電灯を、村長はかついできたポータブルガス検知器のスイッチを入れる。
ポータブルガス感知機は、鉱山などでおきるメタンガスによる酸欠を関知するための装置。最近の忍者はハイテクなのだ。
とりあえず、島の中心に向かって伸びている空洞を抜けていく。
みかん、歩くの面倒だからってイーズに乗らないで。バレバレだよ。しゃあねぇなって顔でイーズが肩を軽くすくめた。
爺婆達も本来は門の前までしか、許可されてなかったよね。
えっ。爺婆もフリーでよくなったの?いつの間に。昨日男爵さんが村にきたときに決まったのね。
途中で小さな地底湖があり、道が分断されていた。
泳ぎたくないなと考えてたら、みんなが端の壁にへばりついて横移動を始めていた。
とっかかりが少ないのに器用だ。僕には無理だな。
「乗れ、さっさと行くぞ」
同じく壁を渡れないイーズが、男らしく泳ぐことを選択したようだ。ありがたく僕らはイーズの背にのり、湖を渡った。
みかん、イーズの頭の上で寝ないで。湖に落ちたら怖いから。
湖を渡った先は、空洞から一転して人が手がけた洞窟になっていた。
「壁画があるな。これは空島と太陽?それになんの動物だろう。リスみたいだな」
「青、よく見て額に石みたいのがついてるでしょ。これはカーバンクルだよ、きっと。
ねぇ、さっきよりはお宝がありそうな雰囲気になってきたね」
「そうだな」
壁移動組がやってきたので、先に進もうとしたところで、キク婆から待ったがかかる。
「なにか聞こえる。爆発音みたいだね」
「ガス爆発なら、わしらも吹っ飛ばされているはずだ。とりあえず用心して行くか。懐中電灯は消しておけ」
僕らはゆっくり、そしてひっそりと爆音がするほうへと歩いていく。
だけど、さっさとこいと、みかんが先頭に立って駆け出したので、慌ててついていく。
少し先から明るい光が見えた。そこから爆音が聞こえてくる。
「いい加減に諦めろ!この獣め!お前のほうが先に魔力切れになるのはわかっているだろう!」
爆音の合間に低い男の人の声が聞こえてくる。
そっと覗いてみると、少し先は広間になっていた。その広間は空島が落下してきたときと同じく、青い球状の透明な幕で包まれている。
その中で青い幕に向かって、ドッカンドッカンと火魔法っぽいのが当てられ、その度幕が揺れる。
広間には二人の男の人と、さっき壁画で見たカーバンクルっぽい小型の獣がいた。
「ああ、頭にくる!絶対ぶっ飛ばす!」
一人の男の人は弱っているのか、床に転がってる。もう一人の男の人が魔法爆音犯で、さっきから騒いでる人。
魔法の当て先にいるのは、青い幕に守られているピンクのカーバンクル。この広間の奥にいる。
カーバンクルの背後には大きな水晶と歯車で構成されたなんらかの装置がある。
カーバンクルが装置を守りつつ、男の人達をこの広間から出さないように、バリアを張っているように見える。
カーバンクルの額の翠の石が、ゆっくりと点滅している。カラータイマなの?
「ニャー!」
みかんが大きな声で鳴き、青の幕を引っ掻く。
行け!のゴーサイン。
それを見たカーバンクルがパタリと倒れ、青の幕が消える。
「やっと魔力切れ……っ!なんだてめぇは!」
カーバンクルに気を取られていた男の人に、僕は小太刀を抜いて斬りかかったが、避けられてしまう。
「呼ばれもしないけど、僕参上!」
「しゃらくせぇ!火……って!」
すかさず魔法を放とうとした腕に、青のクナイが刺さる。
「おい、そっちやつを倒すのであっているのか?カーバンクルじゃなくて」
イーズが聞いてくる。
「みかんがそう言ってる」
「猫任せかよっ!」
「うちでは狛犬じゃなくて、猫又なんだよね。神様のお使いは」
魔法ぶっぱなしの人が青筋立てて怒ってこっちを睨みつける。
「なんなんだよ、お前らは!やっとカーバンクル倒して、ここから出られると思ったのに……魔人の俺様とやる気か?手を引くなら見逃してやる」
「イーズ、魔人ってこの世界だとどうなの?敵対勢力?」
「そうだ。魔人は魔力が桁違いに多い化物で、暴れまくる災害みてぇなもんだ」
化物か…。さてどうしよう。
青がクナイを懐にしまいながら、キレ気味の魔人に聞く。
「災害?凄いな。
魔人のお兄さん、大変だったね。どのくらいここにいたんだ?」
「あぁ?三日だ!」
「三日も?ずっと魔法ぶっぱなしてたのか?」
「そうだ。だからなんだよ!」
「ということは、お兄さんも魔力はかなり減ってるし、寝てないから集中力もない。魔法を紡ぐ前に潰せばいいのか」
「なんだとぉ!」
さすが青。
魔人が魔法を発動しそうになったら攻撃入れて、気を散らせばいいんだね。
イーズも加わり、三人で魔人に連続攻撃。魔法を構築させる暇を与えない。小太刀やイーズの牙で、ちまちまと魔人に傷をつけていく。
イーズいわく、魔人ってかなり頑丈なんだって。
そもそも魔人は、大量の魔力を使って召喚される召喚獣のポジション。魔人もまた別世界の住人。
でも人なんだよね。魔人って。急所も同じくだし、同じ関節に何度も攻撃差し込めば、ぽきりといくもんだよ。
爺婆たちは高みの見物。
勘違いしちゃいけないのは、僕ら強くて魔人が弱い訳じゃない。カーバンクルが頑張ってくれたからなんだよね。
本来は魔法発動めちゃくちゃ早くて、完全に魔法を発動させないなんてできやしないって、後で聞いた。
「これで終わり」
動けなくなった魔人の眼窩に、小太刀を突き刺した。すぅっと魔人が溶けるように消えていく。
元の世界に還っていったようだ。
「お前ら、よくやった」
村長に珍しく褒められた。
「こっちの男は弱ってるが生きている。カーバンクルもな」
竜爺が床で倒れている人を、かつぎながら言う。
「男は男爵に引き渡し、カーバンクルは魔力が切れたって言ってたから村で預かるか。それでいいか?」
村長がみかんに聞くと、みかんは「ニャー」とひと声ないた。
「それでいいって」
僕がそう通訳すると、洞窟を調査していた爺婆たちが帰ってきた。
「こっちの道の先から、下水道に出る穴が開いてた。たぶん街に通じているだろう。こっちから帰るほうが楽だな」
そうだね。戻ると地底湖越えなきゃいけないし。
でも下水道も臭そう。悩むね。
どっちにするか僕が考えている間に、もうみんな下水道に向かって歩いていた。
結局お宝はどうなったんだろうね。




